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『星の銀貨』ってどんなお話?
『星の銀貨』は1857年に編纂された「グリム童話集」の中のお話の一つで、貧しい一人の少女のお話です。
グリム童話『星の銀貨』
『星の銀貨』(原題)は、ドイツ地方の言い伝えや民話をまとめた童話集の一つとして発表されています。類似したお話も数多く存在しますが、グリム童話版が最も世界的に知られている内容となっています。
原題: “Die Sterntaler”、英語表記 “Star Money”
国:ドイツ
発表年:1812年
グリム童話とは
グリム童話とは、ドイツの説話学の創始者であるグリム兄弟(兄ヤーコプJacob Grimm、弟ウィルヘルムWilhelm Grimm)によって編纂された、主にドイツの伝承や民話を収録した童話集のことです。
初版1812年12月20日に刊行された当時は、「子供と家庭のおとぎ話」(ドイツ語原題”Kinder- und Hausmärche”、英語” Children’s and Household Tales”)というタイトルで86話が収められていました。その後の改訂版で、1815年に70話が追加で収められ、「グリム童話」に改められます。
『星の銀貨』は1812年の初版から掲載されていましたが、最初の題は「かわいそうな女の子」でした。その後の改訂時に、「星の銀貨」に変えられます。
グリム童話には、よく知られた作品として『白雪姫』『シンデレラ』『ラプンツェル』『ヘンゼルとグレーテル』『赤ずきん』などがあり、今日でも多くの国で愛読されています。
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『星の銀貨』のあらすじ・ストーリー紹介
以下に、『星の銀貨』のあらすじをまとめます。
※以下では、物語の核心にも触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
詳しいあらすじ
むかしむかし、とても貧しい女の子がいました。この子はとても心優しい素直な子で、信心深い子でしたが、両親は早くに亡くなり、次第に住むところもなくなってしまい、身に着けたぼろ着と手に持っているパン半切れだけになってしまいます。
それでも、神様の力を信じて一人で歩いていると、そこへ貧乏な男が現れ、「とにかく腹が減っているんだ、何かくれ」と言われます。女の子は手に持っていたパンをすべてを男にあげてしまいました。そして「どうか、神様のお恵みがありますように」と祈ってあげます。
少し歩いていくと、今度は子どもが泣いています。「頭が寒くて、寒くて死にそう」と言っているので、女の子はかぶっていた頭巾を子どもにやりました。
少し歩いていくと、今度は何も服を身に着けていない子どもが震えていました。女の子は自分の上着を脱ぐと、その子に着せてあげました。また少し歩いていくと、次に出てきた子どもはスカートが欲しいと言うので、女の子はスカートを脱いであげました。
ようやく森に着くと、また子どもが出てきて、今度は肌着をちょうだい、とねだります。女の子は、もう暗いし誰にも見えないでしょう、と自分の肌着をあげ、裸になってしまいます。
女の子が持っているものがすべてなくなったとき、高い空の上からお星さまがパラパラと落ちてきました。よく見ると、それは白銀色に光るターレル銀貨でした。そして、たった今、肌着をやってしまったというのに、気づくと上質の肌着を着ているではありませんか。
女の子は銀貨をすべて拾い集め、一生豊かに暮らすことができました。
あらすじを簡単にまとめると…
身寄りもおらず、貧しい少女が、惜しみもなく困っている人に自分の持っているものを与え続けます。すると、天から銀貨が降ってきて、一生豊かに暮らせるようになる物語。
物語にこめられた教訓とは
不幸な人たちに対する少女の善行とその結末からは「良いことをすれば、自分に良いことが返ってくる」というメッセージが感じられます。
そして、キリスト教における利他主義も反映されているとも思われます。利他主義とは「隣人愛」に代表されるように、他人を自分のように愛するという概念です。ヨーロッパに伝わるこの物語からは、キリスト教的な思想からの影響も見てとれます。
主な登場人物
グリム童話『星の銀貨』には、名前のある登場人物は出てきません。とても短いお話です。
少女
素直で心優しく、信心深い女の子。出会う人に自分のものを惜しみなく与えます。少女の名をアメリア(Amelia)という名前で語られることもありますが、邦訳版では、いずれの本も少女または女の子とされています。
男の人
空腹に耐えられず、少女にパンをねだる男の人。
小さな子ども
頭が寒くて仕方ない子ども。
別の子ども①
上着を着ていない子ども。
別の子ども②
スカートが欲しいとねだる子ども。
別の子ども③
肌着を欲しがる子ども。
本当は怖い?結末はどうなる?
『星の銀貨』は本当は怖いお話、とも言われています。では、なぜそう言われているのか、その理由について考察していきましょう。
理由1 少女があまりに献身的すぎる
まるで追いはぎにでも遭ったかのように、会う人会う人に、着ているものをねだられ、それを人々に分け与える献身さが「善人」というより、むしろ「狂気的」と捉えられることがあるようです。
理由2 本当は死んでいる
食事も満足でない健康状態で、人々が寒いと凍えている気温の中、全裸になるまで服を脱いでしまったら、現実的には人間は死に至る可能性が高いのではないでしょうか。そこで「星が降ってきた」というのは天に召された、と解釈する読者もおり、それを「怖い」と感じるようです。
理由3 グリム童話だから、の誤解
グリム童話は、時には残酷な展開だったり、怖いお話があったりします。その先入観から「星の銀貨」も怖いと誤解されることがあるようです。
結論 怖くない
さまざまな解釈や考え方を調査しましたが、他の童話のように、後世子ども向けに話をデフォルメしたという事はありません。非常に短いお話なので原作との乖離もない場合がほとんど。
結論としては、『星の銀貨』のストーリーは「怖くない」と考えてよさそうです。
『星の銀貨』を読むなら
『星の銀貨』はお話が非常に短いため、単独で本になっている書籍は少なく、グリム童話集など他のお話といっしょに収められていることが多いようです。ここでは、単体で本なっている商品をご紹介します。
星の銀貨 (ナデシコ文庫)
グリム兄弟著 楠山正雄訳 2ページ 2021/5/24
易しい漢字使用。ルビなし。5分で読める2ページ本。
星の銀貨(青空文庫)
『星の銀貨』の豆知識:お金の単位
このお話の最後、「銀貨ターレルが降ってきました」とありますが、ターレルとは何でしょうか。ターレルとは、当時ターラーまたはターレル(Thaler, Talerとも)と呼ばれていた、16世紀以降、数百年にわたってヨーロッパで使われた通貨(銀貨)のことです。
ターラーとも呼ばれたため、アメリカドル(ダラー、doller)やスロベニアで最近まで使われてたトラール(tolar)の呼び名の由来にもなっています。
「星の銀貨」のドイツ語原題は”Die Sterntaler”です。Sternは「星」を意味し、残りの部分talerが「ターレル(お金)」という意味です。
グリム童話の最終改訂時1857年は、まだターレルが使われていました。その後、普墺戦争(プロイセン・オーストリア戦争 1866年)ののち、オーストリア帝国でのターレルが停止され、1872年のドイツ統一後、ドイツ帝国の金マルクに切り替えられます。
さまざまな角度から物語を楽しんで
このように童話と時代背景を合わせて考察してみるのも、新しい発見があり違う楽しみ方ができますよね。また、お子さんに「良い事をすると自分に返ってくる」という事を教えるには、とても良いお話です。
大人が読むと、かなり極端な展開に感じますが、お子さんにとっては、短いのにインパクトがあるストーリーで心に残るお話となることでしょう。寝る前の一話にぴったりです。
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文/加藤敬子 構成/HugKum 編集部