「アンクル・トムの小屋」は南北戦争のきっかけになった? 作者のストウ夫人が伝えたかったこととは。あらすじとともにわかりやすく解説

南北戦争の引き金になったといわれる小説作品『アンクル・トムの小屋』。奴隷問題摘発の書として知られる本作の背景を、作者の人となりや物語のあらすじとともに解説していきます。

「アンクルトムの小屋」ってどんなお話?

『アンクル・トムの小屋』は、初老の黒人奴隷トムの不幸な半生を中心に、当時のアメリカにおける奴隷制度の実態を描いた小説作品です。まずは、本作の基本情報や作者についてを知っておきましょう。

アメリカの女性作家の小説

初版書影 Wikimedia Commons(PD)

『アンクル・トムの小屋』(Uncle Tom’s Cabin)は、1852年にアメリカ合衆国で発行されました。

作者は、同国コネチカット州リッチフィールドに生まれ、ハートフォードにて育った女性作家・ハリエット・ビーチャー・ストウ(Harriet Elizabeth Beecher Stowe)。日本でも『トムじいの小屋』『アンクル・トムズ・キャビン』等のタイトルで、翻訳版が数多く出版されてきました。

作者のハリエット・ビーチャー・ストウってどんな人?

ハリエット・ビーチャー・ストウ Wikimedia Commons(PD)

作者のハリエット・ビーチャー・ストウは、奴隷制反対論者で会衆派教会説教者であるライマン・ビーチャーとロクサーナ・フート・ビーチャーの娘として生まれました。子どもの頃から読書好きで、25歳で結婚し7人の子どもを産んだ後は、育児をしながら新聞や雑誌に物語を投稿して家計を支えたと言われます。

『アンクル・トムの小屋』を執筆したのは、ストウが40歳になる頃。本作はワシントンで奴隷制廃止主義の新聞(ナショナル時代)に連載され、本として出版されるとたった1年で30万部以上売れるほどの注目を集めました。

その後も、同じく奴隷制に反対する物語『ドレッド』(Dred: A Tale of the Great Dismal Swamp)をはじめ、10冊以上もの本を執筆。男女同権が進んでいなかった20世紀後半まではストウ夫人と呼ばれていました。

南北戦争の引き金になったといわれる

そんなハリエット・ビーチャー・ストウのデビュー作でもある『アンクル・トムの小屋』は、南北戦争のひとつの引き金になったと言われています。南北戦争とは、1861年から1865年にかけて、主に奴隷制度をめぐってアメリカの南部と北部が対立して相争った内戦。

本作が連載された当時、アメリカはすでに奴隷解放問題で南北分裂の危機に直面していたため、本作は大きな反響を呼ぶと同時に、奴隷制支持者たちによるアンチ本(多くが「良心的な白人主人の元で幸せに生活する黒人奴隷」を描いたもの)が出版されるほどの多くの批判にもさらされました。

大きな議論が生じたことから、本作は南北戦争のきっかけになったとも言われており、後にストウがA.リンカーン大統領と対面した際には、「あなたのようなしとやかな方が、この大戦争を引き起こしたのですね」と言われたという逸話もあります。

作者(ストウ夫人)はなぜこの小説を書いたのか

20歳でケンタッキー州への旅行に赴いた際に、かねてより話に聞いていた奴隷制度の悲惨さを目の当たりにしたことが、本作が書かれたきっかけになったと言われています。黒人奴隷問題の摘発とともに、彼らの人権が1日も早く取り戻されるよう、祈りを込めて執筆されたのではないでしょうか。

また、大きな批判を呼び南北戦争に起因したとさえいわれる本作ですが、同じ国民が血を流して争うことは、本作が意図したことではないはず。作中でどんなに暴力をふるわれても、自らは決して手を上げなかったトムの、受難時のイエス・キリストを思わせる態度がそのことを証明しています。

あらすじ・ストーリー紹介

ここからは、本作『アンクル・トムの小屋』のあらすじを見ていきましょう。作品の流れがわかる「詳しいあらすじ」と、子どもに説明しやすい「簡単にまとめたあらすじ」の2種類を用意しました。

※以下では、物語の核心に触れています。ネタバレを避けたい方はご注意ください。

詳しいあらすじ

奴隷商人に売られるトム

ある日、アメリカ・ケンタッキー州の立派な農場を経営するシェルビー氏は、親の代から雇われてきた初老の黒人奴隷・トムを奴隷商人に売り渡すことにしました。

シェルビー家で大切にされてきたトムは、信心深く、誠実で、愛情深い人でした。シェルビー氏の息子・ジョージもすっかり慕っており、シェルビー家の面々や他の奴隷たちから惜しまれながらも、トムは商人に連れていかれます。

セントクレア家へ

そんなトムは、船で運ばれる途中に出会ったエヴァという心優しい女の子に気に入られ、その父親であるセントクレア氏に買われました。

奴隷たちを対等に扱うエヴァやセントクレア氏のもとで、トムはよく働き、信頼され、幸せに暮らしていました。そんなある日、エヴァが病気で亡くなってしまい、後を追うようにセントクレア氏も亡くなってしまいます。セントクレア家に残された奴隷たちは、再び競売にかけられ、それぞれ別の場所へと買われていきました。

レグリー農場へ

トムを次に買ったのは、レグリーという、奴隷たちに暴力をふるう残虐な農場主でした。乱暴なレグリーのもとで、トムもまた奴隷への暴力を強いられますが、信心深いトムは決して手を上げません。それどころか、自分に暴力をふるったレグリーたちを「ゆるす」と言い放ちます。暴力をふるわれぼろぼろになったトムの姿とその態度を前に、レグリーたちはついに反省しますが、トムはもう弱りきっていました。

そこにやってきたのは、トムの故郷ともいえるシェルビー家の長男・ジョージでした。ジョージは立派な大人になって、トムを買い戻しにやってきたのです。しかし、ひどい怪我を負ったトムは、ジョージの声を聞くとすぐに、天国へと旅立ってしまいました。

奴隷の解放へ

トムの死を目の当たりにしたジョージは、自分の農場の奴隷たちをすべて解放することにしました。人を「売る」「買う」ということに対して、ジョージは子どもの頃から疑念を抱いていたのです。

中には、「それでも働きたい」という者もありましたが、その場合は奴隷としてではなく、お給料を支払って、平等に暮らせるようにすることをジョージは誓いました。

あらすじを簡単にまとめると…

親切なシェルビー農場でしあわせに暮らしていた黒人奴隷のトムは、ある日、主人の借金返済のために奴隷商人に売り渡されることになりました。トムはふたたび優しい家に買われ、しばらくは穏やかな生活を送っていましたが、その家の人たちが亡くなると、新たに別の奴隷商人に売られ、農場に買われます。

しかしながら、次の農場の人たちはとても乱暴で、毎日暴力をふるわれていたトムはついに殺されてしまいます。そこへやってきたのは、シェルビー農場の息子・ジョージです。トムを買い戻すためにやってきましたが、間に合いませんでした。

殺されてしまったトムを目の当たりにしたジョージは、人を「売る」「買う」ということをやめようと決心し、すべての人と平等に暮らすために、シェルビー農場の奴隷たちをみんな解放しました。

主な登場人物

ここでは、『アンクル・トムの小屋』の主な登場人物を見ていきましょう。

アンクル・トム

本作の主人公で、初老の黒人奴隷。キリスト教の熱心な信者で、裏表がなく誠実。結婚しており、妻と3人の子どもがシェルビー農場にいる。

シェルビー氏

もともとトムを雇っていた農場主。親の代から雇われていたトムとは、自分が生まれたばかりの頃からの付き合い。

ジョージ

シェルビー氏の息子。トムに懐いていて、買い渡されるトムをいつか必ず買い戻すと約束をする。

エライザ

トムとともにシェルビー農場から奴隷商人へと売られそうになるが、息子のハリーを連れて脱走。奴隷制度のないカナダへと亡命する。

エヴァ

奴隷商人に運ばれるトムが出会った心優しい少女。セントクレア家の娘。

セントクレア氏

シェルビー農場の次にトムを買った裕福な家の主。

レグリー氏

トムが最後に買われた農場主。残酷で、奴隷に暴力をふるう。

「アンクル・トムの小屋」を読むなら

『アンクル・トムの小屋』は、日本でも多数翻訳本が出版されています。ここでは、本作を読む際におすすめしたい、子ども向けにやさしく書かれた書籍と、原文を大切にした書籍をご紹介します。

カラー名作 少年少女世界の文学 アンクル・トムの小屋

1969年に小学館より刊行されたカラー版名作全集『少年少女世界の文学』のkindle復刊版。『アンクル・トムの小屋』の物語が、子どもたちにもわかりやすい言葉で綴られます。フルカラーの挿絵も美しく、はじめから終わりまで子どもたちの興味を絶やさない一冊。
ひらがな&簡単な漢字で構成されており、小学校中学年以上のお子さんにおすすめです。

アンクル・トムの小屋(光文社古典新訳文庫)

『アンクル・トムの小屋』を大人が読むなら、まずおすすめしたいのがこちら。2023年に出版された新訳&全訳版で、原文を大切にしつつも、現代人がスムーズに読みやすい言葉で綴られています。かつてのアメリカに存在した奴隷制度の残忍な実態を知る契機にもなる一冊です。

 人の残酷さと優しさに触れ、人権のあり方を意識させられる一作

今回は、『アンクル・トムの小屋』が書かれた背景や、あらすじ、おすすめの日本語版書籍までをご紹介してきました。

目を覆いたくなるような辛いシーンも少なくありませんが、人の残酷さと同時に優しさにも触れ、「人権」のあり方を強く意識させられる作品です。親子で読んで、お互いの意見や考えを交わしてみては。

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文・構成/羽吹理美

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