「ムショ」は「刑務所」の略?いえ、違います【知って得する日本語ウンチク塾】

刑務所は、その昔なんと呼ばれていたか?

「監獄」から「刑務所」に改称されたのは1922年

 

「刑務所」は古くは「監獄」と呼ばれていました。それが「刑務所」に改称されたのは、1922年(大正11年)のことです。ところが1922年以前に、「むしょ」という語を載せている辞書が存在するのです。

『隠語輯覧(いんごしゅうらん)』という辞書で、1915年(大正4年)に京都府警察部が発行した、盗人(ぬすっと)や、縁日などに店を出している的屋(てきや)の仲間などの隠語を集めた辞書です。この辞書に、盗人仲間の隠語として「監獄」を「ムショ」と呼んでいたと記載されています。

牢屋を虫かごに見立てた?

 

では、「ムショ」とはいったいなんだったのでしょうか。一説に「虫寄場(むしよせば)」からだといわれています。

「寄場」は牢獄のことですが、「虫」についてはふたつの説があります。

ひとつは牢屋(ろうや)のことで、牢が虫かごのようであるところからという説。

麦めしが由来という説も

刑務所の主食の麦飯。「麦:米」の割合が6:4だった

 

もうひとつは盗人仲間の隠語で『六四』の字を当てて、牢の食事は、麦と米が六対四の割合であったところからという説です。この「ムシ」が「ムショ」になった可能性があるのです。

いずれにしても、「ムショ」は「刑務所」の略ではないようです。

 

『隠語輯覧』には、見出しの「むし」に<【六四】監獄>とあり、麦飯の割合の記述がある他、下段には、「むしよ」で、<監獄 類語「むしよせば」ノ略>とある

 

 

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)が好評発売中。

 

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