『ラ・ラ・ランド』のチームが放つ愛と夢、野心と欲望を描く渾身の1作
ハリウッドを舞台に、夢を追う男女の恋を描いたミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』で、アカデミー監督賞を史上最年少で受賞したデイミアン・チャゼル監督。最新作『バビロン』では、その類まれなる才能を再び見せつけられました。
本作の舞台は、ゴールデンエイジ(黄金時代)と呼ばれた1920年代のハリウッド。ちょうどサイレント映画からトーキー映画へと移り変わる過渡期ですが、富と名声、野心などがうずまく映画業界で、アグレッシブに生きた人々を、エネルギッシュに活写していきます。
『ラ・ラ・ランド』も同じくハリウッドの光と影を描いていましたが、本作はもう少し過激かつビターテイスト。チャゼル監督が綿密なリサーチをし、約15年の構想を経て完成した渾身の1作となっていて、観る者を圧倒しそう。キーワードは栄枯盛衰。輝かしい栄光の裏でうごめく魔物のようなものを容赦なく捉えた本作には、思わず息を呑むようなシーンもあります。
五感に訴える狂喜乱舞のパーティシーンが圧巻!
冒頭で登場するのは、ハリウッドで開催される豪華なパーティの出し物である象を運ぶ青年マニー(ディエゴ・カルバ)たち。サーカスじゃあるまいし、パーティの出し物に象って!?というところでつかみOKです。このパーティで、主役の座にいるのが、サイレント映画の大スター、ジャック(ブラッド・ピット)でした。
そして、このパーティーに参戦すべくやってきたのは、大スターを夢見る新人女優ネリー(マーゴット・ロビー)。招待状を持っていないネリーですが、マニーが機転を利かせて、無事に会場入りできました。恐れ知らずで奔放なネリーは、そこで持ち前の強心臓と特別な輝きで周囲を魅了。その後、スター街道を駆け上がっていきます。
映画製作者を目指すマニーもジャックの助手となり、夢への一歩を踏み出します。やがてトーキー映画という映画界のビッグウエーブがやってくるなか、ジャック、ネリー、マニーたち3人はその波に巻き込まれ、翻弄されていきます。
まずは、狂乱の黄金時代を象徴するド派手なパーティシーンが衝撃的。心躍るジャズミュージックが流れるなかで、セクシーなドレスをまとったネリーは、まばゆいオーラ全開でダンスを披露。会場は“狂喜乱舞”を画に描いたようなシチュエーションで、象までやってきて、観る者の度肝を抜きます。
大胆なカメラワークのめくるめく映像美に、物語をドラマチックに彩る音楽の数々。これぞ映画!これぞデイミアン・チャゼル節!もともと音楽の素養があるチャゼル監督ですが、なんといっても『ラ・ラ・ランド』を含め、チャゼルの監督作においてすべての音楽を担当したジャスティン・ハーウィッツとの最強タッグがすばらしい。いわば五感に訴えるエンターテイメント映画となっています。
ブラッド・ピットとマーゴット・ロビーたちがハリウッドの光と影を体現
サイレント映画に愛された貫禄たっぷりの大スターを演じたブラッド・ピットと、夢を貪欲に追い求めていったネリー、そしてそんな彼女を熱い眼差しで見つめ、ともにハリウッドでたくましくステップアップしていったマニー。三者三様ですが、その瞳に宿る映画愛は共通のものでした。
チャゼル監督が長年温めてきた本作で、3人が体現したのは、映画というものに魅せられた人々の輝きです。ただ、その光が強ければ強いほど、影もくっきりと浮かび上がっていく。並走していく3人の人生はまさに激動的で、観ていて胸がしめつけられます。
そう、時代は1920年代。情熱のるつぼと化したハリウッドで成功を収めることは、まさに荒馬に乗り続けていくような危険をはらんでいたのではないかと。スポットライトを浴びる高揚感と、気を抜けば振り落とされそうな恐怖感は表裏一体ですが、だからこそスターは燦然と輝き、観客はその光に心を奪われます。
一部、かなりヘビーなシーンもありますが、そこも逃げることなく果敢に描いたチャゼル監督の勇気とある意味、誠実さにも心を打たれました。そして観終わってから感じたのは、ブラッド・ピットはじめ俳優陣やチャゼル監督ら制作陣が、映画に捧げた大きな愛とリスペクトの念です。このクレイジーな黄金期があったからこそ、いまの映画の聖地、ハリウッドがある。当たり前のことですが、すべてにおいて歴史あり。そのことを痛感させられました。
まさに、ハリウッド超大作でなければなしえないクオリティーのエンターテイメント作品にしあがった『バビロン』。観る者の感性がぶわっと全開になるような快作なので、絶対に絶対に音響の良い大スクリーンで体感ください。
文/山崎伸子
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