会話がなかなか成立しない3歳児。知っている・言えることばの数は増えてはいるのですが、どう働きかけるべき?【言語聴覚士・奈々先生の子どものことば相談室】

「うちの子、ことばの発達がゆっくりなのでは?……」など、子育てをしていると、幼児期、学齢期と様々な段階で、ことばの発達の不安に悩まされるものです。編集部に寄せられたお悩みに、多くの親子の「ことばを育むお手伝い」をされている、言語聴覚士の寺田奈々先生がアドバイス。

ものの名前ばかりで、なかなかやり取りにならない

 知っている・言えることばの数は増えてきたけれども、会話がなかなか成立しません。絵本を読んだり、お散歩に出たときなどに「あれは、○○だよ~」など話しかけるようにしているのですが…。どんな風に働きかけたらいいのかアドバイスをお願いします。(3歳児のママ)

やり取りは、”1往復”・”2往復”と数える

コミュニケーションの力を考えるとき、言える単語やフレーズの数だけを指標にするわけではありません。やり取りに適したことばをうまく使えているか、ことば以外のコミュニケーション(ノン・バーバルコミュニケーション)の力が身についているか……こうした視点も大切な指標です。

やり取りには、自分が話す番・相手が話す番、と、順番の交代があります。うなずきや目くばせなどのボディランゲージ、声などで応答することもありますし、物を受け渡すのもやり取りですね。やり取りは、順番を交代した回数を1往復、2往復と数えます。

たとえば、「お水飲む?」「うん」「どうぞ」「(お水を受け取る)」で、2往復のやり取りと数えます。日常生活では、長く続くやり取りばかりではなく、1往復から2往復の短いやり取りがよく生じます。成長とともに、3往復、4往復と会話を続けることもできるようになっていきます。

「要求」と「報告」に分けて観察してみる

コミュニケーションは、おおまかに2種類に分けて分析することができます。

ひとつは、「要求のやり取り」です。「お菓子を食べたい」「おもちゃを取ってほしい」など、なにか願いを叶えたいとき、用事があるときのやり取りを指します。苦手なことを拒否をするときの「いや!」も、要求のやり取りの仲間です。

もうひとつは、「見て見て!鳥さんいるよ!」のような感動や共感を伝える「報告のやり取り」です。物がもらえるなどの”得すること”は特に起こりませんが、相手が自分と同じ気持ちになってくれる、感じた気持ちに反応をもらえる、など、コミュニケーションそのものが”報酬”として機能しています。

要求のコミュニケーションから練習してみる

親御さんがお子さんのコミュニケーションが一方的に感じるというお悩みを抱えていることがあります。ひょっとすると、「とって」「やって」「いや」など、「要求のコミュニケーション」が中心で、共感などの「報告のコミュニケーション」が乏しいのかもしれません。

 この、用事や要望を伝えることも、立派なコミュニケーションです。まずは、要求のコミュニケーションの経験を積んでいくことも大切です。「やって」のほかに、「とって」「開けて」「見せて」「読んで」など、要求表現にもいろいろあります。要求のコミュニケーションが増えてきたお子さんには、さらにいろいろな表現へと広げてあげましょう。

要求中心で共感や報告の会話が少ない、というのはそのお子さんがもともと備える性質ですから、一朝一夕で変えるのは難しいかもしれません。ただ、コミュニケーションの楽しさに気が付いていく手助けとなるようなお手本をこちらが示していくことならできるかもしれません。お子さんが好きな遊びに、コミュニケーションをひとつ付け加えてみてください。

たとえば、ボール遊びをしているときに、「いくよー!」と声掛けを付け足してみるのはどうでしょうか。

”NO”サインは小出しで教えて、YESサインは「はーい」で応答練習を

そのほか、意外に多いのが、「YES/NOの意思表示がはっきりしない」というお悩み。意思表示は、周囲と自分の両方を大切にするために大切です。優先的に教えてあげたいコミュニケーションスキルのひとつです。

ちょっとしたことでも頻繁にかんしゃくを起こすと思われていたお子さん。実は、”NO”のサインの出し方をまだ習得していなかったためにかんしゃくに繋がっていたということがありました。NOサインは、首を横に振る、腕でバツを作るなど、ボディー・ランゲージでも伝えることができ、ことばで伝えないと、ということは必ずしもありません。感情を昂らせる(たかぶらせる)方法以外で”NO”を伝えられると、本人も周囲も、お互いに穏やかに過ごせることが増えていくでしょう。

 ”YES”のサインは”NO”のサインよりも難しいことがあります。”YES”の意思表示をしないうちに周囲がことを進めてしまうことも多く、見過ごされがちかもしれません。「ボールで遊ぶ?」と聞かれたときに、「うん」や「遊ぶ」などの返事が無く、あれ?無視されたかな?と思ったら、実は遊びたそうにしていた、というお子さんも居ますね。そんなときは、「ボールで遊ぶ人ー?」のように、聞き方を少し変えてみるのがおすすめです。「ハーイ」と返事をするスタイルでやり取りが成立した!というケースは多いです。身体の動きや声がはっきりと分かりやすく、真似をすることで答えやすいなどの背景があるのかもしれません。

 

こちらの記事では寺田先生に「子どものことばの育み方」を伺っています

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寺田奈々|言語聴覚士
慶應義塾大学文学部卒。養成課程で言語聴覚士免許を取得。総合病院、プライベートのクリニック、専門学校、区立障害者福祉センターなどに勤務。年間100症例以上のことばの相談・支援に携わる。臨床のかたわら、「おうち療育」を合言葉に「コトリドリル」シリーズを製作・販売。専門は、子どものことばの発達全般、吃音、発音指導、学習面のサポート、失語症、大人の発音矯正。最新の著書に、『0~4歳 ことばをひきだす親子あそび』(小学館)がある。

イラスト/べっこうあめアマミ(https://twitter.com/ariorihaberi_im

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