子どもの読解力を伸ばす「速聴読(そくちょうどく)」メソッドとは?年長から高校生までを教えることばの学校に聞いた!

読解力が乏しい子に「読書が効果的だから」と親が本を渡しても、子どもは読もうという気分になかなかなれないもの。それどころか、さらに本を読むことが嫌いになり読解力も伸びないまま……という悪循環に陥るかもしれません。一方で、読書が好きでたくさん読んでいるのに「国語の読解問題は苦手」という子もいます。読解力はどうしたら伸びるのでしょうか? 今回は「速聴読(そくちょうどく)」というメソッドを使った読書法で子どもたちの読解力を伸ばしている「ことばの学校」の開発・運営責任者、須藤孝行さんにお話しを聞きました。

子どもの「もっと読みたい」を刺激するサポートとは

読解力は「読書をすれば必ず上がる」というほど単純ではありません。とはいえ、「ことばの学校」で行っているのも「読書で」読解力を伸ばすというやりかたです。ただ「本の読ませ方」に工夫があります。「読む」というと声に出して読む音読や目で追う黙読をイメージしますが、子どもが読みやすい、活字を追うこと自体が楽しくなる読書のテクニックはほかにもあります。「ことばの学校」ではどのような読書体験が繰り広げられているのでしょうか。

「ことばの学校は国語の授業ではないので〝教えない〟のが大きな特徴です。講師は子どもの年齢や学年は関係なく、そのときの子どもの読書力をチェックして、それに見合った良書を、子どもが読みながらすんなりと理解できるように環境を整え、読みたくなる気持ちにさせるのが役割です」と須藤さんは話します。

「良書多読」「速聴読」「読書ワーク」で読む力を上げる

その秘密は「良書多読」「速聴読」「読書ワーク」という3つ柱からなる読書体験をしていくことにあります。読書とは子どもが好きな本を読み進める」経験ですが、ことばの教室では3つの柱を意識しながら読むことで、少しずつ語彙力、聞く力や話す力、書く力、読解力がバランスよく伸びていくのが特徴です。

「本を読むのってこんなに楽しいんだ!」という体験を重ねた子どもは、さらにいろいろな本を読み進めるうちに、「読書が好き→読解力も身につく→もっと読む」という好循環がつくられていきます。

良書多読――自分の国語力のレベルに合った良書をたくさん読む

ここで言う「良書」とは、国語のプロ講師が子どもの読書力や心の成長を考えて「この時期にぜひ読んでほしい」と厳選した本のこと。教室の本棚にはそうしたプロの目線で選ばれた本がずらりと並んでいます。それらをストーリーの長さ、難しさなどからレベル別に10のグレードに分け、スモールステップで少しずつ読書レベルを上げていくしくみになっています。

例えば最初のグレードは、漢字がない絵本タイプの本。年長から小学1年生はここから始めることが多いといいます。このグレードの本に慣れてきたら、ファンタジーや冒険ものなどの物語、子どもたちに人気のシリーズものや名作文学へと少しずつグレードアップし、さらに伝記や人生・社会問題がテーマになった作品へと読む本のジャンルを広げていきます。小学校高学年から中学生、高校生にかけては、中学・高校入試に頻出する作品や論説文、教科書必掲の古文など、文章量も多く多彩なジャンルの作品を読むようになります。

「親や子ども自身が本を選ぶと、どうしてもジャンルが偏ってしまいますが、ここではいろんなジャンルの本をバランスよく読ませるので、好奇心や興味が広がり、語彙力も増えていきます」と須藤さんは話します。

「ことばの学校」で読む本の一部。子どもたちは少しずつグレードを上げながら、年間40冊以上の本を読みこなします。

 

速聴読――朗読音声を聴きながら手元の本を黙読する

 子どもたちはそれぞれ専用タブレットを使って、自分が読む本の「朗読音声」をヘッドフォンで聴きながら、音声にあわせて手元の本を黙読します。

朗読音声を耳で取り込むメリットとは

「読書が苦手とか、文章を読むことに慣れていない子は、黙読のときに一文字単位で読むくせがあり、‶読んでいるのに意味はわからない〟ということが多いのです。教室では、プロのナレーターが読み上げる朗読音声に合わせて読んでいくので、文章を意味のある言葉のまとまりとしてとらえることがスムーズになります」

読む速さの調節をしながら多読につなげていく

 朗読音声の速度は25段階(0.5倍速から10倍速)で自由に変えられるので、子どもは自分のペースで読み進められます。「展開の早い物語は速いスピードでぐいぐい読み、説明文は少し遅くしてしっかり読む」など、自分の理解度や好みに合わせて変えられます。スピードを少しずつ上げて速く読むことに慣れると、速読や多読につながります。子どもがどのくらいのスピードで読んでいるか講師は把握しているので、やみくもに速く読んで内容を理解できていないようなときは、適切なスピードに修正されます。

読み切る体験が全体をつかむ力をはぐくむ

また、読んでいる本のなかに「知らない意味の言葉や言い回し」が出てきても、そこで読むのをやめることなく最後まで読み切ることができるのも、朗読音声といっしょに黙読するメリット。意味や読み方がわからなくても前後の文章からなんとなく想像できたり、一つの言葉の意味がわからなくても全体の意味はだいたいわかることも体感できるようになります。それが考える力や想像する力につながっていきます。読めない漢字も音声が助けてくれるので、スラスラ読む快感を味わうことができます。

タブレットから流れる朗読音声に沿って黙読。「読みながら同時に内容も理解できる」というのは、子どもにとっては大きな喜びや達成感。「もっと読みたい」という気持ちにつながります。

読書ワーク――読みっ放しにせず語彙や表現を学ぶ

本の楽しさ、感動に触れた後は、そのまま読みっ放しにするのではなく、オリジナル教材「読書ワーク」で振り返ります。

「ワークでは登場人物を整理したり、本に出てきた言葉や言い回しの意味を確認したりしながら、本の内容を改めて理解します。文章の前後から言葉の意味を考える文脈類推の問題などで語彙力も高めていきます。せっかく読んだ本をただ‶楽しかった!〟で終わらせず、読書を効果的に国語力に結び付けていくことを大切にしています」

 

読書ワークで、読んだ本の内容や言葉を確認。本の中から言葉の使い方を学ぶことで、言葉を「いきたかたち」で身につけられます。

子どもが「好きな本」を親子で楽しむことから

 読解力は国語だけでなく、算数や理科、社会など他の科目でも必要ですし、教科だけでなく人とのコミュニケーションを円滑にするためにも欠かせない力なので、子どもたちが成長する過程で身につけたいものです。だからこそ、読解力や語彙力、想像力といった力を大きく伸ばすような読み方ができるといいですね。

「大事なのは速く読むというスキルではなく、本を読みたい、読書が楽しいという能動的な気持ちです」と須藤さんは強調します。

読書のスキルが上がると読解力も上がる

「ことばの学校」の受講者の保護者からは、「読むスピードが格段に速くなり、話の内容をまとめて相手に伝える能力が上がったと思う(小学2年生女子の母)」、「本を読むことが楽しくなり、国語が得意科目になった(小学5年生男子の父)」など、子どもの読解力を含めた国語力の向上を実感している声が多いといいます。読書が楽しくなったからこそ、その効果として読解力を始めとする大事な力を実感できるのでしょう。

「家でもぜひ、子どもが読んだ本について家族で感想を言い合ったり、音読をしたら親は上手に読めたことを褒めてあげたりして、子どもが読書の楽しさを持ち続けられるようなサポートをしてあげてほしいですね。親の‶読み聞かせ〟もとてもいいです。子どもが文字を覚えたから‶もう一人で読みなさい〟と突き放さずに、小学校中学年くらいまでは読み聞かせながら、親子の楽しい時間を持てれば素晴らしいと思います」と須藤さんは話してくれました。

記事監修

須藤孝行さん|ことばの学校事務局 開発・運営責任者

朗読音声を使って黙読するという独自の読書法で、読書の楽しみを実感しながら、語彙力や読解力を含めた「国語力」を高める学習システム「読むとくメソッド🄬」を開発。全国の学習塾に提供している。現在、「読むとくメソッド🄬」を取り入れている学習塾は全国で450教室を超え、年長から高校生まで計25000人以上の読書好きの子どもたちが育っている。ことばの学校https://site.kotobanogakko.com/kotoba/

取材・構成/船木麻里 

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