帰ってきた整クン!菅田将暉主演『ミステリと言う勿れ』には心が整う浄化作用があった

遂に天然パーマのあの男が、スクリーンに降臨。映画『ミステリと言う勿れ』も、ドラマ同様に、様々な人々が持つ心の澱を浄化させてくれる新感覚ミステリーに仕上がっていました。

原作でも人気の“広島編”に豪華キャストが集結

©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27 社

田村由美の大人気漫画をフジテレビ月曜9時枠でドラマ化し、人気沸騰となった『ミステリと言う勿れ』が、満を持しての劇場版として登場。原作でも大人気のエピソードとされる通称“広島編”が、映画ならではのスケール感で映像化されました。

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主人公は菅田将暉演じる天然パーマの大学生・久能整(くのう・ととのう)。カレーをこよなく愛するごく普通の青年ですが、気がつけばなぜか様々な事件に巻き込まれてしまいます。そんな整ですが、実は鋭い観察眼の持ち主で、いつの間にか登場人物たちの心の奥を見抜き、彼らが抱える様々な悩みや、事件の謎をも解き明かしてしまいます。

今回、整がうっかり首を突っ込むことになったのは、代々、遺産を巡る争いで死者を出してきたという名家・狩集(かりあつまり)家の遺産相続事件。柴咲コウ、松下洸平、町田啓太、原菜乃華、萩原利久、鈴木保奈美、滝藤賢一ら実力派キャストによるアンサンブルによって、超難解な事件が描かれていきます。

ミステリー映画の醍醐味を感じる修羅場的な相続争い

©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27 社

まずは、ある車が交通事故を起こし、ガードレールを突き破って大破するというショッキングなシーンが描かれます。その後、整は出てこないのに、永山瑛太演じるドラマからの人気キャラクター・犬堂我路の口から、整のキャラクターが紹介されていくというひねりの効いた脚本でつかみはOK。

そしてようやく整が登場!お目当ての美術展を訪れるため、広島にやってきた整に「バイトしませんか。お金と命がかかってます」と声をかけたのは、我路の知り合いだという女子高生の狩集汐路(原菜乃華)。そのバイトとは、狩集家の莫大な遺産相続を巡るもので、整は関わるつもりなんてさらさらなかったのに、例によって、不本意ながらもそのバイトを受けることに。

©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27 社

そして当主の孫で相続権を持つ汐路、狩集理紀之助(町田啓太)、波々壁新音(萩原利久)、赤峰ゆら(柴咲コウ)の4人は、狩集家の顧問弁護士の孫である車坂朝晴(松下洸平)と共に、遺言書に書かれた「それぞれの蔵においてあるべきものをあるべき所へ過不足なくせよ」というお題に従い、遺産を手にすべく、謎を解こうとしますが……。

一方の整は、次第に狩集家の遺産相続に隠された真実に近づいていきます。なんとそこには世代を超えて受け継がれる一族の深い闇と秘密が隠されていました。

©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27 社

いつもながら、整は狩集家の人々の行動を逐一よく見ていて、いろんなことを指摘していきます。また「証拠を出せという人はたいてい犯人です」「犯罪とは、人の努力の裏側が出ている」と言った、ミステリー好きでなくても、なるほど!と思わずうなってしまう鋭い推理や豆知識、トリビアをひっぱり出し、少しずつ犯人を絞り込んでいきます。

©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27 社

本作では「犬神家の一族」さながらの修羅場的な相続争いが見応え十分。正直、どいつもこいつも怪しいし、ミスリードもたっぷり用意されているので、この人が犯人だ!と目星をつけたとしても、あっさり裏切られそう。そこがまさに快感なのですが(笑)。

特筆すべきはヒロイン的ポジションとなる狩集汐路役の原菜乃華。思春期ならではの繊細な心のあやをとても丁寧に演じているのでご注目を。

最終的に観る者を浄化していく心地よい映画

©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27 社

原作コミックもそうですが、『ミステリと言う勿れ』の最大の特徴は、きっと浄化作用なんだと思います。劇場版もそうで、かなりおどろおどろしいシーンや、息を呑むような衝撃的シーンもありますが、油断していると、予想外の流れに純度の高い涙がポロリ、なんてことにもなりかねない。

また、人の心の痛みや闇に敏感な整が、その人たちを癒やしていくプロセスにもじんわりと心が温かくなります。特に今回は、整が子どもを「乾く前のセメント」に例えるシーンが秀逸でした。

©田村由美/小学館 ©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27 社

すなわち、まだ固まってないセメントに何かを落とすと、そのままの形がダイレクトに残ってしまい、心の傷となるという子どもの繊細さを物語っています。この比喩が、非常に上手く引用されていて、観る者の心を揺さぶっていくこと、間違いなし。願わくば誰もが整のように、ナイーブな子どもが知らず知らずのうちに大人から受ける言葉の暴力を見逃さないようにしていれば、世の中の悲しいニュースが少しでも減るんじゃないかと思ったりもしました。

また、実は物語の奥底に、親が子どもを守ろうとする愛情や絆が編み込まれている点も本作ならでは。そう、整はいつだって、観る者にとても大切なメッセージをお土産として持たせてくれます。

ということで、原作やドラマファンはもとより、映画単体から観始めたとしても大いに楽しめる映画『ミステリと言う勿れ』。ファミリー映画としての醍醐味もたっぷりあるので、ぜひご家族でお楽しみください。

『ミステリと言う勿れ』は9月15日(金)より公開中
監督:松山博昭 原作:田村由美(小学館「月刊フラワーズ」連載中)
出演:菅田将暉、松下洸平、町田啓太、原菜乃華、萩原利久、鈴木保奈美、滝藤賢一、でんでん、野間口徹、松坂慶子、松嶋菜々子、伊藤沙莉、尾上松也、筒井道隆、永山瑛太、角野卓造、段田安則、柴咲コウ…ほか
公式HP:not-mystery-movie.jp

文/山崎伸子

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