目次
『オオカミと七匹の子ヤギ』ってどんなお話?
まずは、誰もがきっと一度は読んだことがある『オオカミと七匹の子ヤギ』が書かれた背景をチェックしておきましょう。
グリム童話の『オオカミと七匹の子ヤギ』
『オオカミと七匹の子ヤギ』は、1812年にドイツではじめて出版された『グリム童話集』の物語のひとつです。ドイツでは、さらに古くから「口承文学(口頭のみで伝えられる文学)」として長く親しまれてきました。
『グリム童話集』収録の数ある作品の中でも、本作は初版から収録され続けてきた一作。最終決定版の7版まで、他の作品はたびたび加筆・修正が重ねられましたが、本作には大きな変更は加えられなかったと言われます。
グリム童話とは?
1812年にドイツではじめて出版され、現在までに170以上の言語に翻訳されたと言われる『グリム童話集』。ドイツのグリム兄弟が、主に口承による昔話=メルヘンを、本にまとめたものです。
日本では、学校の英語教材として扱われたことからはじまり、1886年には収録作のいくつかがローマ字訳されたこと、さらに、1887年にはジャーナリストであった菅了法(桐南居士)によって『西洋古事神仙叢話』として翻訳・出版されたことから、徐々に浸透したと考えられています。
『オオカミと七匹の子ヤギ』のあらすじ
ここからは、『オオカミと七匹の子ヤギ』のあらすじを見ていきましょう。
詳しいあらすじと、お子さんに説明する際に便利な簡潔なあらすじ、さらに、本作から読み取れる教訓をそれぞれまとめました。
あらすじ(詳細版)
でかけるおかあさん
むかしむかしあるところに、おかあさんのヤギと七匹の子ヤギの親子が住んでいました。
ある日、おかあさんヤギは森へ出かけることになりました。留守番をする子ヤギたちには、「もしもオオカミがやってきても、絶対に家の中に入れてはいけない」と注意して出ていきます。
オオカミがやってきて…
それからまもなく、おもての戸を叩くものがありました。その相手はおかあさんヤギのふりをして、中に入れてほしいと言いますが、声がしゃがれています。オオカミだとすぐにわかった子ヤギたちは、あけてなんかやらない、と追い払いました。
自分の声のせいで正体がばれてしまったことを知ったオオカミは、雑貨屋さんへ行って、チョークを食べて声をよくしました。
それからまた戻って、子ヤギたちのいる家の戸をたたきます。声は高くなりましたが、オオカミは真っ黒な前足を窓にかけていました。子ヤギたちはふたたびそれがオオカミだと気づき、扉を開けませんでした。
自分の前足が黒いせいで正体がばれたことを知ったオオカミは、今度はパン屋さんと粉屋さんへと出かけて、自分の足に練り粉と白い粉をつけてもらいました。
そして、オオカミがふたたびヤギの家へと戻ると、子ヤギたちは、今度はほんとうにおかあさんだと信じ込み、扉を開けてしまいます。ところが大変。入ってきたのはおかあさんではなくオオカミです。
子ヤギたちはそれぞれ慌てて隠れますが、オオカミはあっさりとみんなを見つけ出して、片っ端から飲み込んでしまいました。
おかあさんが帰ってきて…
それからまもなくして、おかあさんヤギが帰ってきました。ところが、家の中には誰もいません。ひとりひとりの名前を呼んでみますが、返事ももちろんありません。最後に、いちばん小さい子ヤギだけが応答し、時計の箱の中に隠れて助かっていたことがわかりました。
事情を聞いたおかあさんヤギが気を落としながら外に出ると、草原で大いびきをかいて眠っていたのは、あのオオカミ。おかあさんヤギはハサミと針と糸を持ってきます。そしてオオカミのお腹を切ると、中からは一匹残らず自分の子どもが生きて出てきました。
そしてオオカミは…
お母さんはよろこびながらも、みんなに石を持ってくるように言いつけます。そして、子ヤギたちが持ってきた石をオオカミのお腹の中に詰め込んで、針と糸を使って、元のようにお腹を縫い合わせました。
目を覚ましたオオカミは、喉が乾いて泉のほうへとむかいました。泉で水を飲もうとしたそのときです。オオカミは自分のお腹の重さで、水のなかへと落下! こうして怖いオオカミはいなくなり、ヤギの親子たちは平穏な生活を取り戻しました。
あらすじを簡単にまとめると…
むかしむかしあるところに、おかあさんヤギと7匹の子ヤギの親子が住んでいました。
ある日、おかあさんヤギが森へと出かけていくと、留守番中の子ヤギたちのもとへオオカミがやってきました。おかあさんのふりをして、家の中へ入れてもらおうとするオオカミ。はじめは騙されなかった子ヤギたちですが、オオカミが声を変え、足の色を白く染めてやってくると、ついおかあさんだと信じ込んで家の中へと入れてしまいます。
しばらくして帰ってきたおかあさんヤギは、いちばん小さい子ヤギ以外、自分の子どもがみんなオオカミに飲み込まれたことを知りました。草原へと行くと、おおいびきをかいて眠っているオオカミを見つけたおかあさんヤギは、そのお腹をハサミで切ってしまいます。
すると、中からは子ヤギたちが一匹残らず生きて出てきました。おかあさんヤギはそのお腹にたくさんの石を詰めて、縫い合わせます。目を覚ましたオオカミは、お腹の重みで泉へと落ちてしまいました。こうして怖いオオカミはいなくなり、ヤギの親子たちは平穏な生活を取り戻しました。
結末が「赤ずきん」に似ている理由は?
「オオカミに飲み込まれてしまったものの、無傷で助かる」「オオカミのお腹に石を詰める」という展開を読んで、同じグリム童話の『赤ずきん』に似ている、と感じた方もいるのではないでしょうか。
『赤ずきん』には、1697年にフランスで出版されたペローという作家のバージョンと、グリム童話のバージョンが存在します。先に出版されていたペローバージョンの結末では、なんと、赤ずきんちゃんがオオカミに食べられておしまい。いっぽうグリム童話のバージョンでは、この結末に、『オオカミと七匹の子ヤギ』の「オオカミのお腹から生還」「オオカミのお腹に石を詰める」といった展開を加えたと考えられています。
【参考】鈴木晶著「グリム童話」講談社現代新書、1991年
本作から読み取れる教訓は?
本作から読み取れる教訓のひとつが、「世の中には巧みに子どもを騙す人がいるので、簡単に信じ込んではいけない」ということ。
本作に登場するオオカミは、正面突破ではなく、巧妙な手口で子ヤギたちを騙してしまいますよね。自分の身を守るためには、時には疑いを持つことも大切であることを知ってほしい、そんな子どもへの願いがつまった作品です。
気になるポイントをつまみ読み! 子ヤギの隠れ場所は?
ここからは、『オオカミと七匹の子ヤギ』の気になるポイントをつまみ読み。子ヤギたちが隠れた場所や、結末についておさらいしておきましょう。
子ヤギたちはどこに隠れた?
おかあさんだと信じて扉を開けてしまった子ヤギたち。けれども、中に入ってきたのはオオカミでした。慌てた子ヤギたちは、それぞれ、机の下、寝床のなか、暖炉のなか、台所、戸棚のなか、洗濯だらいのなか、柱時計の箱のなかに隠れます。ところが、オオカミはあっさりとみんなを見つけ出して、すぐに片っ端からのみこんでしまいました。
唯一見つからなかったのは、柱時計の箱のなかに隠れたいちばん小さい子ヤギでした。
結末はどうなる?
子どもたちを飲み込んだオオカミを、草原で見つけたおかあさんヤギ。ハサミを持ってきて、オオカミのお腹を切ると、そこからは一匹残らず自分の子どもが生きて出てきました。
この後の結末は、本によって異なることもあるようです。しかしながら、お母さんがオオカミのお腹に石を詰めて縫い合わせ、お腹の重みでオオカミが泉に落下し死んでしまう、というものが一般的なものとして広く知られています。
「オオカミと七匹の子ヤギ」を読むなら
最後に、『オオカミと七匹の子ヤギ』のおすすめ書籍をご紹介。お子さんに読み聞かせしやすい絵本を中心に集めてみました。
おおかみと七ひきの子やぎ (小学館)
お母さんやぎの留守にやってきたオオカミ。さまざまな手を使って、子やぎたちをだまそうとしますが、小さな子やぎが知恵を絞って立ち向かって……。多数の絵本賞受賞歴のある杉田豊先生による、カラフルなイラストが魅力的な一冊です。
おおかみと七ひきのこやぎ (福音館書店)
スイスの絵本作家・ホフマンによる『おおかみと七ひきのこやぎ』。静謐でありながら、印象的なイラストの数々に、子どもからの支持も集める作品です。子どもの頃に読んだことがあるママパパも多いのではないでしょうか。
グリム童話『赤ずきん』との読み比べをしてみるのも◎
今回は、『オオカミと七匹の子ヤギ』のあらすじや教訓、おすすめの書籍をご紹介してきました。
『赤ずきん』のほうがより広くに親しまれているせいか、「結末が『赤ずきん』に似ている」と言われがちな作品です。しかしながら、結末に関しては、本作のほうがオリジナルであることがわかりましたね。『オオカミと七匹の子ヤギ』を経て、もう一度『赤ずきん』を読んでみるのも楽しいかもしれません。
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文・構成/羽吹理美