数学教師・井本陽久先生が運営するフリースクール「いもいも」が進化!子どもが学びをカスタマイズできる、その中身は?

「いもいも」というユニークな教室を開催している、イモニイこと井本陽久先生。「学び」を単なる反復練習などにはゼッタイにしない。ありのままの子どもたちを認め、ありのままの自分自身をよりどころにして問いに向き合い続ける本質的な「学び」を実践するその教室は、不登校の子や保護者にも大事な場として熱い視線を浴びています。そんなイモニイが新たにこの秋から「選択式フリースクール」を展開。それってどんな仕組み? じっくり語ってもらいました。

イモニイが作るフリースクールっていったいどんな感じ?

――「選択式フリースクール」の展開が始まっていると聞きました。これはどんなフリースクールなんでしょうか。

*教室のラインナップは来年度から変わる可能性があります。

井本:この図を見てもらうのがわかりやすいと思います。
これまで、多摩地区や高尾の自然豊かな場所で、ひたすら身体を自然に浸らせながら学ぶ『森の教室』を、週1で開催してきました。そしてこの9月、東京都の檜原村(*西多摩地区。東京の島嶼部を除く唯一の村)数馬の川原で週4日の『森の教室檜原村』を開校し、自然の中で継続的に学びを育むこともできるようになりました。月~木曜日、すべて昼間の開催です。

また、「いもいも」では従来から、昼間の教室を各所で展開してきました。お茶の水の教室で行う数理の教室や、まなびの教室。まなびの教室は世田谷区の用賀でも開催していました。

これらをすべて融合させたのが「森のスコーレ」です。

撮影/土屋 敦

檜原村・数馬の『森の教室』は週1日通うコースと、週3回通うコースがあります。このどちらかを選ぶことができ、また両方合わせて4日間のコースにすることもできます。上段下段関係なく、この中からいくつでも自由に教室を選ぶことができます。数馬の『森の教室』を選択しなければならないわけではありませんし、選択している子の方が少ないです。

檜原森の教室とその他の昼間の教室を自分でカスタマイズ

井本:選択式である意義は、『森の教室檜原村』に限らず、子どもによって「学び場」に毎日通いたい子もいれば、週1回でいい子もいる。また学校とハイブリッドで通いたい子もいるので、自分に合った学び場をカスタマイズすることができるというところです。

――なるほど、それが「選択式」なのですね。

井本:いもいもに通う不登校の子の保護者からは、継続的に通える学び場を求める声を数多くいただいておりました。とはいえ、その『継続的に通う』もその子のペースがいいのです。

『森のスコーレ』の使い方には自由度があります。半分は学校に行っている子もいます。「月から木」の4日間というのも、月の13週目で、4週目はお休みです。だから、金曜日と4週目は学校に行くとか。家に近い都心の教室に通って、週1だけ檜原村に来るとか。そんなふうに、子ども自身が自分の意志で選択できるフリースクールなんです。

「用意する教材はない」のが『森の教室檜原村』

――カスタマイズできるフリースクール! それは画期的ですね。檜原村の『森の教室』での学びについて詳しく教えてください。

井本:以前にもHugKumで森の教室のことは取材してもらいましたが、『教室』といっても、校舎や部屋があるわけではありません。学びの場は、大自然の中です。雨が降っても雪が降っても外で過ごします。

ここでは、われわれが用意する教材はありません。基本、道具も最小限のものしか用意しません。遊ぶにしても、お湯をわかすにしても、雨やどりに東屋を作るにしても今、そこにあるものだけを材料にしてやるしかありません。

学校の学びはカリキュラムを作り「評価する」

井本:『森の教室檜原村』の学びと学校の学びを比較すると、かなり違います。
学校の学びは、前提にしていることが
「先の備えとして手持ちを増やしておく」
ということだと思っています。
将来これを使うかもしれないから、あらかじめ学んでおく。英語、プログラミング……最近はその要素もどんどん多くなってきています。決められた時間の中で終わらせないといけないので、必然的にカリキュラムをつくらなければいけなくなります。

撮影/土屋 敦

カリキュラムは「ここの単元が終わったら次の単元ができるように」とスモールステップですすんでいくもの。そうすると各段階での達成度を確かめないといけないので、できるできないで評価しないといけない。そうすると、子どもは「できることが評価される」から、できようとする。できるためには、自分のやりかたでやらないほうが近道なんです。教えられた通りにやったほうがちゃんとマルをもらえて、評価されます。

学校のカリキュラムには従うしかない…

井本:となると、「自分は何を期待されているんだろう」と、空気を読みながら学ぶというふうにならざるを得ないんですね。これは学校が悪いというよりは、そもそもの前提の問題です。膨大にやることがあるからカリキュラムが必要、カリキュラムには従うしかない、それができるようになるには決められたやり方でやるしかない。そして、やったことで評価される。そのことが、子どもたちを苦しめている。さらに言ってしまうと、そうやって学ぶと、学んだことは本当の意味では身につかないのです。

では、いもいもでは何をやっているかというと、先の備えとしての手持ちを増やすのではなくて、「今ある手持ちでなんとかする」。これがいもいもの学びの根幹です。檜原村の川辺の大自然での学びはカリキュラムもなければ、手持ちも少なく不自由だらけ。しかし、そのほうが工夫の余地があって子どもたちからすると楽しいんですよ。

「生きることを取り戻す」のが『森の教室』

井本:自然というのはある意味、とても不自由なんです。いもいもでは火をおこすのにマッチを使ってはダメで火打ち石を使いますし、湯をわかすときも、鍋を使ってはいけない。あえて、不自由にしているんです。そのかわりその不自由な環境で「自由にさせる」。「どういうふうにやってもいいよ」と。

火打ち石から火をつけるなんて、将来絶対できなくても困らないけれど、「今ある手持ちでなんとかする」ということ自体が、「生きることを取り戻す」ことだと、僕は思っています。

先の読めない社会になってくると、今ある手持ちでなんとかできる子のほうが、間違いなく活躍できるでしょう。でもそれは僕にはどうでもよくて、「生きるって、そういうことだよね」
って思いながら日々、子どもたちに向き合っています。

 

大自然の中で、「勉強しよう」から学びを始めず、見るもの、感じるものの深さを追求するために学ぶ。その学びを仲間と共有することで深めて広げる。そんな学びこそが、井本先生が求める学びです。次回は、その学びの神髄を、イモニイの口からさらに深く語っていただきます。

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お話を伺ったのは

「いもいも」主宰|井本陽久さん
栄光学園数学科講師。『いもいも教室』を主宰。栄光学園中学高等学校、東京大学工学部卒業。東京都西多摩郡檜原村では森や川で過ごし自ら考える力を育む「森の教室」も「いもいも」として主宰。不登校の子どもたちにも学びの場を提供し、悪戦苦闘。その生き方と活動は、『いま、ここで輝く。』(おおたとしまさ著)、NHK総合『プロフェッショナル 仕事の流儀』(20201月放映)に詳しく紹介されている。
取材・文/三輪 泉 撮影/五十嵐美弥(井本先生分)

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