ラグビー選手が作ったコラボ絵本!畠山健介さん「ラグビーボールは頑張った人しか拾えない」

先日発売され、さっそく重版がかかった評判の絵本『らくがきボール』は、卵を半分に切ったような珍しい形をしています。表紙を開くと、最初に出てくるのはラグビーボール!そう、この絵本はラグビーボールの形なんです。

ページをめくるたびに、ラグビーボールがあんなものやこんなものに変わっていく……というユニークなこの作品は、絵本作家の鈴木のりたけさんとラグビー選手たちのコラボレーションで生まれたもの。今回は、発案者の現役ラグビー選手、畠山健介さんに子ども時代の話や絵本に込めた思いを伺いました。

ラグビーの未来のために種を蒔く

ラグビーを題材にした絵本をつくろうと思ったきっかけを教えてください。

2015年のラグビーワールドカップの時に日本代表が3勝して、今までにないくらいラグビーが盛り上がりました。これで僕は野球やサッカーのようにみんなが憧れるメジャーなスポーツになるんだと思ったんです。

あれから4年経って、今年、いよいよ日本でワールドカップが開催されますが、残念なことに人気スポーツになった実感はありません。それで、なんでラグビーはこんなに良いスポーツなのに広がらないんだろう、みんなに愛してもらえないんだろうと悩んでいた時に、まずラグビーを知っている人を増やすことが大切だと思ったんです。

そのためになにかできることはないかと考えていて浮かんだアイデアが、絵本でした。子どもたちにラグビーというスポーツの存在を知ってもらいたいと思って「ラグビーの絵本を作ってください」といろいろな方にお願いしていたんです。

  

この絵本の作家・鈴木のりたけさんと監修を担当したプロラグビー選手の皆さん。ボールに自由にペイントをして「らくがきボール」の楽しさを伝えてくれました!(左から上田聖さん、畠山健介さん、作家の鈴木のりたけさん、須藤拓輝さん、設楽哲也さん)

 

なぜ、子どもだったんですか

僕も2人の子どもがいますが、乳幼児から小学校低学年ぐらいまでの数年間って、すごく大事な時期だと思うんですよ。その頃に憶えた言葉や習慣、社会のルールって忘れないじゃないですか。吸収力がすごい時期に絵本を通してラグビーを知ってもらうと、ラグビーが人生の一部となった子どもたちがどんどん育っていく。「ラグビー、知ってるよ」という子どもが増えると、大人になった時にプレイをしたことがなくても、試合を見たり、応援したりしてくれるようになるんじゃないかと期待しています。

ラグビーの未来のために、種を蒔くようなイメージですね。

まさにそうですね。僕も妻も子どもたちに絵本の読み聞かせをしますが、自分が子どもの頃に読んでいた本を買うことが多いんですよ。だから、『らくがきボール』を読んだ子どもが大人になって子どもが生まれた時、「これ、うちにあったな」とか「これ、読んでたな」と思い出して、子どもに買い与えてくれたら嬉しいですね。ラグビーはボールをつなぐスポーツですけど、同じように絵本には世代を超えてつながっていく力があると思うんですよ。この絵本も『はらぺこあおむし』とか『ぐりとぐら』ぐらい読み継がれるようになってほしいですね(笑)

まさに絵本もラグビーボール型です。

絵本をつくることになった時、ラグビーボールをテーマにしようということで話し合ってきましたが、できあがった絵本を見たときの衝撃はすごかったです。ラグビーをしていた僕が絵本を作ろうと思っても、真四角の本しか思いつかないですよ。

内容もすごく面白いんです。ラグビーを題材にしていますけど、2ページ目からラグビーから離れていきますから(笑)。その途中でまたラグビーボールに戻って、僕ら選手がなによりも大切にしている「ボールをつなぐこと」を描いてくれて、感動しました。

特別に少し中身をお見せすると…

登場するのは、真っ白なラグビーボール。黄色に塗ると…

レモンに変身!

真っ白なラグビーボール。今度は黒に塗ったら…

ステーキ皿に変身!

どんな子も「自分が活躍できる場所」を見つけてほしい

「つなぐ」という意味では、畠山さんもラグビーファンのお母さんの影響でラグビーを始めたと聞きました。

はい。たまたま母がNHKで観たラグビーの早明戦(早稲田対明治)で早稲田が負けたんですが、当時の早稲田のキャプテンの宿澤(広朗)さんのただずまいに感動したそうです。それから早稲田ファンになって、子どもを早稲田に入れたいと思うようになったと聞きました。地元にたまたまラグビースクールがあって兄が通っていたのですが、母と一緒に送り迎えについていってたら、僕もコーチに声をかけられて。

コンタクトバックという柔らかいバックがあるんですが、それに「思いっきり当たってみろ!」と言われて、バンッとぶつかりにいったら、すごくコーチに褒められたんです。僕、身体は大きかったんですが特に取柄というものがなくて、そのときに初めて親以外の大人に褒められたんですよ。だからそれがすごく嬉しくて、すぐに母親のところに行って、「(スクールに)入る!」と言ったのを今でも覚えています。

自分が活躍できる場所を見つけた?

本当にそうなんです。うちは姉と兄が勉強もできるしスポーツも得意で、親にかわいがられていました。でも僕は勉強もスポーツもできるほうじゃなかったから、親にはよく「あんたは橋の下から拾ってきた」と言われていたんですよ。だから、親に振り向いてほしいという思いもあったんですが、ラグビーを始めたら本当に楽しくて。特に小学生の頃は自分より体が大きい人も少なかったので、大暴れしていました(笑)。

僕は小さい時から早稲田に行くものだと刷り込まれているので、小学校の卒業ビデオで「早稲田か明治に入る」と宣言してたんですよ。それはずっと揺らがなくて、高校の時もいろんなところで「早稲田に行きたいです!」「早稲田好きです!」と言っていたら、道が拓けた。言うだけはタダだとうちの親も言っていましたが、言ってみるものです(笑)。

それからサントリーに入って、日本代表にも選ばれました。ときどき、ラグビーやっていなかったらどうなっていたんだろうと思うんですよ。ここまで育ててもらって、ラグビーには本当に感謝しています。

挫折したことはないんですか?

社会人になって代表になって世界と戦うとなると、自分より大きい人はいくらでもいるし、自分より才能がある人もいくらでもいるし、身近にも自分より努力している人はいっぱいいて、どれをとっても自分は一番じゃないと自覚しました。そのなかで試合に出るにはどうしたらいいのかと考えて、自分にしかない武器を作ろうと思いました。

でも、なにを武器にしたらいいのかずっとわからなくて、モヤモヤしていました。僕の強みを教えてくれたのは、エディ・ジョーンズという前の日本代表の監督です。一対一で面接をした時に「君の強みを教えてくれ」と聞かれたんですよ。

そこで正直に「わからない」と言ったら代表から落とされるかもしれないと思ったんですが、正直に「わかりません」と答えたら、エディが「ハタケの強みはこれとこれとこれ」と3つくらい挙げてくれました。それは自分でも気づいていない部分だったけど、世界的な名将のエディがそういうならもっと磨いていこうと思いました。

ラグビーの魅力とは?

それが2015年のラグビーW杯をはじめ、日本代表としての活躍につながったんですね。畠山さんが愛してやまないラグビーの魅力を改めて教えてください。

プレイヤー目線で言えば、ラグビーは自己超越のスポーツだと思っています。自分を最大限に高めて、それを他人のために使うスポーツです。ラグビーはすごい選手がひとりいても勝てません。身長も170センチの選手がいれば、2メートルの選手もいるし、体重差も大きい。多様な15人が力を合わせて勝つために、みんな必死に練習して自分を高めますが、何のためかというと仲間のため、チームのためなんです。 

だから、ラグビーをやると一生の仲間ができます。僕はよく「3年間モテたかったらサッカー部か野球部に行け。一生の友達がほしいのであればラグビー部に行け」と言うんですよ。仲間のために能力を磨き、仲間のためにその力を使う。そういう子どもを育てたいのであればラグビーが一番だと思います。

観客目線ではいかがでしょう?

ラグビーには体重制限も身長制限もありません。70キロ台の人が100キロを超える人に挑むのがラグビーです。超人たちの迫力満点の戦いを見るという感覚で楽しんでほしいですね。よくプロレスとたとえられますが、大きく違うのはラグビーボールの存在です。

人生って、運とか縁とかふわっとしたものに流されることもありますよね。きちんと頑張っている子が報われない時もあると思います。ラグビーボールも人生と似ていて、転がり方も不規則で、どちらに転ぶかわからないんですよ。でも変なところに転がるからと諦めたり、思い通りにいかなくて不貞腐れていたらそれでおしまい。どんなに才能があろうと、桁違いの超人だろうと、自分や仲間を信じて一生懸命追いかける人間じゃないと、そのボールは拾えないんです。

そのまっすぐな一生懸命さもラグビーの魅力のひとつです。『らくがきボール』でリアルのラグビーボールにも興味を持ってもらえたら嬉しいですね。

最後にラグビー少年たちからの質問に答えてもらいました 

今回は、小学生のラグビー少年や子どもたちから畠山選手への質問を募りました。子どもの視点からのプロ選手への質問にも丁寧に答えてくださいました。

質問「小さな頃の夢は何ですか?」

僕は小さい頃からラグビーの日本代表になってワールドカップに出ると言っていました。僕は「夢の逆算」とよく言うんですが、具体的な目標がないと何をしていいかわからないと思います。勉強しなさいと言われも、何のために? と思いますよね。でも医者になるという目標があったら、そのために勉強をするでしょう。

何か目標や夢があれば、そこに近づくために何をしなければならないかというのが決まると思います。そういう意味で夢や目標をもつことはすごく大切です。

質問「オールブラックスに入るには何をすればいいですか?」

ニュージーランドに住まないといけません。ラグビーの国の代表になるのにはルールが3つあって、その国で生まれるか、両親がその国の人か、その国に35年以上住む必要があります。だから、本当に目指すのであれば、まずは親と一緒に移住を考えてください。ニュージーランドはすごく良いところですよ。一生住んでもいいと思うぐらい。

質問「子どもの頃、どんな外遊びが好きでしたか?」

ドッヂボールとか野球とかボール遊びをよくしていました。サッカーは苦手でしたね。遊びではないんですが、中学生の時は学校にラグビー部がなかったので、バスケットボール部に入っていました。バスケはボールにずっと触れているから、ハンドリングやボールの扱いは小器用になりました。

ラグビー選手のなかでも同時並行でサッカーをやっていた選手はキックがうまかったり、柔道をやっていた選手は体幹が強くてなかなか倒れにくかったりします。同時に複数のスポーツをやることは良いことだなと思います。

質問「どうしたら体重が増えますか?」

好き嫌いなく、バランスよく、いっぱいご飯を食べること。お菓子はおいしいけど体重が増えないので、しっかりご飯食べましょう。

質問「将来どんな人になりたいですか?」

誰かのきっかけになる人間になりたいです。畠山さんをきっかけにラグビーを知りましたとか、畠山さんと話をして私も夢に向かってもっと頑張りたいと思いましたとか。誰かの原動力になれるような人間になりたいと思っています。

 

畠山健介

1985年生まれ、宮城県気仙沼市出身。小学2年からラグビーを始める。仙台育英高校時代には3年連続で花園に出場。高校日本代表、U17日本代表に選ばれる。早稲田大学へ進学し、全国大学選手権優勝に貢献。卒業後は「サントリー サンゴリアス」でプレイ。2016年の1年間はイングランド国内リーグプレミアシップ「ニューカッスル・ファルコンズ」に所属。ポジションは、スクラムを最前列で支える右プロップ。2011年、2015年ラグビーワールドカップ日本代表メンバー。日本ラグビーフットボール選手会代表理事。二児の父。

 

 

 

取材・文/川内 イオ 撮影/黒石あみ

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