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学校に行かない子は「かわいそうな子」じゃない!
小幡和輝さん(以後小幡) 2018年からこのイベントを始めたんですけれど、年を追うごとに不登校に対する社会の考え方が変わってきたなと思いますね。
その理由のひとつに、令和5年3月31日に文部科学省が「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」(COCOLOプラン)を発表したのもあったと思う。いろいろな不登校の対策が盛り込まれているのですが、大きな方針として「不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整える」と。つまり、学びの場は学校だけではない、と言っているわけです。ひたすら「学校に来るためにどうしたらいいか」を議論していた過去とは、かなり変わりました。
今じんこさん(以後じんこ) たしかに、変わってきました。でも、「行けるといいね」「大変なんだね」っていう、悪意はないけれどやっぱり「学校に行くことがいいこと」と思っている人もまだ多くて。言い方はやさしくても、そういう風潮も変えていきたいです。その言葉からも傷つくってあるから。学校に行かない子は「かわいそうな人」じゃないですからね。
小幡 そうそう、まさに。だから僕は「不登校支援」っていう言葉は使わないんですよ かわいそうだと思っていないから。ひとりひとりの保護者もそう思うべきですよね。
「行きたくない」のにがんばらせてしまうと長引く?
小幡 じんこさんのお子さんは今何年生ですか?
じんこ 長男は5年生です。本人は1年生の5月から「学校に行きません」って言っていたのに、どうにかこうにか1年半がんばらせちゃって、2年生の夏から本格的に行かなくなりました。私自身が「行けるようになるといいね、どうにか行かせてあげよう」という方法で子どもを追い詰めた母親でした。あきらかに様子が悪くなって、さすがに私でもわかるというところまで来てしまった。子どもがそこに幸福感がない、という姿を見るのは母としても幸福感がないのに。あれはよくなかったです。
ただ、子どもが行きたくないってときに、無理に行かせるのもどうかなと気づき始めても、周囲が「行けるといいね」「かわいそう」という反応になる。そうすると頭がこんがらがってしまって、「行かせないと!」となってしまう……。
小幡 わかります。たしかに学校は勉強ができる場だし、友達もできる。でも、今はオンライン授業も動画サイトでの勉強もインターネット検索もあるし、SNSで友達もできる。学校に代わる選択肢があるのに子どもを苦しめることはないんじゃないかって思うんですよ。それを発信していきたいですよね。
オンラインやフリースクールで学ぶと公立の学校の出席になるシステム
小幡 たとえば、僕はクラスジャパン小中学園という、オンライン上で勉強やプログラミングなどを教えるフリースクールを経営しています。そこでの学びを生徒がまとめて学校に提出すると、公立の学校での出席扱いになります。
じんこ うちは学校以外のコミュニティにも属しているし、学校の出席制度も使っていますね。20年前だったら考えられないですよね。
小幡 フリースクールにいったら学校を出席にできる制度は昔からありました。僕もそうでした。それが自宅でオンラインで、というのが適用された。コロナになって、学校の勉強自体がオンラインになったりしたので、そこが進んだんですよね。コロナ禍はつらかったけれど、不登校の子においては、メリットの面もあったといえます。
じんこ ホント、そうですね。
小幡 ただね、学校を敵とは思って欲しくないですね。先生もちゃんと取り組もうと思っているんです。保護者の方から「学校の先生が家に来たり、『電話を毎日してお子さんの様子を教えてほしい』とかいやなんですよね」っていう話を聞くことがあるんですけれど。先生自身が心配しているというのもあるだろうし、自治体によっては、学校の先生がそういう対応をしないといけないというルールがあるんですよ。家で虐待をしていないかなど、安否確認をするため、月に一度は生徒の顔を担任が見ないといけない、など。
それ自体が子どもや保護者の負担になっているというのなら、学校や先生の努力もわかった上で、ちゃんと学校側に伝えることも大事です。
「どこで学んでも学校に出席扱い」は自己肯定感が上がる
小幡 この対談では動画を見ている方からの質問も受けています。「不登校の間、学校が出席扱いになったほうがいいのはなぜですか」という質問がありました。
僕がフリースクールに行っていた子どもの頃を振り返ると、通知簿見て出席になっているのを見て、めっちゃうれしかったんですよね。学校とは違う場でがんばっていることを認めてくれる感があって。ほかでやっていることを認めてくれるんだな、だから出席になっているんだなっていう証明みたいに思えましたね。
じんこ うちの長男も同じでしたよ。私は出席日数はどうでもいいと正直思っているけれど、それは乱暴で、自分がやっていることを、学校が認めてくれているっていうのが、子どもにとってめっちゃ大きかったです。逆に、親が出席認定させたいけど子どもはそれを必要としてない場合
小幡 受験の際にもある程度、出席日数は影響はするので、そういう意味でも大事です。
じんこ 自己肯定感に結びつきますね。
小幡 自己肯定感、言ってみればそれがすべてですから。不登校になってメンタルがずたぼろにやられている子って多いなと思います。じんこさんも言っていましたけれど、無理矢理学校に連れて行くと子どもって疲弊していくんですよね。がんばってがんばって折れたときに、ようやく親御さんが気づく。その時点で「休ませます」となってもかなり傷ついているので、この状態から回復するのは大変です。勉強が嫌いになり、モチベーションも自己肯定感も下げてしまうと、メンタル的な回復が難しいですよね。
じんこ 「行きたくない」となった時点で、マイナスを更新していくじゃないですか。もっと早くにあたたかい目線になったらそんなことにならなくてすむのに。学校に行かなくなって、元気になったように見えるんですよね。「じゃあ行けるんじゃないか」って思うかもしれないけれど、目に見える部分と内側は実際違うから。
勉強のしかたはいろいろでいい。ゲームでも学べる!
小幡 今、息子さんは勉強はしているんですか?
じんこ 学校の勉強の仕方でするのは好きじゃないけれど、学ぶのは好きですね。
小幡 学校の勉強のしかたでなくてもいいんですよ。僕は小さい頃クイズ番組が好きで、テレビに出ている芸能人より早く正解したいから、めちゃ勉強しました。あと、僕は不登校のとき、「信長の野望」っていうゲームが好きでよくやっていました。これで日本史が頭に入ったという。
じんこ それを聞いて、「信長の野望」をダウンロードしました。でもうちの子にはハマらなくて(笑)。うちの子はアニメの「ねこねこ日本史」がよかったみたいです。
小幡 人によって合うものは違いますよね。ただ、ゲームはいっぱいやったらいいと思いますよ 最近は対戦要素のあるものが多く、仲間が増えるのもいいと思っています。
ゲームで異年齢の人と知り合う。学校ではできない学びがここに
じんこ ゲームをすると、親以外の大人とも知り合うことができますよね。うちの子もゲームを通して小幡さんに声をかけてもらって、すごくうれしそうだったし、初対面ですごくなついていましたよね。
小幡 僕は中学生の頃、遊戯王カードが好きで大会に出ていたんですが、中2の僕が高校生、大学生、社会人のおじさんとも一緒にプレイして、自分の人生、こんな感じで進んでいくのか、とわかりました。大人になったら受験前はゲームできないんだな、でも社会人になっても土日に大会に出る生活もあるんだなって。学校は同じような年齢の子しかいないから、こういうことは学べません。
じんこ うちの子にも不登校友達がいるけれど、学年はバラバラ、海外の女の子とも仲良しです。ゲームでつながって、おでかけすることもあります。「ゲームする元気があるのになんで学校行かないんだ」って言われたりするけれど、よく考えてみたら、大人は有給休暇があるじゃないって。学校を休んで友達と会うことがそんなに悪いことなのかな。
小幡 学校にも有給休暇みたいな制度を導入してほしいな。現状は「今日学校行きたくないな」って休んだら、ずる休みになるからね。だから年間3日くらい理由なく休んでいい日って言うのがあったらいいなと思っています。……と言い続けていたからかどうかはわからないですけれど、愛知県が「子どもに有給休暇3日間」やってますね。いいことだと思います。
国はもっと不登校の子に予算をつけて!
小幡 不登校でフリースクールに行っている子もいると思いますが、視聴者の方から「フリースクールの利用料が高い」という意見が来ています。4万円くらいかかったりしますからね。フリースクールを運営している僕からすると、それでも経営的にはすごく大変なんです。経営側はあまり利益がない中、がんばっているんですけどね。
僕が思うに、そもそも不登校の子に使われているお金が少ない。義務教育に使われている予算が1兆5000億円超くらい。でもいじめ対策・不登校支援等総合推進事業に使われているは85億円です。でも不登校の子が2.5%と言われているのだから、本当は400億くらいは使われていないとおかしいんですよね。誰が苦しんでいるかというと、当時者のご家庭です。
じんこ 子どもに負担を背負わせるのはよくないし、保護者が「お金がかかるからフリースクールには行けないよ」と言うのはイヤだと思うし。
小幡 東京都では、「調査研究事業への調査研究協力」という目的で、フリースクールに通っている一定の条件を満たす家庭に月2万円の協力費を出すんですよ。この仕組みはすごくいいですよね。でも、自治体単位で先進的なところは救われて、そうじゃないところは…っていうのもいやですよね。それに、フリースクール自体、東京や大阪は多いかもしれないけれど、僕の出身の和歌山県は県全体で5件くらいしかない。
そう考えると公立の小中学校ってすごいな、すばらしいインフラだなと。子どもがひとりで行ける距離にちゃんと日本中に整備されているから。
じんこ でも、そこに合わない子が2.5%いて、潜在的な不登校はもっと多いと言われていますよね。私は『学校に行かない君が教えてくれたこと』(オーバーラップ)という本を出したんですけれど、これは社会に読んでもらいたい。当事者だけでなく、社会に読んでもわらないと変わらないから。
小幡 そうですね。社会が変わって、不登校に対する見方も変わり、どんな子にとっても安心してのびのびと過ごせる環境を作りたいですよね、これからも発信していきましょう!
今じんこさんが息子さんの不登校を語った記事はこちら
「不登校は不幸じゃない」YouTube配信はこちら
プロフィール
漫画家、グラフィックデザイナー。2023年4月にコミックエッセイ『学校に行かない君が教えてくれたこと 親子で不登校の鎧を脱ぐまで』(オーバーラップ)を発売。3日で重版に。マイウェイ長男・お気楽次男・不憫な夫との毎日をインスタグラムやブログで発信中。第4回コミックエッセイ描き方講座でグランプリ受賞。