元宇宙飛行士が語る子ども時代の冒険の大切さ。映画『イントゥ・ザ・ネイチャー 自然が教えてくれること』

ド迫力の臨場感で壮大な自然界を疑似体験できるネイチャードキュメンタリー映画『イントゥ・ザ・ネイチャー 自然が教えてくれること』。本作に出演した元宇宙飛行士のジョン・へリントン さんを直撃し、本作の見どころについて話を聞きました。

少年時代の夢を叶えて宇宙飛行士に

ユタ州/モアブ・ウィルソン・アーチ

アメリカ合衆国の公式観光促進団体ブランドUSAが製作した『イントゥ・ザ・ネイチャー 自然が教えてくれること』。アラスカの原野、オレゴンの緑豊かな海岸線や古代渓谷など、アメリカの隠れた絶景28スポット、臨場感あふれるIMAXカメラの映像で捉えた本作は、宇宙飛行士の野口聡一さんがナレーションに初挑戦したことでも話題を呼んでいます。本作で水先案内人を務めたジョン・へリントンさんと、野口さんとはNASA時代の同期であり、良き友人だとか。

ネイティブアメリカンの部族 (チカソー族)として初の宇宙旅行士となったへリントンさん。宇宙飛行士として成功を収めてからは、自転車で全米4,300マイル(7,000キロメートル)を走破した後、大学に戻り、教育学の博士号を取得しました。現在はマルチな才能を活かし、多くの人々にインスピレーションを与えています。

本作ではヘリントンさんや、パイロットでTVパーソナリティのアリエル・トウェト さん、距離ハイカーのジェニファー・ファー・デイビス さんが、自らの足や自転車、列車、熱気球などによる旅を通して、雄大な自然と人々を結びつけていきます。そんなヘリントンさんが心躍る宇宙空間での体験談やロケでの撮影秘話をたっぷりと語ってくれました。

――まずは、本作に出演することになった経緯から聞かせてください。

アラスカ州/チャガック国立森林公園(アリエル)

光栄なことにこの映画の制作会社の方から「アラスカ出身のパイロットであるアリエル・トウェトさんとペアを組んで映画に出演されませんか?」と声をかけていただいたんです。僕は彼女が出演していたテレビ番組を観ていたから「この方か!」と思いました。彼女はすごくエネルディッシュで楽しい方で、一緒にいろいろな場所を巡りました。実は当時、妻を亡くしたばかりで、精神的にすごく辛い時期でしたが、このプロジェクトがあったおかげで、悲しみを和らげてもらえたと思っています。

――少年時代の再現映像にて、ダンボールでロケットを作り、カブトムシを飛ばすというシーンが挿入されています。ヘリントンさんは実際に宇宙飛行士となって、その夢を叶えたわけですね。

はい、そうです。8~9歳の頃に、兄弟や友達と“宇宙船アポロごっこ”をよくやっていました。子どもの頃は、誰しもがヒーローみたいな存在に憧れますし、1960年代は宇宙飛行士も憧れの対象でした。宇宙飛行士になるというのは、もちろん夢のようなことでしたが、具体的に行動を起こすのは、海軍に行ってキャリアを積んだあとです。でも、正直なところ、自分が本当に宇宙飛行士になれるなんて思っていなかったので、実際になれて本当に良かったです。

アラスカ州/チャガック国立森林公園(アリエル)

子ども時代は、自分が興味を持ったことにワクワクしたり、テレビに出ている人に憧れたりするので、そこに向かって努力を重ねれば、最終的に夢を叶えられると僕自身も思っています。

――宇宙から見た地球の美しさに心が洗われました。その時ヘリントンさんは「地球と自分を遮るものはなかった」と感じられたそうですが、当時の体験をもう少し詳しく聞かせてください。

劇中では、私が体験した宇宙遊泳のシーンが再現されていますが、実際に映画を観た人たちからも「すごく美しかった!」という声をたくさんいただきました。映像クリエイターの皆さんが本当にリアルに作り上げてくだったので、僕自身も感心しています。

そして、映像でも表現されていますが、私は宇宙ステーションの端っこから地球を観たのですが、本当にきれいだなと思いました。地球から見ても宇宙は壮大ですが、宇宙ステーションから見ると、私と地球との間に何もない状態が作り出されたので、その瞬間はとても感動して、胸を打たれました。また、自分はちっぽけな存在なんだなと改めて感じたのです。

子ども時代に経験したことが宇宙飛行士のミッションに活かされた

――宇宙で予想外のミッションをすることになったそうですが、その時に戸惑いなどはなかったのでしょうか?

ユタ州/モアブ・フィッシャータワーズ

やはり宇宙空間へ出ると、なかなか計画通りに行かないことが多々あります。その日は本来なら、私はロボットアームに乗ってそのミッションを行う予定でした。私は2年間もその訓練を受けていたんです。ところが、突然、無線で連絡が入り、ロボットアームを運ぶはずのカートが引っかかって動かないと言われました。しかもその原因が不明だと。

――それでどうしたのですか?

私は同僚のマイクに「僕が何か間違えた?」と確認しましたが、マイクも自分のミスではないかと心配していたようでした。お互いに自分の責任だと思っていたので、あの時はかなり精神的にきつかったです。

アリゾナ州ページ近郊/アンテロープ・キャニオン

結局エアロックで1時間ぐらい待機しましたが、解決策が見出だせずにいました。それで私はそこを出てカートを確認しに行ってみたら、どうやらアンテナが干渉して引っかかっていたらしく。カメラの映像を見てその状況がわかった時は、自分のせいじゃなかったと気づき安堵しました。でも、そうなると、あとは自分の手でなんとかするしかなくて。

――無事にミッションはクリアできたのでしょうか?

その時に、すぐさまロボットアームがない状態でやる方法を思いつき、無事任務を全うできました。これまで、僕はロボットアームを使ってやる訓練をしてきましたが、それを使わずにやってみると、想定よりも短い時間で作業を終えることができたので、結果オーライでした。

――その判断力と行動力がすばらしいですね。

サウスカロライナ州/チャールストン

宇宙飛行士は、予定通りに行かなかった時にも、なんとかその場で乗り切る力を発揮できるようにと、日頃から訓練しています。野口聡一さんたち宇宙飛行士の仲間たちもそうでしたが、何か問題が起きても、柔軟に解決する能力を備えていますから。でも、私自身は、子ども時代から父と一緒にいろいろなことにチャレンジし、そういう力を培ってきた気がします。

やはり子どもから大人になる中で、自分の手足を使って創意工夫をしながら、持てる知識をかき集めて困難を乗り越えていくというのは、人間の本来あるべき姿じゃないかと。そういう意味でも、子どもは親御さんや兄弟と過ごすなかで、いろいろな経験を積んでいくことが望ましいと思います。すなわち、子ども時代にやっていたことが、宇宙飛行士になってからも活かされたわけです。

――そうなると、子ども時代から怖がらずにいろんなことにチャレンジしていくことが大事ですね。昨今は、スマホやゲームで遊ぶインドア派な子どもたちも増えていますが。

コロラド州/メサヴェルデ国立公園

私には3人の孫がいますが、なかでも10歳の男の子は、常にスマホを見ています(苦笑)。でも、昨年の冬に、その孫がやってきて、1週間家に滞在し、一緒にスキーへ出かけました。やはり雪の中に行く時は「スマホを置いて出ようね」と言いました。それで3日間、スキーを楽しみましたが、孫から「おじいちゃん、スキーは僕にとって一番お気に入りのアクティビティになったよ」と言ってくれたんです。

――自然の中で体を使っていろいろなアドベンチャーを楽しむことは本当に大事ですね。

そう思います。そのスキーができる場所では、夏にハイキングもできます。夏はジップラインで滑れるようになっていて、それも孫と楽しみました。また、ハックルベリーっという木の実を積んで食べたりもしましたよ。

旅先で地元の人々との時間を共有することの大切さとは?

――本作でも、野趣あふれる大自然の中でたくましく過ごしていく人々の姿が目に焼き付いています。ヘリントンさんが訪れた思い出深い場所についても教えてください。

ニューメキシコ州

私はナイアガラの滝には行ったことがなかったのですが、今回ボートに乗って、友人たちと一緒にあの霧の中へ入るという体験ができました。ほかにもいろいろな美しいスポットに行くことができましたが、場所のすばらしさだけではなく、そこで素敵な出会いがあったことも嬉しかったです。ナイアガラの滝では、地質学者の方とご一緒したのですが、ナイアガラがどうやってできて、時代と共にどう変化していったのかを解説してもらえたので、とても楽しかったです。

――では、撮影で行ってみてドキドキハラハラした場所などはありましたか?

非常に風が強い中で熱気球に乗ったことでしょうか。熱気球自体は前にも一度乗ったことがあったのですが、ちょうど私たちが離陸した後に、風が強すぎるからストップのサインが出てしまいました。でも、私たちはすでに空に上がった後だったので、当然ながら着陸しなきゃいけなくなりまして。

――熱気球のシーンは空や景色がとても美しかったのですが、その裏側では意外なドラマが繰り広げられていたのですね!それでどうされたのですか?

グレッグ・マクギリブレイ監督

パイロットの方がとても優秀だったので、ギリギリのところで無事に着陸できました。きっとパイロットは大変だったと思いますが、私たちは終始笑顔で、とてもエキサイティングな体験ができました。

――本作を観ると、旅に出かけたくなりますし、いろいろな冒険もしたくなります。では、これから本作を観るファミリーにメッセージをお願いします。

アメリカには本当に素晴らしい場所がたくさんあるので、ぜひいつかお子さんを連れて、出かけていただきたいです。映画でしか見たことのない場所に、実際に行ってほしいです。また、それらの素晴らしい場所には、そこを自分たちのホームだと言っている人たちがいるので、その方たちとも交流していただきたい。きっとそこでの出会いから、いろいろなことを学べると思うので。

――確かに、映画を観ると、自然の中での出会いやふれあいにも胸が熱くなりました!

また、ここで私自身の実例を挙げさせてください。私は海軍にいたので、30年以上前に日本に初めて来た時、厚木にいました。そこから横浜に行こうと思い、友人と電車に乗ったんです。その時に日本の方が「どこに行くの?」と話しかけてくれました。僕たちは「横浜に行きたいです」と行ってチケットを見せたら、どうやら間違って買ってしまっていたようで。その男性はわざわざ一緒に電車を降りて、買い直してくれました。彼がそこでいろいろとアレンジしてくれたので、僕たちは良い旅をすることができたんです。だからぜひ、旅をして、地元の方やいろいろな人と時間を共有してほしいです。コロナも落ち着いてきたので、ぜひ家族でお出かけを楽しんでください。

取材・文/山崎伸子

『イントゥ・ザ・ネイチャー 自然が教えてくれること』は公開中
監督:グレッグ・マクギリブレイ 脚本:スティーヴン・ジャドソン
出演:ジョン・ヘリントン、アリエル・トウェト、ジェニファー・ファー・デイビス…ほか
ナレーション:野口聡一 公式HP:intothenature.jp

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