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tupera tuperaのおふたりが子育てで大事にしていることは?
活動20周年となるtupera tuperaさん。ビビットな色彩も印象的な「かおノート」(コクヨ)や、“すっぽーん”でお馴染みの「やさいさん」(学研教育出版)、作家の湊かなえさんも激推しする「パンダ銭湯」(絵本館)など、子どもも大人も夢中になるユニークなアイデアと楽しい仕掛けが詰まった絵本は、みなさん一度はどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか?
おふたりはこの夏、座・高円寺で公演された舞台「ピン・ポン」の演出、美術も手がけられ、ご多忙ななか、インタビューのお時間をいただきました。
「子どもに向けては作っていない」と話す、ご夫婦でもある亀山達矢さん と中川敦子さんに、実際のお子さんとのご家庭のことから、今の子育て環境に思うことまで、たっぷりとお話を伺いました!
「世の中には、こんなにいろんな楽しいことをしている大人がたくさんいるんだよ」
HugKum編集部:多くの人気作品を生み出し続けているツペラ ツペラさんですが、自身のお子さんに接する際に、意識されていることなどはあるのでしょうか?
中川:私たちの場合は、アートの分野で生きているので、友達も含めて自然に周りにもクリエイターの方たちがたくさんいる環境があるんです。なので、一緒に美術館へ行ったり友達の展覧会を見に行ったりしますが、アートを生活に取り入れようとか触れさせてあげようとか、逆に意識はしてないかもしれません。
でもそれは我が家に限ったことではなくて、例えば親がすごくスポーツ熱心だったら小さい頃から野球を見に行ったりと、その家庭の環境の中で自然に経験していくことってありますよね。
亀山:基本的に僕らは、自分たちが作ることで楽しんでいて、それをやっているだけなんです。子どもをどう育てたいとか、導きたいみたいなものは全然なくて、アートという分野に関しては特に、ただ僕らが楽しんでいる。こっちが楽しんでいて、あとは勝手に見ながら育ってっていう感じなので、子どもたちにはそれぞれ好きな方向にいってくれればいいなと思っています。
HugKum編集部:お子さんたちは、お父さんお母さんの楽しんでいる様子を常に見ているんですね!
亀山:もちろん子どもたちのためにも、僕のできることはやりますよ。この間も娘がBTSのオンラインコンサートを見たいと言うので、「よし!じゃあ俺がチゲ鍋と、うちわ作ってやる!」って。それですごくいいうちわができたんです!娘は微妙な顔をしてましたけど(笑)。
HugKum編集部:素晴らしいですね…!まずはやっぱり親が楽しくないと!
中川:そうそう。だからやっぱり無理があるといけないかな。それこそ子どもが小さい時に、教育方法とかアートの情操教育だとか、いろいろ情報がある中で、自分が興味をもって楽しめたらいいんですけど、子供ために良い教育を!と無理に頑張ってそこをやる必要はないですよね。
亀山:世の中には愉快な大人がたくさんいるのに、子どもの頃にそういった大人のバリエーションを見る機会が少ないんですよね。本当は小学校で、いろんなバリエーションの“楽しい大人”をいっぱい見せたらいいと思うんです。世の中にはこんなにいろんな大人がいて、いろんな楽しいことをしてますよっていう“大人になる授業”があるといいなと。それを知らずに算数の授業をしても意味がなくて、最終的な目標ために算数の勉強が必要ということですよね。僕ら自身は、アートで楽しんでますよ、それを通じて友達がいっぱいできましたよっていうのは見せたいと思っています。
HugKum編集部:ツペラ ツペラさんのお子さんは、そういう意味でも小さい頃から素敵な環境にいらっしゃいますね。
中川:全然です(笑)。
亀山:僕らは基本的に家では何もやらないですよ。こういうBTSみたいな時と、節分だけです…(笑)。
中川:誕生日もなんとなく前日に慌ててちょっとカード作るみたいな(笑)。
ツペラ ツペラさんの絵本は“コミュニケーションツール”
HugKum編集部:ツペラ ツペラさんは日々“もの作り”と向き合われていますが、作る上で大切にしていることはありますか?
亀山:まず、子どもに向けていない。絵本は子供から大人まで楽しめるし、ありとあらゆる絵本があるので、大人にこそ響くものだってあるわけで…。僕はいつもイヤだなと思うのは、書店に行くと「子どもの本はこっち」って書いてあるんですけど、「いやいや、大人も読んでいいものじゃん!」と思います。どうしても「絵本=子ども向け」という思い込みがあるんですよね。
大人こそ絵本の面白さに気付かなければいけない
亀山:子どもは、そこに石ころがあるだけでも遊ぶ方法を考えられるので大丈夫なんですけど、大人が大事ですね。子ども経験者である大人が、絵本の面白さに気付かなきゃいけない。僕らは決して自分たちの中で、誰かに向けてとか、子どもに向けて、ということは考えていなくて。演劇の制作もそうですけど、いろんな人やいろんな業種の人たちと組んで「もの作りって楽しいね」と思いながらやっています。そしていろんな人のいろんな感想が楽しい。受け取り方もバラバラだし、好きな絵本も人によって違うから、僕らもその方々の反応を味わっている感じです。
HugKum編集部:絵本などで、これまでで特に印象的な感想はありますか?
中川:ツペラ ツペラの本は、お父さんたちもけっこう喜んでくれてるみたいです。子どものために頑張って読み聞かせしなきゃ、という感じで読むのではなく、子どもと同じ目線でああだこうだって感想を言い合えたり、楽しいねって共感して笑い合っている感じ。「そうやって読めるのが、すごく嬉しいんです」って何人かのお父さんから感想をもらった時は嬉しかったですね。そういう部分がもしかしたら私たちの良さなのかもしれません。
HugKum編集部:大人も楽しめるオモチャみたいな。まさにツペラ ツペラさんの絵本は、これまでのジャンルになかった立ち位置だと感じます。
亀山:頻繁に言っているのが、僕たちの絵本は“コミュニケーションツール”。僕らの絵本みたいに文章が短いと、それをどう読むかにかかってくるので、驚かしたり、「すっぽーん!」というのをどう言うか、読み手がどう読むかによって作品が変化するので、余白が多い本なんですね。お父さんが、どう入るかによって変わる。だから読み手が楽しい。
HugKum編集部:まさにそうですね!
亀山:だから、寝かしつけには向かないですよね(笑)。基本的に本は使うものというか、僕らは一番初めが雑貨作りから始まっているので、そういった“プロダクト”としての要素が強いんです。
HugKum編集部:その辺りが、ツペラ ツペラさんの絵本が他の絵本と一線を画す理由かもしれません。ご自身では、なぜこんなにも広く受け入れられていると思いますか?
亀山:ややこしくないからでしょうか(笑)。びっくりしたり、ゲラゲラ笑ったり…一瞬で何か感情が起きるというか。
中川:ぱっとわかりやすい絵と言葉。絵本は、独りよがりの表現ではなくて、ちゃんと相手に伝わるということが大事だと思うので。
亀山:あとこれは絵本だけに限らず、何かメッセージを込めなきゃというのを2人ともあまり意識していないです。僕ら自身、メッセージを発信するのが好きではないというか得意でなくて…。
中川:どちらかというと私たち自身も、深く学んで感銘を受けるというよりも、何かパッと目に飛び込んでくるものだったりとか、そういった感覚が好き。それは単純に裏が何もないということではなくて、意外とそういうことが大事かなと思っているんです。絵本だったらパッと開いた時に、内容に関わらず美しいと思えるかとか、心に響いてくるかとか。
中川:でも、自分たちではあんまり分析ができてないんですけど(笑)。
HugKum編集部:初期に絵本を作ってみようと思った頃に、一番大切にした部分はあったのでしょうか?
亀山:自分たちの意図ではなく、読み手が勝手に解釈するのが面白いんです。この間も読者の方から、「『やさいさん』を読んだお陰で、野菜が食べれるようになりました」というメッセージをいただいたんです。1歳半の息子さんが、やさいさんの絵本が大好きで、「やさいさんのたまねぎさんだよ」って伝えてたまねぎを食べさせたら、おいしいと喜んで食べてくれたと。
僕は逆に、「好き嫌いは20歳ぐらいまであっていいんですよ。全部食べれるようになっちゃうと、つまらない。なので、1歳半で悩む必要はないよ」っていうお返事をしたんですけど(笑)。こんな感想は、すごく嬉しいですよね。
中川:好き嫌いがどうかということではなくて、お母さんが離乳食からずっと悩んできた時間を考えたら、私たちの絵本が、親子で食を楽しめるきっかけになったということが、本当に嬉しかったです。
亀山:絵本で「これは食育のために考えたんですか?」って言われたら、「まぁそれでもいいかもしれないですね」と答えます。人によって解釈するポイントが違うので、メッセージをこちらが決めてしまうと、それが伝わらないとか伝わるという話になってくる。僕らはあんまりそれが好きではなくて。
HugKum編集部:見る人にある程度委ねられる余白があるというのは、子どもが育っていく上で大切なことかもしれないですね。
美術やアートも「どれも素晴らしいと思いなさい」ということでは決してない
HugKum編集部:今回「こども×アート」という連載ですが、日本はアートというものが徐々に年齢とともに離れていって、敷居の高いものに変わっていってしまう感じがします。
中川:例えば美術館も、もっと自由に見られたりするといいですよね。特に日本は見ていく順番も1から決まっていたり、別に順番通りに見なくてもいいし、全然心に響かなかったら素通りして、気に入った作品があったらその作品をずっと見ていてもいい。もっと本当は観ながら喋りあって、それこそ「お母さんはこれが好きだよ」とか「面白いね」とか言っていいと思うんです。
私たちが作っているような絵本が美術館で展覧会をできるようになってきたのもここ数年なんですけど、美術館にあるものを“何かすごいもの”として見に行くのではなくて、例えばピカソだって、絵が好きなおじさんだと思って見たり(笑)。巨匠だから素晴らしいと思いなさいよ、っていうことでは決してないので。
HugKum編集部:本当にその通りだと思います。
亀山:あと僕が思うのは、先ほど話していた「大人を見せる授業」に加えて、「デザイン」をもっと深く世の中の人が理解した方がいいと思います。みんな何気なく“モノ”を使っていますけど、人工物には100%デザインが施されていて、人が人のことを考えながら物づくりがされていますよね。
小学校でも、教科書を渡す前に、製本所に連れていった方がいいんじゃないかなと。あたりまえのように本があるわけではないですよね。物作りをしていてよかったのは、ふと手に取ったものが「これはここを考えて作ったんだ」とか、誰かのそうした気遣いが入っているのを感じられること。そういうのって、やっぱり楽しいなって思うんです。
HugKum編集部:そういったところに思いを巡らせられるかどうかって、大きな違いかもしれませんね。子どもの想像力が豊かになる一助になる気がします。tupera tupera さんのお話には、たくさんの示唆がありました。ありがとうございました!
お話を伺ったのは
HugKumではARTに関する記事をシリーズでお届けしています。
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紙の世界は、デジタルの世界とは違い、実際に触れることができる”実体験”に満ちています。紙で遊びながら、想像力を膨らませ、工夫したり、創造する喜びを味わえる、そんな体験型ムックの第6弾です。約16種類の手触りの違う紙、表紙や付録の特殊な加工や印刷、そして、日本を代表するブックデザイナー、祖父江慎さんによる、アートディレクションにも注目!
文/富塚沙羅 ディレクション/中川ちひろ 撮影/五十嵐美弥 構成/HugKum編集部 取材協力/座・高円寺