勉強が好きになる「自学ノート」って?“自学指導の達人”小学校教諭の森川正樹先生に子どもを導くコツを聞いた!

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森川正樹先生

新学習指導要領の主眼「主体的・対話的で深い学び」の一端を担うのが自主学習です。最近、宿題として「家庭学習ノート」「自主学習ノート」作りに取り組んでいる小学生が増えています。でも、子どもたちは「何を書いていいかわからない」保護者も「どう取り組ませればいいか悩む」と親子共にとまどっているという声も。
そこで今回は、『小学生の究極の自学ノート』の著者である関西学院初等部教諭の森川正樹先生に、子どもが自ら学習する=自学に取り組むようになるコツを伺いました。

「自学ノート」で学びが遊びになる経験を

――森川先生は子どもが自ら学ぶ「自学」に長年取り組まれています。そのツールである「自学ノート」を最初に取り入れようと思った経緯をお伺いできますか。

僕の中に、「学び=極上の遊び」だと提示したい気持ちがずっとありました。学校で先生に教わることだけではなくて、自分が興味を持ったものを調べていくことだって学びです。小学生くらいの子どもって、なんでも遊びにする天才なんですよ。「自学」に熱中してくれれば、「学び」で「遊び」を感じてもらえるだろうという思いがありました。

「自学ノート」は学びの自己完結ができるため、小学校やご家庭で導入するにはとてもふさわしいと思います。さらに今回、コロナ禍でも学びを止めないためのツールとしても役に立ちました。ご家庭でも、テーマさえ変えていけば、どんどん工夫しながら学びを自己循環させることができるので。

--具体的にどういったメリットがあるとお考えですか。

大きく3つあります。ひとつめは、シンプルなんですが「勉強はさせられるものではない」という感覚をある程度得てくれることです。自学ノートをやりだすと、味をしめた子はどんどん自分から書いていきますから。そこまで到達したらすごくいいですよね。

そして、できた自学ノートには評価をつけているので、それによって「認められる喜び」を得ることです。「勉強しなさい」と言ってもなかなか子どもが机に向かってくれない、という保護者の方はたくさんおられますよね。自学ノートは、作る喜びもありますが、できたものを見てもらったときの保護者や教師のリアクションや評価を子どもたちはとっても楽しみにしているんですね。そうした喜びを得て、またやろう、と机に向かう。素直に机に向かって勉強する癖がつくんですよ。

あとメリットの最後は、何にでも興味を持って追求したり調べたりするので、知的好奇心が増すということですね。いろいろと調べるうちに探究心が湧いてきて、次に自分が書きたいテーマは何だろうというふうにいろいろ自分で探して、考えるので。やはり知的好奇心はすべての出発点なので、このメリットは大きいと思います。

自学ノート

――とはいえ、いきなり「自学」といっても抵抗感を示す子どももいるかもしれないと思うのですが、最初はどういう声かけをして促すのがよいでしょうか。

一番いいのは、子どもたちに自分の好きなものを聞くことです。「自学ノートをやろう」とかそんなことは一切言わずに、例えば「何か今、好きなものはある?」と聞いていく。「好きなスポーツは?」「好きな食べ物は?」などと聞いていけば、必ず好きな何かは言えるんですね。

「今日はその好きな何々について勉強しよう」と言えば、「えっ、好きなことをやるのに勉強になるの?」と子どもはびっくりします。こういう入りが一番いいですね。「自分が興味を持っているものだったら何でもいいよ。それをまとめていくことで勉強になるから。楽しくやろう、遊ぼう!」という感じです。

大事なのは子どもに日常から気持ちよくしゃべらせること、そしてひたすら傾聴することですね。好きなことを得意げにしゃべって、それを聞いてもらえる相手がいる環境がある子というのは、そのことを自学ノートの紙面に落とし込みやすいんですよ。なので、とにかく自分のお子さんが興味を持ったことに関して、もう100回聞いた話だとしても(笑)、何回でも聞いてあげて、気持ちよくしゃべらせてあげることがすごく大事ですね。

図鑑や絵本を与えるのもいいと思います。自学というのは書き言葉であるので、活字の中に入り込んでいくことも必要なんです。日頃から本という媒体に触れていると、活字慣れしていたり、調べるのが上手だったりします。紙の本でなくても、iPadの図鑑のアプリなんかでもいいと思いますよ。

自学ノート

――例えばうちの息子は大好きなアニメ作品があるんですが、テーマはそういったものでもいいんですか。

アニメやゲームが好きな子どもは多いですよ。ただ僕たちがうまく回避してやりたいのは、コミックのコピーを貼るだけとか、好きなキャラクターのイラストをただいっぱい描いていくとか、そこに終始はしたくないですよね。

「できた」という事実を残すということはすごく大事。ただずっとそれではいけないので、例えばアニメなら、心に刺さるセリフってあるじゃないですか。お気に入りのセリフを書いていって、最後にセリフをまとめた感想も書けたらそれがひとつの学びになる。そういうふうに持っていってやるのが保護者とか僕たち指導者の仕事ですよね。

家庭で自学ノートに取り組むコツは

--書いていくうちにネタがなくなってくることもありそうですが、そういうときはどうすればいいんでしょうか?

自学ノートを作る段になってネタを探していくのではなく、日常がネタ集めという感覚で過ごさせる方に持っていった方がいいと思います。親子間の会話の中で、これはネタになるよね、ということをどんどんお母様お父様が、お子さんに言ってあげたらいいんですよ。

例えば動物園に行ったときに「ライオンについて書けそうだよね」とか「このパンフレットを切り抜いて貼ったらいいんじゃない」とか。

なんでも自学のネタにする目で歩くようになるといいですよね。その最初の仕掛け人は保護者の方なので。

僕がよくやっているのは、ネタの一覧表を与えて、その中から選んでもらう方法です。本の巻末にも「『見開きまとめ』のメニュー」というものを載せているので、参考になさってください。

――なるほど。自学ノートを上手にまとめるコツはありますか?

シンプルに言うと、上手になっていくプロセスを、ひとつずつ子どもに達成させていくということ。

例えば一番最初に「タイトルを書く」ということを教えるならば、まずはタイトルのみで評価する。それから、小学校低学年の子どもは絵を描くのが好きな子が多いので、タイトルの次は真ん中に大きく絵を描く。「真ん中ドカーン作戦」と名付けているんですが(笑)、真ん中にドカーンと絵を描けたらOK。そういったテクニカルポイントをひとつずつ提示して、それができればOKということで一歩ずつ進めていくんです。

森川正樹先生

それから「完成を急がない」ということもすごく大事。最初から完璧なものが書けるわけじゃないし、1個できるごとに褒めてあげるぐらいがいいと思います。

--評価を付けるのって、親子だとなかなか難しいですよね。

評価をするということは、指導のポイントが明確であるということ。一番いいのは、指導の観点と評価がちゃんとセットになっていることですね。

例えば今日はタイトルを頑張って書こうね、と言って書かせた場合は、タイトルを評価してやる。次に、絵を見開きの二つのページにまたがるように大きく元気にドカーンと描こう、と言ったときに、ちょっと小さい絵だったら、「お母さんの手のひらよりちっちゃいよね。お母さんの手のひらより大きく描こうか」と言ってあげる。逆にちゃんと大きく描けていたら、「よく描けていてすごいね」という評価になる。そんなふうに、僕は必ず評価のポイントを明確に伝えます。

あと、小ネタなんですが、自学ノートの表紙にご褒美シールを貼ってあげるんですね。数が増えていく感覚が子どもたちはすごく好きなんです。評価に応じて表紙にペタペタとシールを貼っていくと、ノートがデコレーションされていって、宝物になっていきますよ。ご家庭でもできるコツだと思います。

自学ノート

――ほかに、自学ノートを家庭でやる場合のコツはありますか?

とっても大事なのは、できれば自学のイメージを早いうちにお子さんと親御さんが持つということ。僕が自学ノートの本を出したいと思ったきっかけはそこなんです。

要は自学のイメージを早く実物で全国の子供たちに伝えたかった。つまり、これを見ることで憧れを得て、「こんなノート作ってみたい」と思ってもらう、そのために作ったんです。できるだけ本物の自学ノートと大きさも同じで、カラーで見開きで見られるということにこだわりました。

これを見せるだけで子どもたちが圧倒的に変わります。本当にそれだけで、子どもたちは見よう見まねでやっていくことができます。

今回の本に指導者の方や保護者の方向けの別冊をつけているんですが、そこに今お伝えしたタイトルやイラストの描き方、評価の仕方などを項目別に分けて書いてあります。自学ノートのポイントを子どもも指導者もわかっていることが大事ですね。

――家庭でもできるのがいいですよね。

もうひとつおうちでできる工夫としては、「できた」という達成感を早く得られるようにすること。

例えば最後まで書ききれなかったとか、途中で諦めてしまったという事実を絶対作りたくないんですよ。そうなるともうやりたくなくなってしまうので。最初は「紙面が埋まる」ということを目的として、マス目の大きなノートを使うのがおすすめです。

小学校5年生、6年生ぐらいは1センチマスのノートを使っていくんですが、1年生2年生はもっとマス目が大きいものを使ったほうがいい。

たとえ学年が大きくても、ノートをまとめるのが苦手なお子さんの場合は、マス目の大きなノートをあえて買ってきてあげてもいいと思います。戦略的に、お子さんの取り組む度合いに応じてマス目の大きさを変えるのがいいですね。

自学は自由に紙面をデザインできる極上の遊び

――最初は指導者や保護者の導きがかなり大切ですね。

進めるうちにわかってきて、だんだんと羽ばたいていくので、自学とはいえ最初のうちはどんどん声かけしてあげたほうがいいですね。むしろ、わからない子にはもう「これを書きなさい」と躊躇なく教えてあげていいです。

やっぱりみんな最初はイメージができないから書けないんですよ。だからわかりやすい方法としては、ほぼ何も指導せずに、いったん見開きのこの2ページにまとめてごらん、とやらせてしまう。そうしておいて、この本を見せたら、2回目からすごく変わるんです。

――本を見て、人によって自学ノートはこんなに違うんだと驚きました。

本にも載っていますが、ポップアップ絵本のようにした子もいました(笑)。一応のルールとしては「ちゃんと閉まること」にしているんですよ。なので、開くと立体的ではあるんですが「閉まるから大丈夫」って。

そうやって見開きのルールを逸脱するぐらい書いている子もいるんですが、本人が書きたいと思って書いていないと、そんなことはできないので、これはもう尊いことです。要は、自学が遊びになったという証拠ですから。

自学ノート

――すごいです。自学に取り組むペースとしては、どのくらいの頻度が理想でしょうか。

ご家庭でやるのなら、基本は保護者の方が続けられるペースでやったらいいと思います。子どもがやりたかったら毎日やったらいいと思いますが、毎日はしんどいんだったら1週間に1回でもいいし。「今月の自学」というふうに月一でも構いません。要は、続くことが大切なんですよ。あまり数を求めすぎるとしんどくなってしまいますから。

--家庭でやる場合、自分の子どものことだと焦る気持ちも出てきてしまいそうです。焦らず見守るコツはあるでしょうか?

自学は、ドリルをやらせたり、英語を覚えさせたりすることとはまったく違うものだという感覚を親御さんは持っておいた方がいいです。例えば算数のドリルを1冊与えるなら、やり切ってしまわなければいけないし、計算ミスをしたら駄目ですよね。でも自学はノートの紙面を自分で自由にデザインできるんです。

テストの場合は、全部枠が決まっていて、その中で決まった道を歩いていかなければいけないんですが、自学は自分で道を作れる。

最初は一緒に作ってもいいと思います。自学ノートで勉強が好きになる、ということが目的ですから、お父さんお母さんと、もしくはおじいちゃんおばあちゃんとでもいいので、一緒に作っていく。対面でなく、横並びで子どもと同じ方向を向いているイメージですね。親御さんも楽しんで、なんならまず親御さんが簡単な自学ノートを作ってみせてもいいと思いますよ。「お母さんもやってみたけど、これけっこう面白いよ」なんて(笑)。

大きな目的としては、勉強というのは義務でなく権利ですから、極上の遊びになるようにしたいということ。そこが最終目的だと思います。

「自学ノート」を通して子どもに勉強が楽しいと思えるように

そもそも勉強=学びというのは、楽しいもののはず。知らなかったことを知ったり、わからなかったことがわかるようになったりすることは、好奇心が刺激され、知識欲が満たされる最高の経験です。ですが、いつの間にか勉強=つまらないもの、やりたくないもの、テストや受験のためのもの、といったマイナスイメージが浸透してしまい、「勉強なんてやりたくない」という我が子に苦戦するはめに……。

自学ノートを通して、子どもが自分から好きで勉強に取り組むようになったら一番素敵ですよね。

お話を聞いたのは

森川正樹先生|関西学院初等部教諭
兵庫教育大学大学院言語系教育分野(国語)修了。教師塾「あまから」、読書会「月の道」を主宰。国語科の実践に力を注ぐ。令和2年版学校図書国語教科書編集委員。著者に『小学生の究極の自学ノート図鑑』(小学館)など。
森川正樹の”教師の笑顔向上”ブログ」で、日々の教育関連情報を発信中。

森川先生の著書はこちら!

著/森川正樹|1760円(税込)

本書は、子どもが真似したくなるような「自学ノート」を図鑑的に見せ、自学への意欲を引き出します。原寸に近い大きさで掲載されているノートでは、びっしりと書き込まれた一文字一文字まで読むことができ、テーマの選び方、文章の書き方も知ることができます。学校でも家庭でも、子どもも大人も読んでほしい「これからの学び方」図鑑です。

 

文・構成/小林麻美

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