後を絶たない保育・教育現場での性犯罪から子どもを守るには?こども家庭庁が発足して注目される「日本版DBS」を専門家が解説

2023年4月に発足した、子ども関連施策の司令塔「こども家庭庁」で、性犯罪歴を持つ者が保育・教育現場などで働くことを規制する「日本版DBS」の導入が注目されています。以前から、日本版DBS導入の必要性を訴えてきた、認定NPO法人フローレンス代表室長 米田有希さんに話を聞きました。

イギリスのDBSをモデルに、日本版DBSの議論が進む

DBSとは、イギリス内務省が管轄する「Disclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)」(前歴開示および前歴者就業制限機構)の略。仕組みとしては、個人の犯罪履歴などのデータベースを管理して、さまざまな職業に就く際に必要な証明書を発行するというものです。

イギリスでは、子どもや障害者に接する職種は最も厳しい基準に

イギリスでは、DBSの前身の制度を含め四半世紀の歴史があります。子どもに関わる職業に限らず、幅広い職種が対象でチェック基準が職種に応じて4段階あり、子どもや障害者に関わる職種は最も厳しい基準になっています。

18歳未満の子どもに12時間以上接する仕事を希望する人は、基準に触れる犯歴がないことがわかる証明書をDBSから取得し、就職希望先に提出することが義務付けられています。イギリス以外でもフランス、ニュージーランド、スウェーデン、フィンランド、オーストラリアなどの諸外国では、子どもに関わる職業の雇用の際、無犯罪証明書の提出やデータベースで犯歴を調べるといった制度が導入されています。

日本版DBSは、イギリスの仕組みをモデルとして導入に向けた議論が進んでいます。

日本では、保育・教育現場での子どもへの性犯罪が後を絶たない

以前から、認定NPO法人フローレンス(以下フローレンス)は、日本版DBSの導入を訴えていました。フローレンス会長の駒崎弘樹氏は、20174月、自身のブログで以下のように綴っています。

たとえ1000人に1人でも、(保育士の中に)性犯罪者がいた場合、子どもの人生に与える負の影響は計り知れません。999のケースで『疑われるのは気持ちの良いものじゃない』と保育士やボランティアの方々に不快感を与えたとしても、1つのケースを見つけられ、子どもの人生を救えたら、どちらを優先すべきでしょうか。僕は後者だと思います。

勤務先の園で18人の女児にわいせつ事件を起こした保育者は、懲役5年6か月に

保育・教育現場での子どもへの性犯罪は後を絶ちません。2023年に判決が下った一例を紹介します。

  • 20226月、勤務先の保育園の女児(2~5歳)18人の衣類をずらしたり、一部の女児の下半身を触ったりしてスマートフォンで動画を撮影して逮捕された、保育士の男に静岡地裁沼津支部は、202323日、懲役56カ月(求刑6年)の実刑判決を言い渡した。

女児18人にわいせつ、保育士に実刑判決…性的欲求満たそうと資格取得 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

  • 20221月、当時担任だった女子児童の胸を触ったとして逮捕された、元教諭の男に那覇地裁は懲役16カ月(求刑26カ月)の判決を言い渡した。

女子児童に強制わいせつ、元教諭の男に実刑判決 那覇地裁 裁判長「教師による性暴力事案。強い非難に値する」(琉球新報) 

報道などで公になっている子どもの性被害は氷山の一角

保育・教育現場で起こる子どもたちへの性犯罪で、このように逮捕されて公になるのは氷山の一角です。警察庁は20233月に「令和4年における少年非行及び子供の性被害の状況」を発表しています。2022年、未就学児から高校生がみだらな性行為などで被害にあった事件は961件でした。しかし未就学児は0件、小学生は12件です。

この数字は警察が介入したもので、さまざまな事情で被害届を出さなかったり、性犯罪にあったという自覚すらなく、親に被害のことを伝えていない子どもたちもいます。また加害者から口止めをされていて、親に言えないケースもあると思われます。

日本版DBSが国会で審議されるのは2023年秋以降の予定

日本版DBSの議論は、まだ始まったばかりです。国会で審議されるのは2023年秋以降の予定です。

日本版DBSの導入に向けては、対象となる職種が議論されると思われます。国家資格が必要な保育士、幼稚園・学校教諭などにとどまらず、資格がなくても子どもと関わるすべての職種を対象にするべきというのが、フローレンスの考えです。

また憲法22条には「職業選択の自由」が定められているので、加害者の職業選択の自由についても慎重に議論されるでしょう。

家庭では、子どもにプライベートゾーンのことを教えてあげて

日本版DBSの導入はまだ先ですが、保育・教育現場の性犯罪から子どもを守るためには、家庭での取り組みも欠かせません。

その一つが、子どもにプライベートゾーンのことを教えてあげることです。子どもには「水着で隠れるところは、人に見せたり、触らせないようにしようね」と教えるとわかりやすいでしょう。プライベートゾーンについて描いた子ども向けの絵本もありますし、文部科学省では、幼児期、小学校低・中学年、高学年など学年別に動画「生命(いのち)の安全教育動画教材」を配信しています。10分ぐらいのアニメーション動画でわかりやすいので、ぜひ親子で見てください。

親は他人事とは思わないで!子どものサインを見逃さないことが大切です

保育・教育現場における子どもへの性犯罪を、他人事とは思わないでください。「うちは男の子だから関係ない」「担任の先生は優しいから大丈夫」「評判のいい先生だから安心」といった思い込みも危険です。加害者は、子どもとの関係性を築くのが上手だったり、子どもや保護者から信頼を得るのが得意な傾向があります。

また子どもは、ダイレクトにママ・パパに被害を伝えないことも多いです。「急に、園や習い事教室のトイレを怖がるようになった」などのサインを見逃さないでください。

子どもの性被害は「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」に相談を

もし子どもが性被害にあったり、気になることがある場合は、「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」に連絡してください。カウンセリング、法律相談などの専門機関との連携もサポートしてくれます。

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記事監修

米田有希(よねだ・ゆき)|認定NPO法人 フローレンス代表室長
前職では 厚生労働省で約19年間、主に医薬品や医療機器の承認・輸入、再生医療等に関する業務に従事。2020年にフローレンスへ参画。国や自治体への政策提言を進めるチームを組成し、マネージャーとしてチームを牽引している。

取材・構成/麻生珠恵

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