『目黒のさんま』はどんな落語? なぜ目黒? あらすじやおすすめ本を紹介【教養としての落語】

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「やっぱりさんまは目黒に限る」と言う有名なこのセリフ、一度は聞いたことあるのではないでしょうか? 落語演目の一つである『目黒のさんま』に出てくるセリフですが、具体的なストーリーを知っている方は案外少ないかもしれませんね。面白いお話なので、子どもの落語入門として取り入れてみてください。

『目黒のさんま』とは

『目黒のさんま』とは、「やっぱりさんまは目黒に限る」のフレーズが有名な古典落語のお話の一つ。原話は不明とされていますが、江戸時代の三代目将軍、徳川家光(いえみつ)が目黒不動参詣の途中茶屋に立ち寄って、さんまを食べたという史実から来てるのではないかと言う説もあります。

お話の内容は、目黒で初めて食べた下魚(げうお)とされていたさんまを大変気に入った殿様が、後日再びさんまを食べたいと家来に話すと、家来たちが新鮮なさんまを取り寄せ、油を抜き骨を抜いたりと丁寧に調理し殿様に差し出しました。しかし、一口食べるとたちまち不機嫌になった殿様。家来に「これはどこのさんまか」確認すると、「新鮮な魚市場で購入しました」と言われた殿様はそこで一言、「やっぱりさんまは目黒に限る」。

普段から手の込んだ高級なものを食べている殿様が、庶民の食べる低級な魚を大変気に入ったことや、魚市場で仕入れた新鮮なさんまを不味いと言い、海のない目黒のさんまのほうが美味しいと言うなど、殿様のその世間知らずな有様を皮肉るお話です。落語の演目には他にも世間知らずの殿様を笑う話はありますが、『目黒のさんま』はその中でもよくできた落語と言われています。

落語の見どころは「殿様が目黒でアツアツのさんまを美味しそうに食べるシーン」と「お城で再度食べたさんまを不味そうに演じるシーン」がポイントで、落ちは「間抜け落(おち)」。目黒ではこのお話にあやかって、現在でもさんまを振舞うイベントが開催されているほどです。

あらすじ

秋晴れのある日、お屋敷を退屈そうにうろうろしていた殿様が、家来の金弥(きんや)を呼び寄せました。退屈しのぎに、もみじを見に行くことになった殿様たち。訓練を兼ねて馬に乗って、お屋敷からあまり離れていない目黒に行くことに。せっかちな殿様は家来を待たずに、飛び出したので家来たちはまともに支度もできないまま慌てて殿様を追いかけました。

普段から馬に乗り慣れていないので、目黒につく頃にはもうお尻が痛くて痛くて我慢できなくなった殿様。下馬した後、これ以上馬に乗りたくない殿様は「戦の時、馬が倒れたらどうするのか」と家来の一人に問いかけました。家来は「それならば走ります」と答えると、その答えを聞いた殿様は、「ではあの丘までかけっこだ」と言い、いきなり走り出したのです。途中、家来の一人が殿様を追い越しましたが「主人の前を走るなんて無礼な奴だ」と叱られてしまったので、家来は殿様の後ろに下がりました。これでは訓練にもならず、誰も殿様に勝つこともできませんね。

何やら魚のいい匂いが

丘のてっぺんまで到着した途端、お腹がぐーぐー鳴った殿様たち。急いで出発したので、家来は弁当を持ってきていません。その時、近くの農家から何やら魚を焼く美味しそうな匂いが漂ってきました。殿様は金弥に何の匂いかと尋ねると、金弥は「これはさんまです」と答えます。

今まで魚と言えば、鯛などの高級なものしか知らなかった殿様は、さんまを食べてみたいと言いましたが、家来たちは「下魚なので、殿様が食べるなんてとんでもない」と必死に止めました。すると怒り出した殿様。家来たちは、慌ててさんまのありかを見つけて、さんまを焼いていた農家のおじいさんに小判を渡し、さんまと白飯を分けてもらいました。小判をもらったおじいさんは慌てましたが、有難く受け取り、さんまを追加で焼いて大根おろしも添えて渡してくれたのです。

さんまを気に入った殿様

殿様の前に、焼きたてのジュージュー、プシュプシュと音を立てた美味しそうなさんまが運ばれてきました。こんな魚、見たことない殿様はおそるおそる食べてみると、その美味しさにびつくりして、たちまちさんまを気に入ったのです。殿様はさんまを全て食べてしまい、残った骨を家来にあげましたが、骨なんか貰って家来たちは嬉しいはずありません。

金弥は殿様に「ここでさんまを食べたことは秘密にしてください」とお願いしてお屋敷に戻りました。その後、さんまの美味しさが忘れられなかった殿様は「再びさんまが食べたい」と屋敷のご主人に伝えます。

丁寧に調理されたさんまが出てきたが

ご主人は、急いで日本橋にある魚河岸(うおがし)へさんまを買いに出かけ、新鮮で上等なさんまを屋敷に届けさせました。張りきった料理人たちは、健康を害すからと油を抜き、小骨を毛抜きで抜き、お汁にいれて殿様に差し出したのです。丁寧に調理されすぎて美味しさが半減した、ぱさぱさのさんまを一口食べた殿様は不機嫌になり「これはどこのさんまだ」と質問すると、ご主人は「日本橋のさんまです」と答えました。そこで、殿様が一言「それはいかん。やっぱりさんまは目黒に限る」と言いました。

登場人物

『目黒のさんま』のお話に出てくる登場人物を紹介します。

殿様

江戸時代の大名。戦のない時代の殿様なので、普段から退屈している。

金弥(きんや)

殿様の家来の一人。いつも殿様に気を遣っている。

農家のおじいさん

さんまを焼いていたおじいさん。殿様たちに、さんまと白飯を分けてあげた。

ご主人

屋敷で料理を仕切っている人。

『目黒のさんま』をよむならこちら

『目黒のさんま』を子どもと一緒によむ時に、おすすめの本を紹介します。語り口調やイラストの雰囲気も本よって様々なので、子どもと一緒に好みのものを探してみてくださいね。

少年少女名作落語〈7〉目黒のさんま 偕成社

それぞれの登場人物のセリフや語り口調が、当時の口調で描かれており、江戸時代の暮らしぶりや雰囲気をリアルに感じ取れる一冊。登場人物がどれも生き生きと描かれているのが魅力です。『目黒のさんま』以外にも有名な落語のお話がいくつか収録されています。

じゅげむ/目黒のさんま (おもしろ落語ランド)  金の星社

ひらがなが多く、現代の語り口調で描かれていて子どもでもよみやすい一冊。絵も可愛らしい雰囲気で、ほっこりした気持ちになります。

落語絵本 六 めぐろのさんま クレヨンハウス

表情豊かなキャラクターたちが笑いを誘う一冊。よみ聞かせながら親も子どもと一緒に楽しめるので、落語入門にもおすすめ。

有名な落語の味わいをぜひ親子で

日常的にテレビや動画サイトは見ていても、その中で落語に触れる機会は限られたものになります。落語には面白い話や、テンポの良い話、皮肉なお話、人情話など、くすりと笑えて人間性を豊かにしてくれるお話がたくさんありますよ。今は、子ども向けの読みやすい本もたくさんあるので、これを機会に親子で落語の世界に触れてみてはいかがでしょうか?

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構成・文/吉川沙織(京都メディアライン)

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