「デカメロン」とは? 作者は誰? パンデミックから生まれた名短編集の、タイトルの意味やあらすじを解説【意外と知らない古典名作】

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イタリアのルネサンスを代表する小説家・ボッカッチョによる不滅の大古典『デカメロン』。日本語話者にとってはユニークなタイトルが印象に残りやすいですが、世界史的に重要な文学作品です。今回は、そんな『デカメロン』の簡単なあらすじや執筆背景、作者についてを解説していきます。

「デカメロン」とは?

まずは、デカメロンの概要や、書かれた背景、作者についてを押さえておきましょう。

歴史的文学「デカメロン」。イタリア散文芸術の起源に

1492年頃にヴェネツィアで刊行された版/ the BEIC digital library, Wikimedia Commons(PD)

『デカメロン(Decameron)』は、中世イタリア・フィレンツェの詩人であり散文作家としても知られるジョヴァンニ・ボッカッチョ(Giovanni Boccaccio)によって1348年ごろから執筆され、1353年に完成した作品です。

本文は全体を通して、フィレンツェの方言および散文(韻律や定形に制限のない、いわゆる普通の文章)で書かれており、イタリア散文芸術の始まりと考えられています。

『千一夜物語』や『七賢人物語』から影響を受けている一方で、その後の『カンタベリー物語(ジェフリー・チョーサー/英)』や『エプタメロン(マルグリット・ド・ナヴァル/仏)』などに影響を与えました。

男女10人による10日で100話「十日物語」

『デカメロン』 とは、どのような物語かご存じですか?

ペストが蔓延する14世紀のフィレンツェ。郊外へと逃れたあらゆる階層の男女10人は、迫りくる死への恐怖を払拭するため、面白おかしい話やゴシップを代わる代わる語りあいます。『デカメロン』 は、そんな彼らが10日間にわたって語った、という形式で書かれた100篇の物語を収録した短編集です。

『デカメロン』が執筆され始めた1348年、フィレンツェでは実際にペストが流行。同時代を舞台に、さまざまな階層の男女を語り手として綴られる100篇の物語には、当時の社会の様子が他面的に生き生きと描かれます。

「デカメロン」というタイトルの意味は?

『デカメロン』は、ギリシャ語の「10日(deka hemerai)」に由来し、4世紀に書かれた『ヘクサメロン』という作品にならってこのようにタイトル付けられたと言われます。日本語では、『十日物語』と訳されることもしばしば。

また、ダンテの『神曲(英題:The Divine Comedy =神聖なる喜劇)』に対して、『人曲(英語でThe Human Comedy=人間による喜劇)』と呼ばれることがあります。

作者のジョヴァンニ・ボッカッチョてどんな人?

ジョヴァンニ・ボッカッチョ Wikimedia Commons(PD)

フィレンツェの商人の父と、フランス人女性との間に生まれたといわれるものの、出生の詳細は明らかにされていないジョヴァンニ・ボッカッチョ。

フィレンツェで育った彼は、若い頃からダンテの作品を学び、支持していたと言われます。もともと『戯曲(Commedia)』とだけ題されていたダンテの作品に『神聖なる(Divina)』と付け加えて、『神曲』の名称を広めたのはボッカッチョとする説もあります。

代表作には、『デカメロン』や『フィローストラト』『名婦列伝』『異教の神々の系譜』などがあります。

あらすじ・ストーリー紹介

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスが描いた『デカメロン』 Wikimedia Commons(PD)

先述したとおり、『デカメロン』では、10日間すべての日(自由テーマの二日間をのぞく)にテーマが割り当てられ、10人の登場人物が毎日1話ずつ物語を語ります。

ペストからの避難先で10人が話すのは、身近なゴシップが中心。以下では、日毎のテーマと、その内容や印象的なエピソードを簡単にまとめました。

第1日目

自由なテーマ。嘘の懺悔をした後に死んだチェッパレルロが、極悪非道の人間であったにもかかわらず、死後、聖人とされている話など、風刺に富んだ話が語られます。

第2日目

運命の逆転がテーマで、多くの苦難を経験したのちに成功や幸福にありついた人々の話が語られます。貧窮の末に海賊となり、ジェノーヴァ人に捕まって海に突き落とされたランドルフォが、宝石箱に捕まったことでなんとか生き延び一攫千金に成功した話などが印象的です。

第3日目

機知に富んだ言葉の応酬がテーマです。修道士への懺悔のていで自分が好意を寄せる紳士にアプローチする女の話など、さまざまな知恵合戦に関する物語が繰り広げられます。

第4日目

悲恋がテーマです。娘の恋人を殺したサレルノ公タンクレーディ。その心臓を乗せた金の盃を娘に贈ると、娘はそこに毒を入れた水を注いで死んでしまいます。このような、悲劇的かつ不幸な恋人たちの物語が語られる日です。

第5日目

不幸を経たのちにめでたい結末を迎える恋人たちの話がされます。意中の女性を奪おうとしたチモーネが一度は投獄されながらも、最終的には相手と再会しめでたく結婚する話など、感動的な話の数々が語られます。

1890年頃に刊行された『デカメロン』Wikimedia Commons(PD)

第6日目

とっさの機知に富んだ返答によって、危険を回避した人の話が中心。愛人と一緒にいるところを夫に見つかったフィリッパ夫人が、法廷で機知に富んだ弁明をし、自由の身になるだけでなく法律までも改めさせる話など。

第7日目

夫を騙した妻の話など、女性の悪知恵をテーマにした話が並びます。貴族の夫がありながら小姓のピュロスを愛するリューディアの策略など、印象的な話が連なります。

第8日目

男が女を騙し、女が男を騙す話等々、悪戯がテーマになります。「目に見えない宝石」を手に入れたと信じ込む絵描きのカランドリーノと、それをどやす妻、カランドリーノを騙している仲間たちの話など。

第9日目

自由テーマです。夢に見たことが現実に起きる話や、愚弄されたことに対して仇を取る話など、多岐にわたった話が並びます。

第10日目

最終日は、高貴で寛大な行為がテーマです。非道なサンルッツォ公爵に対する、その妻・グリゼルダの忠節ぶりを描いた最終話には胸を打たれるものがあります。

「デカメロン」を読むなら?おすすめの翻訳本

最後に、『デカメロン』を読む際におすすめしたい本・書籍をご紹介します。

デカメロン 上 (河出文庫 ホ 6-1)

2017年に出版された、全訳版&新訳版の『デカメロン』。『デカメロン』で語られた話を、上中下の全3巻で余すことなく楽しめる書籍です。平川祐弘さんによる新しい翻訳によって、立ち止まることなく楽しく読み進められます。

デカメロン(上) (講談社文芸文庫 ホB 1)

『デカメロン』で語られた物語を一部省略し、上下の2巻にまとめたもの。上下巻では、第3、4、7、8日目が割愛されています。「大長編にハードルを感じる」「まずは作品の雰囲気を味わいたい」という方にはこちらもおすすめです。

670年前の人々が身近に感じられるほど「人間らしさ」が凝縮された一作

今回は、世界文学史上重要な古典『デカメロン』をご紹介してきました。

ひとつひとつのエピソードの面白さはさることながら、ペストの悲惨さに直面した人々が「ゴシップに花を咲かせる」という状況がまた味わい深く、どこか共感を寄せてしまいます。670年以上も昔の作品であるにもかかわらず、現代にも通ずる「人間らしさ」が凝縮された一作。ぜひ、この機会にお手に取ってみては。

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文・構成/羽吹理美

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