小学校では、来年度から教科として道徳の授業が始まります。中学校では、2019年度から始まります。
授業の頻度は? なぜ道徳が教科になったの? など、基本的な疑問については、「道徳の教科化って何?」で解説しています。
では、教科になって、道徳の授業はどのように行われるのか。すでに導入している小学校の取り組みを見てみましょう。
今回は、筑波大学附属小学校の加藤宣行先生のお話を紹介します。加藤先生は、年間300時間もの道徳授業を実践されています。
■以前の道徳の授業は大事なことの再確認
教科になる前の道徳の授業は、どのようなものだったのでしょうか。加藤先生のお話です。
たとえば、「親切」について考える際に、こんなやりとりがあったとしましょう。
教師「親切にすることはいいことですか?」
児童「いいことです」
教師「なぜですか?」
児童「相手も喜んでいるし、自分もうれしいからです」
ここで子どもたちが使っているのは、どこかで聞きかじった言葉、借り物の言葉です。従来の道徳の授業で主に行われていたものは、はじめからわかっていることを再確認して、「やっぱりいいよね、大事だよね」という授業でした。
これではおもしろいわけがない。実際、従来の道徳の授業に対する子どもたちの感想は、
「知っていることを見直しただけだから何も考えなくて済んだ」
「書いてあることを言えばいいので楽だった」
というものだったのです。
つまり、以前の道徳の授業では、大事なことを再確認する内容が主だったということです。
■これからの道徳の授業は考える道徳
それでは、教科になってからの道徳の授業は、どう変わるのでしょうか。
今後は「考え、議論する道徳」の授業が行われることになります。
実は、この言葉は文部科学省がつけたキャッチフレーズですが、それについては「道徳の教科化って何?」をご覧ください。
さて、加藤先生が実践されている「考える道徳」とは何か。加藤先生はこう言われます。
考える道徳の授業というからには、「なぜ親切がいいことなのか」と問われたときに、
「そういうふうに言われているから」と条件反射で答えるのではなく、
「もし親切にしなかったらどうなるのだろう」
「親切にしてるつもりでも、相手が喜んでくれない場合もある」
「何かをしない親切というのもあるんじゃないか」
など、「親切とは何か?」という本質に迫る発問や問い返しを行うことが大切です。
だから、授業においては、子どもたちに気づきを促すために、あえて疑問を挟んでみたり、価値観をぐらつかせるような発問をしたり、違う視点から眺めてみる体験をさせたりと、いろいろ工夫をするようにしています。
■道徳の授業の役割とは?
さらに、「考える道徳」がもたらす効果や役割を次のように解説されます。
このように本質的な部分を考える機会を与えられることで、子どもははじめて本当の意味での納得解にたどり着くことができます。
そこで、「わかった!」という実感が得られると、「こういう生き方がしたいな」と心は自然に働きます。換言すれば、授業以外のさまざまな場面で、以前はできなかったことができるようになったり、気づけなかったことに気づけるようになるということです。
それがあることで、子どもたちの意識が前向きになり、少しずつ生活の質が変わっていくというのが、これからの道徳の授業の役割ではないでしょうか。
以上のように加藤先生はおっしゃっています。教え込むのではなく、考える授業の良さは、こういうところにあることがわかります。
加藤先生の授業の手法は、保護者の皆さんも使えるのではないでしょうか。ご自宅などでのお子さんとの会話の中で、こうしたやりとりが生まれれば、「考え、議論する道徳」は、家庭でも実践できるかもしれませんね。
(「総合教育技術」記者/高瀬康志)
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