『皿屋敷』とは?
幽霊が井戸の中から出てきて「一枚、二枚」とお皿を恨めしそうに数える怪談話を聞いたことはありませんか? 落語界には、その有名な怪談話がベースとなっている落語が存在します。
元となったお話は、下女が秘宝の皿を割ったために井戸に投げ入れられ、その霊が夜な夜な現れて皿の枚数を悲しそうに数える有名な怪談話。それに落語らしいユニークさやオチを取り入れたお話が『皿屋敷』です。本来は上方の落語ですが、東京でも演じる人は多く、人気の古典落語の演目の一つとされています。
『皿屋敷』が広く知られるきっかけとなったのは、1741年(寛保1)に大阪豊竹(とよたけ)座で舞台化された『播州(ばんしゅう)皿屋敷』ではないかという説があります。
原話は、実在した細川家というお家の御家騒動に恋愛事情を絡ませたものと言われています。歌舞伎の河竹黙阿弥(もくあみ)の『新皿屋敷月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)』や、近代的な解釈を加えられた岡本綺堂(きどう)の『番町皿屋敷』なども、講談や映画を通して、多くの人に知られることとなったようです。
全国に似たお話が存在する
『皿屋敷』の原話となる幽霊の話は、日本各地に同じようなお話が存在すると言われています。高知県四万十市には、「お滝という下女が、秘宝の皿10枚のうち1枚を無くしたため自殺。霊として出てきて、皿を数える9枚目に泣き出すので、主人が10枚と答えると泣き止む」というお話があるようです。
福岡県嘉麻(かま)市にも「下女が皿を無くした罪を着せられ井戸に投身、霊として現れ、その皿が縄田家という家に所蔵されている」というお話が残っており、観光地として町づくりにも一役買っています。
『皿屋敷』の落語としての見どころ
『皿屋敷』の主な見どころは、幽霊のお菊さんの演出。初めは幽霊らしく、おどろおどろしい雰囲気を出していますが、徐々にアイドルのような愛嬌のあるお菊さんに変化していくところが見どころ。全く異なる雰囲気ですが、同一人物に演じるのが難しいポイントと言われています。
『皿屋敷』のあらすじ
昔、「青山鉄山」という御武家の屋敷があり、そこに美人な女中の「お菊さん」という方がいました。鉄山はお菊さんに惚れていて、何度も気を引こうとしたがお菊さんには「三平さん」という夫が居たので、青山を受け入れることはありませんでした。
お菊さんの悲しい物語
青山を拒んだことで、逆恨みされたお菊さん。青山は彼女を陥れようと、家宝の10枚組の葵の皿を預けたのです。青山がわざと1枚だけ隠して、残りの皿を持ってこさせて数えましたが、当然ながら何回数えても1枚足りない。
お皿を紛失させて濡れ衣を着せられたお菊さんは、井戸に吊され青山から問い詰められましたが、元より知らないこと。返事ができないのをいいことに、青山はそのまま斬り殺して、お菊さんを井戸に投げ込んだのです。それから、毎夜お屋敷の井戸にはお菊さんの幽霊が出て、 「一枚、二枚…」と皿を数えました。その後、お菊さんの祟りにあった鉄山は気が狂い自殺したと言われています。
肝試しに行った若者たち
たまたま旅をしていた若者たちは、町の人にその皿屋敷が近くにあることを教えてもらいました。「必ず、お菊さんがお皿を6枚数えるまでに逃げろ。そうでないと、祟りで死ぬことになる」と言われて、「それまでに帰れば大丈夫だろう」と軽い気持ちでお菊さんを見に行くことになったのです。
井戸を発見した若者たちは、丑の刻までお菊さんを待ちました。本当に現れるのか、固唾(かたず)を呑んでいると、なんと目の前にお菊さんが現れたではありませんか。
お菊さんは、ゆっくりと恨めしそうに皿を数え始め、そして、逃げろといわれたタイムリミットの6枚に近づきました。当初、若者たちは「3枚くらいの時点で帰ろう」と約束していましたが、なかなか帰ろうとしません。それは、お菊さんが怖くて足が動かないのではなく、なんと彼女の美しさに見とれてしまっていたからなのです。しかし、6枚が近づいた時にさすがに我に返り、逃げ帰りました。
まんざらでもないお菊さん
その後、若者たちはこの内容をことあるごとに武勇伝のように話したところ、「一度でいいからお菊さんの幽霊をみたい」という人が殺到したのです。これに目をつけた商売人が、見物人相手に弁当やお酒を販売したり、見学ツアーをくんだりなど、なんと商売を始めてしまいました。
毎晩殺到する見物人に、幽霊のお菊さんはさぞかし怒ったかというとそうではありませんでした。徐々に見物人が増えるにつれて、お菊さんもみんなに見られてる優越感に浸り、なんとファンサービスまで始め出したのです。
ついにお皿を9枚まで数えてしまった
そんなある日の夜のこと。観客があまりに多すぎるために見物人たちは6枚の時に逃げられず、ついにお菊さんは9枚まで数えてしまったのです。パニックになり悲鳴を上げて、押し合いをする観客たち。しかし、お菊さんは9枚を数えたあとに「10枚、11枚…」と更に数を数え続け、なんと18枚まで数えてしまいました。
見物人の一人が、勇気を出してお菊さんに「なんで18枚まで数えた?」と尋ねました。そうするとお菊さんは、「毎日やるのはさすがにきつい。明日は休ませてもらうから、明日の分も合わせて18枚数えました」と答えたのです。
皿屋敷の登場人物
ここでは、『皿屋敷』に出てくる登場人物を紹介します。
お菊さん
青山鉄山のお屋敷で働いていた女中。美人で、青山に気に入られていた。理不尽に殺された恨みを晴らすため、幽霊として井戸でお皿を数える毎日。
旅の若者たち
お菊の怪談話を聞きつけ、怖いもの見たさでお菊さんのところへ向かった若者たち。幽霊として出てきたお菊さんの美しさに、しばし見とれていた。
青山鉄山
お菊の主人。お菊さんに好意を寄せていたが、何度も断られたため逆上しお菊さんを貶めた。お菊さんが亡くなった後は、呪いで狂死し青山家は断絶したと言われている。
『皿屋敷』を楽しむならこちら
怪談話が元であるからか、他の落語と違い絵本などは少ない印象。ここでは子どもと楽しめる紙芝居や、DVD単行本を紹介します。
さらやしきのおきく (桂文我落語紙芝居) 童心社
こちらは見るだけでも楽しめる、懐かしい紙芝居スタイル。親しみやすく可愛らしい絵柄なので、小さい子どもでも楽しめそう。
桂枝雀 名演集 第2シリーズ 第4巻 皿屋敷 八五郎坊主 (小学館DVD BOOK) 小学館
こちらは映像で楽しぬDVD BOOK。桂枝雀さん演じるお菊さんが楽しめます。
日々に落語を取り入れてみよう
落語はお話の構成やオチがしっかりしており、日常のコミュニケーションにも役立つことでしょう。面白い話から人情話まで、心を豊かにしてくれるお話が揃っていますよ。今とは全く異なる昔の人の暮らしぶりや習慣は、子どもたちにとっては新鮮で新たな世界を知るきっかけにもなるかもしれません。
今は、子ども向けにアレンジされた読みやすい落語の本もたくさんあるので、親子で落語を楽しんでみてはいかがでしょうか?
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構成・文/吉川沙織(京都メディアライン)