『はじめてのおつかい』は、子どもの自立への第一歩!【フィナンシャルプランナー監修!絵本で学ぶお金の話】

ファイナンシャルアドバイザーが子育て中のパパママに必須な「お金」の話を、絵本を例にとりながらわかりやすく解説していくリレー連載。第4回は「はじめてのおつかい」という絵本を通して、子どもが経験する「お金の原体験」の大切さについて考えます。子どもと一緒に絵本を読むことで、お金の原点を学ぶことができます。

ロングセラーの絵本『はじめてのおつかい』

キッズ・マネー・ステーション認定講師の髙柳万里です。今回ご紹介する絵本は、『はじめてのおつかい』です。1976年から愛され続けるロングセラーなので、ご存知の方も多いと思います。

筒井頼子, 林明子/著者・編集 福音館書店

5歳のみいちゃんはママに頼まれて、生まれてはじめてひとりでおつかいに出かけます。

自転車にベルを鳴らされたり、転んでお金を落としてしまったり、ようやくたどりついたお店には誰もいなかったり…。揺れ動く女の子の気持ちを、瑞々しく優しいまなざしで描いた絵本です。

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◆『おつかい』で育まれる自立心

さまざまな困難を、責任感や勇気をもって乗り越える

『おつかい』とひとことで言っても、子どもにとっては重大任務です。

みいちゃんは、200円をしっかり握りしめてうちを出ました。

お店に着く直前、はりきって駆けだした途端『すってーん!』と転んでしまいます。みいちゃんは、すりむいた膝の痛みを我慢してすぐに立ち上がり、落とした100円玉を一生懸命探します。この行動から、「ママから預かった大事なお金をなくしちゃいけない!」という責任感を感じます。

お金をみつけて安心したのもつかの間、その後もお店の人がなかなか出てこなかったり、大人のお客さんたちに邪魔されてしまったりと、様々な困難がみいちゃんを待ち受けます。最後の勇気を振り絞って『ぎゅうにゅう くださあい!』と自分でもびっくりするくらい大きな声を出せたみいちゃんに、「まあまあ、ちいさなおきゃくさん。きがつかないで ごめんなさい」とお店のおばさんは何度も謝ります。ほっとしたみいちゃんは、おつりをもらうのを忘れて駆け出しますが、おばさんが一生懸命追いかけてきて、きちんとおつりの20円を渡してくれます。

転んだり、お金を落としたり、おつりを忘れたりという小さな失敗はありましたが、ひとりでなんとかやりとげた!というかけがえのない体験を通して、みいちゃんはおつかいにいく前よりもひとまわり、成長したようです。

作者のおつかい体験をもとに書かれたストーリー

このお話は、作者の筒井頼子さんの実体験がもとになっています。引っ込み思案な長女に、小さな達成感を味わわせることで、自信を持ってほしかった筒井さん。いざおつかいを頼んだものの、実際は心配ですぐに後をつけ、お店でもじもじしている姿を見てたまらず「お店の人いないの?」と長女の前に出ていってしまいました。中途半端な結果となったこの出来事が心に残り、のちに物語として書き上げたそうです。

◆『おつかい』・『お買い物』はお金の原体験

私がはじめてこの絵本を読んだのが、みいちゃんと同じくらいの年頃でした。この絵本に出会う少し前、私もはじめての『お買い物』に行った経験があります。

祖母の家に一人預けられていたある日の午後。100円玉をひとつもらい、『何か好きなものを買っておいで』と言われた私は、歩いて3分ほどのお店まで、生まれてはじめてひとりでお買い物に行きました。心臓が耳のすぐそばで鳴っている様に感じるくらいドキドキしながら、お菓子の棚を隅々まで眺めつくして、意を決してチョコレートをひとつ選び、値段を見ると『50円』とありました。

幼い私は『50円』=『穴の開いたコイン』ということは認識していたのですが、しっかり握っていたのは100円玉。穴が開いてるやつじゃないから、買えないよぉ…と半べそで帰宅した私に祖母は、「100円出して、50円おつりをもらってくればよか。」と笑いながら教えてくれました。そこで私は再びお店に出向き、無事にお目当てのチョコを買うことができました。

この出来事が、私にとっての『お金』の原体験となりました。

絵本を開くと、その時の不安と緊張、買い物を終えた時の安堵感と達成感が鮮明に蘇ります。

絵本の中では、お店のおばさんの、子どもでもお客さんとしてきちんと接する真摯な姿勢が印象的です。みいちゃんのお金の原体験の相手が、こんな大人で良かった、そして、温かく見守る大人が多い日本でありつづけられたらと思います。

◆まずは「おつかい体験」をさせてみること

小学1年生の息子が、はじめて自分のおこづかいで3歳の従弟の誕生日プレゼントを買いに行った時のことです。

「これ、絶対気に入ると思うよ!」と真っ先に選んだのは、戦隊ヒーローのロボットに変身するメカニックな剣のおもちゃ。息子がコツコツ貯めた全財産は1,500円だったので、私は(予算オーバーでしょ!)と思いつつ、「これ、いくら?」と値札を見せました。

「2,800えんかあ…お金、足りないなあ」とがっかりする息子。足りない分を出してあげたい気持ちをぐっとこらえ、「今持ってるお金で、他にいいものあるか探してみよう!」と売り場をぐるぐる回った末、従弟の好きなキャラクターがプリントされたTシャツを見つけました。「1,200円だって。これなら買えるよね!」とほっとした表情の息子。

税込1,296円をレジにて払い、おつりとレシートをもらって無事買い物を終えた息子は、「買えてよかったあ~」と嬉しそうで、こちらも嬉しくなりました。

「体験」から、お金について考え判断するプロセスを大切に

大人としては「これなら買える値段だからこっちにしなさい」とつい口出ししたくなりますが、まずは子ども自身に選ばせ、考えさせ、判断させるプロセスを大切にしてほしいなと思います。これからの時代、膨大な情報に惑わされ、物事を判断するのがますます難しくなっていきます。特にお金に関していえば、使い方次第で人生を大きく狂わすことにもなりかねません。

世界的にキャッシュレス化が進み、現金の流通が急速に減っていくなか、改めて現金(=現物)のやりとりを通じて子どもたちの金銭感覚を養う必要が高まっていると感じています。

◆「信じて、見守る」心のゆとりを持つこと

少々の失敗もあえて経験させること

最近では、子どものおこづかいの使いみちに細かく口出ししたり、とにかく貯金をさせて無駄遣いを一切させないようにしているご家庭も少なくありません。お金で苦労してほしくない親心はわかりますが、各ご家庭の方針は大切にしつつ、少々の失敗もあえて経験させることをお勧めします。子どものころから小さな成功や失敗の体験を積み重ねることで、経験値と学習能力が上がり、将来的には上手にお金とつきあっていけるおとなになれることでしょう。

その為には、子どものちからを信じて、託して、見守る。シンプルですが、これが案外難しいのです。『ほったらかし』ではなく、最初は手助けしながら、一緒に考えながら、一人ひとりの子どもたちの個性と成長段階にあわせて、程よい距離感で見守っていける環境を、社会全体で整えていきたいものです。

「おつかい体験」は見守ることが、子どもの成長に

絵本の最後、赤ちゃんを抱っこしたママが坂の下で手をふっています。ママの目には、ひと仕事を終えたみいちゃんの、達成感あふれる誇らしげな表情が映っているのでしょう。もしかしたらママも、心配でたまらずこっそりあとをつけてきたのかもしれませんね。

誰しも経験する『はじめてのおつかい』は、子どもの自立への第一歩です。家庭内だけでなく、地域ぐるみで、子どもたちの「はじめて」の体験を見守っていきたいですね。

 

髙柳 万里(たかやなぎ まり)

キッズ・マネー・ステーション認定講師/ファイナンシャルプランナー

ファイナンシャルプランナーの夫と、子ども二人の4人家族。

金銭教育を受ける機会が全くないまま社会人となっていたことに愕然とし、必要に迫られて平成二十年にFP資格取得。「未来の自分を養うのは今の自分」をモットーに、保険分野を専門にアドバイスしています。

小学校入学を機にお小遣い制をスタートした息子と、最近お金に興味を持ち始めた保育園児の娘が、一生を通じて上手にお金とつきあうためにはどうしたらよいか、日々試行錯誤中です♪

 

記事監修

キッズマネーステーション|ファイナンシャルプランナー

「見えないお金」が増えている現代社会の子供たち。物やお金の大切さを知り「自立する力」を持つようにという想いで設立。全国に約160名在籍する認定講師が自治体や学校などを中心に、お金教育・キャリア教育の授業や講演を行う。2018年までに1100件以上の講座実績を持つ。


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