浄土宗とは? 宗派の教え、葬儀のマナー、浄土真宗との違いも解説します

同じ仏教でも、宗派によって葬儀の流れや参列のマナーが異なることはよくあります。葬儀に参列する際には、宗派の特徴をあらかじめ調べておくと安心です。浄土宗の教えや葬儀の内容、名前のよく似た浄土真宗との違いを解説します。

浄土宗とは

浄土宗は、いつ誰によって開かれたのでしょうか。開宗から現在までの歴史と、有名な浄土宗の寺院を紹介します。

仏教の宗派の一つ

浄土宗は、平安時代末期に「法然(ほうねん)」が開いた仏教の宗派です。2024年には開宗850年を迎えるほど、長い歴史を誇ります。

浄土宗の総本山は、京都市にある「知恩院」です。大本山(総本山に次ぐ寺)の一つである東京都港区の「増上寺」には、徳川将軍家の墓所があります。

また、京都市左京区の「金戒明光寺(こんかいこうみょうじ)」は、新撰組発祥の地として有名です。

現在、浄土宗は大きく「鎮西派」と「西山派」の二大勢力に分かれています。ただし、一般的に浄土宗と呼ばれている「宗教法人浄土宗」は、鎮西派を中心として一つにまとめられたもので、西山派は属していません。

浄土宗の歴史

浄土宗の開祖・法然は、1133年に美作国(現在の岡山県)の豪族の息子として生まれます。父の死をきっかけに、幼いうちから叔父が僧侶をしている寺に預けられ、学問に励みました。

法然の才能を見抜いた叔父は、彼を日本の仏教の中心地・比叡山延暦寺へと送り出します。若く優秀な法然には、エリート僧への道が開かれていました。

しかし、法然は出世よりも仏道を究める道を選び、比叡山の奥まった場所で、ひたすら経典を読む毎日を過ごします。その後、法然はついに一つの結論にたどり着き、比叡山を出て自らの宗派を開くのです。

法然の死後、浄土宗は教義への解釈の違いから分裂や統合を繰り返し、現在に至っています。

浄土宗の教え

浄土宗の教えは、「専修念仏(せんじゅねんぶつ)」といいます。法然は「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えることで、誰でも阿弥陀如来の慈悲を受けられると説きました。

当時、世間では疫病や飢饉などが頻発し、庶民は苦しい生活を強いられます。その一方で、人々を広く救うはずの仏教は、上流階級のものとして民衆にとっては遠い存在でした。

一般庶民は日々の暮らしに精一杯で、修行や学問に割く時間も、経済的な余裕もなかったのです。

しかし、念仏を唱えるだけなら誰でもできます。法然の教えは苦しんでいた庶民に広く受け入れられ、全国へ広まっていきました。

浄土宗の経典

浄土宗では、三つの経典を根本としています。「浄土三部経」と呼ばれる経典について、概要を見ていきましょう。

無量寿経

「無量寿経(むりょうじゅきょう)」は、仏教において特に重要とされている経典です。

仏教の祖である釈迦自身が、この経典の内容を説くために生まれてきたと語ったという文言も含まれています。

釈迦は「無量寿経」で、阿弥陀如来の「本願」や極楽浄土の存在に触れています。本願とは、阿弥陀如来が仏になる前に立てた、人々を救うための約束のことです。

阿弥陀如来が本願を達成するまでの厳しい道のりや、全ての人々を救おうとする慈悲の心、念仏で極楽浄土へ行けることなど、浄土宗の教義の基本が書かれています。

観無量寿経

「(仏説)観無量寿経(ぶっせつ  かんむりょうじゅきょう)」は、「王舎城の悲劇」と呼ばれる物語を題材に、念仏の大切さを説明した経典です。

「王舎城の悲劇」は、子どもを授かるために人を殺した王が、成長した子どもにひどい目に遭わされ、自分の行いを反省した後に釈迦によって極楽浄土に導かれたという話です。

釈迦は王の生涯を通して「定善(じょうぜん)」「散善(さんぜん)」と呼ばれる、自分の悪行を認識するための方法を示し、念仏のありがたさを強調しています。

定善とは心安らかに阿弥陀如来や極楽浄土を想う行為で、散善は善行を積む行為のことです。定善には13通り、散善には3通りの方法があることから、「定散十六観」と呼ばれています。

仏説観無量寿経

阿弥陀経

「(仏説)阿弥陀経(ぶっせつ  あみだきょう)」には、「南無阿弥陀仏」について記されています。南無阿弥陀仏は、阿弥陀如来が人々を苦しみや不安から解き放つために伝えた名号です。

生きている間に「なむあみだぶつ」と一心に唱え続けることで、死ぬときに阿弥陀如来が現れ、極楽浄土へ導いてくれると説いています。

また、極楽浄土の荘厳な様子や、往生した人は阿弥陀如来の庇護のもと、何の苦労もせず楽に過ごせるということも記されています。

浄土宗と浄土真宗との違い

浄土真宗は、法然の弟子の「親鸞(しんらん)」が開いた宗派です。基本的な考え方が同じで名前も似ているため、浄土宗と混同している人も少なくありません。両者の違いを簡単に解説します。

浄土真宗の特徴とは

浄土真宗と浄土宗の大きな違いは、以下の2点です。

・念仏に対する考え方
・戒律

親鸞は、阿弥陀如来を信じる気持ちを重視しました。このため、念仏を唱えなくても阿弥陀如来を信じてさえいれば、極楽浄土へ行けるとしています。

また、浄土真宗は他の宗派ほど戒律が厳しくありません。僧侶が禁じられていた肉食や妻帯も自由で、開祖の親鸞にも妻子がいました。

浄土真宗は独立した宗派であるため、掛け軸・仏壇・葬儀内容も浄土宗とは違います。弔問や会葬の際は間違えないように、よく確認してから出かけましょう。

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浄土宗の葬儀の特徴や流れ

葬儀に参列するときは、宗派独特の作法をあらかじめ知っておくと安心です。浄土宗の葬儀について、特徴的な儀式や流れ、持ち物などを解説します。

葬儀の特徴

浄土宗では葬儀中に、「念仏一会(ねんぶついちえ)」と「下炬引導(あこいんどう)」が行われます。

「念仏一会」は、参列者一同が「南無阿弥陀仏」を一定時間唱える儀式です。故人が阿弥陀如来の救いを得る手助けをする意味と、参列者が阿弥陀如来との縁を結ぶ意味が込められています。

下炬引導は、故人が仏門に入る宣言をする儀式です。僧侶はまず松明や線香など、燃えているものを2本持ち、1本を捨てます。残りの1本で円を描きながら引導文を述べ、故人を極楽浄土へと送ります。

なお、「下炬」とは火葬のための点火を意味する言葉です。

阿弥陀如来像と浄土宗の仏具

葬儀の流れ

浄土宗の葬儀は、基本的に以下の流れで行われます。それぞれの意味も合わせて見ていきましょう。

1.入堂:僧侶入場
2.香偈(こうげ):心を清らかにするために香をたく
3.三宝礼(さんぽうらい):三宝(仏・法・僧)への礼拝
4.奉請(ぶじょう):阿弥陀如来や釈迦如来など諸仏の入場
5.懺悔偈(ざんげげ):諸仏に生前の罪を懺悔し、許しを請う
6.転座(てんざ):僧侶が本尊から棺へ向き直る動作
7.下炬引導
8.弔辞、弔電の読み上げ
9.開経偈(かいきょうげ):誦経開始宣言
10.誦経(ずきょう)と焼香
11.摂益文(しょうやくもん):念仏の重要性を確認する文が読まれる
12.念仏一会
13.回向(えこう):念仏の功徳を故人の霊に捧げる
14.総回向(そうえこうげ):念仏の功徳を受け、故人の往生を願う
15.総願偈(そうがんげ):仏道修行の成就を願う
16.三身礼(さんじんらい):阿弥陀如来の功徳を称える
17.送仏偈(そうぶつげ):諸仏をお送りする
18.退堂:僧侶退場

参列者が直接かかわるのは、焼香と念仏一会のときです。僧侶が退場した後は、棺の中の故人と対面して出棺となります。

浄土宗の葬儀のマナーは?

焼香の作法や香典袋の書き方について、浄土宗ならではの決まりは特にありません。

焼香の回数や線香の立て方などは、同じ宗派でも寺によって違うことがあるため、不安な人はあらかじめ葬儀社に問い合わせるとよいでしょう。

数珠は宗派によって形式が決まっており、浄土宗でも専用の数珠を用います。浄土宗の数珠は、念仏を唱えた回数を数えられるようになっているのが特徴です。玉数の違う二つの輪を組み合わせてあり、片方の輪に房が2本付いています。

ただし、信者でない人が葬儀に参列する場合は、宗派専用の数珠でなくても問題ありません。数珠を振り回したり手でこすり合わせて音を立てたりせず、大切に扱うことを心がけましょう。

浄土宗への理解を深めよう

浄土宗は平安から鎌倉へと、時代が大きく変わる時期に開かれました。不安定な政情の中、厳しい生活を強いられる人々を救いたいとの法然の思いは、長い時をこえて現代にもしっかりと受け継がれています。

日頃はあまり仏教にかかわりがない人も、葬儀への参列を機会に、浄土宗への理解を深めていきましょう。

参考:浄土宗【公式サイト】

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構成・文/HugKum編集部

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