「長靴をはいた猫」はヨーロッパ発祥の民話
「長靴をはいた猫」は絵本としても、児童書としても、世界的にとても人気のある童話の一つです。この童話は、17世紀にイタリアの民話や、フランスの民話を元に、フランスの作家シャルル・ペローが脚色して作り上げたもの。
ここで出てくる「長靴」とは、雨靴のようなものではなく、中世ヨーロッパ時代の男性貴族が履いた黒いブーツのことです。
ヨーロッパで語り継がれた民話
「長靴をはいた猫」（原題：Le Maître Chat ou le Chat Botté、英語表記：Master Cat, or Puss in Boots）はペローが書いた多くの童話の中でも有名で、世界中で翻訳されています。この童話は、猫が巧みに人間や魔人をだましながら、あれよあれよと無一文の飼い主を大金持ちの名士にさせてしまう、読んでいて楽しくなる物語です。
「靴はき猫」というストーリーのモチーフは、グリム童話（ペローより後年）などにも見られます。しかし、ペローが書いた「長靴をはいた猫」は、原典の民話よりも洗練され、文学的価値が高いと評価されています。
国：フランス
発表年：1697年
おすすめの年齢：読みきかせ5・6才～ 読書 小学低学年～
作者のシャルル・ペローってどんな人？
シャルル・ペロー(Charles Perrault, 1628-1703)は、フランスの作家、詩人、公務員、学者です。彼はルイ14世の時代に活躍し、17世紀のフランス文学において、童話や寓話のジャンルを確立したことで知られています。
彼は、『母ガチョウのお話』、『赤ずきん』、『長靴をはいた猫』、『シンデレラ』、『眠れる森の美女』など、多くの有名な童話や寓話を書いています。これらの作品は、後世の作家たちにも多大な影響を与え、現代でも知らない人はいないお話ばかりです。また後世になりますが『グリム童話』と収録された物語が重なることもあり（例：『赤ずきん』）、その比較研究が進められています。
また、彼は詩人としても活躍し、『太陽王ルイ14世の栄華』などの詩を書いています。彼の功績は多岐にわたり、17世紀フランス文学の重要人物の一人として、文学史上にその名を刻んでいます。
物語のあらすじ
ではさっそく「長靴をはいた猫」のあらすじを紹介します。以下には、「詳しく」＆お子さんへの説明に便利な「簡単に」の２種類のあらすじでまとめております。
※以下では、物語の核心にも触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
遺産として猫が？
昔々、粉ひきの貧しい農夫が亡くなり、残された3兄弟のうち、強引で欲張りな長男は粉ひき小屋を、次男はロバを遺産として持って行きます。三男のもとには父の遺産として猫だけが来ます。「猫じゃ役に立たないよ」と嘆いていると突然猫が人間の言葉を話しだすではありませんか！
「自分を引き取ってくれたお礼に、あなた（三男）をお金持ちにするよ」
と恩返しの約束をしてくれます。
頭の良い猫！
猫は、三男に「上品な長靴を買ってきて」と言い、猫はその長靴に履き替えることで、いかにも品の良い姿に変身。そして、王様のもとへ会いに行きます。
猫は「王様！ 私はカラバ侯爵に使える執事です。今日はカラバ侯爵が狩りをしましたので、王様にその一部を献上するようにとのことで伺いました」
と捕まえたウサギを差し出すと王様は大喜び。
その後も、猫は毎日のようにさまざまな贈り物を届け続け、王様の心をつかみます。
お姫様との出会い
ある日、突然、猫は三男に「今すぐ、川で水浴びして」と言います。いわれた通り水浴びをしていると、そこへ王様とお姫様が馬車に乗って通りかかります。
猫は王様に駆け寄り「大変です！ カラバ侯爵が水浴びをしている間に服をすべて盗まれてしまいました」と汚い服を隠します。
王様に立派な服を貸してもらった三男は、本当の侯爵のように垢ぬけ、ハンサムな青年になりました。その姿を見て、お姫様はカラバ侯爵に一目ぼれ。三男を王様とお姫様と引き合わせることに成功します。
そして、猫はお礼に今日はカラバ侯爵のお城にどうぞ、と招待します。三男は、慌てふためきます。
猫は、三人が散歩をしながら隣の町に来るまでの間に、道中の農民たちに「この土地はだれのものだ、と聞かれたらカラバ侯爵のものだと答えて。お礼に困ったことがあれば助けるから」と言います。農民は「人食い魔王にひどい環境で働かせられている、人食い魔王を退治して欲しい」と伝えます。人食い魔王とは、森の奥の山の上にそびえるお城に住む巨大な魔人です。猫は人食い魔王を退治する約束をします。
散歩を終え、後から馬車で追ってきた王様たちは、道中の広大な農地と牧場に驚き、農民に「ここはだれの土地じゃ？」と聞きます。そして、誰もが「カラバ侯爵の土地です」と答えるので、ますますカラバ侯爵が気に入ります。
魔王との対決
猫は、人食い魔王が住むといわれている、巨大なお城にたどり着きます。
「ここの城主は魔法が使え、どんな姿にもなれる、と聞いているが本当か」と尋ねると魔王は「当たり前だ、どんなものにもなれるさ」と答えますが、猫が「大きなものにはなれても、こ～んな小さなネズミにはなれるまい」とけし掛けると、あっという間にネズミなって見せます。すると猫は待ってましたとばかりに、ねずみを一口でパクリ。お城を乗っ取ってしまいます。
しあわせな結婚
猫は、あとからやってきた王様に「ようこそカラバ城へ」と招き入れます。王様はその大きなお城や豪華な食事にすっかり感心してしまいます。
その後、そのまま、人食い魔王の広大な土地やお城を手に入れたカラバ侯爵は、名実ともに立派な公爵となり、お姫様と結婚し幸せに暮らすのでした。
猫は農民を助けることもでき、三男に恩返しも出来てよかったととてもうれしい気持ちになるのでした。
あらすじを簡単にまとめると…
とても頭の良い猫が、自分を引き取ってくれた貧しい男（三男）に恩返しをしたいと知恵とアイデアで、あれよあれよと男（三男）を本当に財産と名声のある男に成長させるファンタジーストーリーです。
主な登場人物
この童話では猫が主人公であるため、他の登場人物は比較的単純に描かれています。しかし、猫が要領よく行動することで王様やカバラ侯爵が騙される様子が面白おかしく展開されます。
「長靴を履いた猫」の登場人物は以下の通りです。
-
長靴を履いた猫：猫
- 物語の主人公で、主人公のマスターである三男に富をもたらすため、さまざまな策略をめぐらします。
-
カバラ侯爵：三男
- 無一文であり、猫から受けた助言に従って王に会ったり、城や土地を手に入れることに成功します。
-
王様
- 物語の中で猫によって騙されます。しかし、猫によって問題が解決され、王はカバラ侯爵に土地を与えます。
-
お姫様
- カバラ侯爵と恋に落ち結婚します。
-
人食い魔王
- 大金持ちで広大な土地を牛耳り、農民をひどい条件で働かせて震え上がらせている魔人で、大きな城の城主。
学べること・教訓
ではこの物語の教訓は何でしょう？
長靴をはいた猫の教訓
猫しかもらえなかった、と三男は嘆いていますが、実際、その猫が一番価値があったというお話から、見かけだけで人や物の価値を判断してはいけない、というメッセージがあると考えられます。
また、ペローの童話集の最後には下記のように書かれています。
ゆたかな遺産を当てにすることも
大きな利益には違いないが
一般に、若い人たちにとっては
知恵があったり世渡り上手であったりするほうが
もらった財産より、ずっと値打ちのあるものです。
つまり、頭を使って世渡りする事のほうが、物の持つ価値よりもずっと大事だと言うことです。
「長靴をはいた猫」を読むなら
「長靴下をはいた猫」には絵本から文庫まで多く出版されています。下記に何冊かご紹介いたします。
長ぐつをはいたねこ
読み聞かせようにも。大型の絵本でお子さんとイラストを楽しみながら読み進められます。全32ページ 福音館書店 1980/5/20刊行。
ながぐつをはいたねこ (世界名作アニメ絵本 1)永岡書店
短い単行本、挿絵も多く、文字が読めるようになった低学年向きです。全43ページ 永岡書店 1999/1/1刊行
ながくつをはいたねこ
長靴をはいた猫
長靴をはいた猫あとがき
長靴をはいて、いかにも本当の侯爵執事のように振舞い、どんどん三男を出世させていく頭の良い猫の痛快ストーリー。純粋に楽しめるお話です。お子さんやお孫さんのお誕生日プレゼントにもおすすめの一冊です。
あなたにはこちらの記事もおすすめ
文／加藤敬子 構成／HugKum編集部
