イソップ物語『ねずみの恩返し』の教訓が味わい深い。混同しがちな他の童話との違い、あらすじをおさらい【教養としての童話】

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『ねずみの恩返し』は、大きく強いライオンが、小さなねずみに助けられるお話。「強者も弱者の助けが必要な時がある」という教訓が込められています。今回は、イソップ物語『ねずみの恩返し』について、あらすじや登場人物、教訓から、おすすめの絵本まで、詳しく紹介!
<上画像:海辺の彫像美術館(オランダ・スフェへニンゲン)にあるライオンとねずみの銅像>

『ねずみの恩返し』という物語を知っていますか? まずは、物語の簡単な説明と、『ライオンとねずみ』『ねずみの嫁入り』といった物語との関係を見ていきましょう。

『ねずみの恩返し』ってどんなお話?

『ねずみの恩返し』は、ライオンとねずみの物語。昼寝をしていたライオンに、うっかり駆け上ってしまったねずみは、目を覚ましたライオンに捕まってしまいます。震えながら必死に許しを請うねずみですが… 気になる続きのあらすじは、記事の後半で。

『ライオンとねずみ』は?

『ライオンとねずみ』という物語のタイトルを聞いたことはありますか? こちらのほうが、耳にしたことがある方が多いかもしれませんね。実は『ねずみの恩返し』と『ライオンとねずみ』は同じ内容。絵本などは『ライオンとねずみ』のタイトルで出版されているもののほうが多いようです。

『ねずみの嫁入り』は?

同様に『ねずみの嫁入り』という物語のタイトルも聞いたことはありますか? こちらは『ライオンとねずみ』とは違い、『ねずみの恩返し』とは全くの別物。『ねずみの恩返し』はイソップ物語、『ねずみの嫁入り』は日本の昔話です。

『ねずみの嫁入り』のあらすじは?

『ねずみの恩返し』とは関係ありませんが、せっかくなので『ねずみの嫁入り』の物語のあらすじも簡単に紹介しましょう。

あるところに豊かなねずみの夫婦がおり、待望の女の子を授かりました。女の子のねずみは大変美しく、両親は「この世で一番の娘には、この世で一番の婿を」と思いました。

そこで、両親がこの世で一番だと思っている太陽に話をしに行くと、太陽は「私を隠せる雲のほうが優れている」と言います。そこで雲に話をしに行くと「私を吹き飛ばす風のほうが優れている」と。さらに風に話をしに行くと「私では吹き飛ばせない壁のほうが優れている」と言いました。

壁に話をしに行くと「私にかじって穴を開けてしまうねずみのほうが優れている」と言いました。両親は、自分たちねずみこそこの世で一番優れているのだと知り、喜んでねずみの婿をもらうことに。その後、娘夫婦はたくさん子を産み、しあわせに暮らしました。

『ねずみの嫁入り』はイソップ童話ではなく、日本の昔話。
『ねずみの嫁入り』はイソップ童話ではなく、日本の昔話。

イソップ物語とは?

先ほど説明したように、『ねずみの恩返し』は、イソップ物語のお話の一つ。「イソップ物語」というワードは非常によく聞きますが、みなさんどのくらい詳しくご存知ですか? 作者や時期、有名な物語など、イソップ物語について詳しく見ていきましょう。

作者は?

イソップ物語は、「イソップ童話」「イソップ寓話」とも。古代ギリシア時代に奴隷だった、アイソーポスが作ったとされています。イソップとは、アイソーポスの英語読み。

彼について詳しいことが書かれている文献は残っていませんが、一般的には、現在のギリシャのサモス島に住んでいたと言われています。奴隷でありながら、物語を作る才能があり、それを知った主人が奴隷から解放したのだとか。

いつできた?

イソップ物語が作られたのは、紀元前6世紀ごろと言われています。今から2500年以上も前のことだと思うと、気が遠くなるような長さですね。当時はイソップが語り歩いて物語を広め、のちに書物としてまとめられています。

1867年に刊行された英訳本。同時代のイギリスの文学者タウンゼント(George Fyler Townsend)によって翻訳され、英語圏で広く普及した。Wikimedia Commons(PD)

有名な物語一覧

イソップ物語の中でも、有名な物語を一覧にしました。読んだことがあるもの、ないもの、気になるもの… チェックしてみてくださいね。

・北風と太陽
・うさぎとかめ
・オオカミ少年
・すっぱいブドウ
・アリとキリギリス
・肉を落としたイヌ
・町のねずみと田舎のねずみ
・金の斧
・ずるいコウモリ
・うしとかえる
・せみとあり
・旅人とクマ
・とりの王様えらび
・金のたまごをうんだがちょう

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物語のあらすじ

それではやっと『ねずみの恩返し』の物語について、あらすじを見ていきましょう! ライオンに捕まってしまったねずみは、どうなったのでしょうか。

あらすじ

一匹のライオンが昼寝をしていたとき、一匹の小さなねずみがやってきました。ねずみは、ライオンに気づかず、うっかり駆け上ってしまいます。

ねずみに気づいたライオンは、すぐにねずみを捕まえ、食べてしまおうとしました。しかし、ねずみは震えながら、一生懸命「どうか助けてください。助けてくれたら、このご恩をいつか必ず返します」と頼みます。

ライオンは「こんな小さなねずみを逃がしたところで、自分が助けてもらう機会はない」と思いましたが、あまりにも必死なねずみの姿を見て、逃がしてやることにしました。ねずみはたくさんお礼を言って、去っていきました。

数日後、ライオンは人間が張った罠に気づかず、捕まってしまいました。ライオンが叫び声をあげると、何者かが走ってやってきます。それは、先日逃がしてあげたねずみではありませんか!

ねずみは「以前は助けてくれて、ありがとうございました。恩を返す時が来ましたね。今助けますから」と言って、ライオンの縄を歯でかじりはじめると、あっという間に縄を切ってくれました。

どんな動物よりも強い自信があったライオンは、小さくて弱いネズミに助けられることはないと思っていました。しかし、絶体絶命の場面で命を助けてもらったことに、驚きながら、とても深く感謝しました。

主な登場人物

あらすじはどうでしたか? 短い物語ですが、もう一度、登場人物と特徴をおさらいしておきましょう。

ねずみ

小さくて力が弱い動物。うっかり昼寝中のライオンに駆け上がってしまう。

ライオン

大きくて力が強い動物。人間に捕まったところを、ねずみに助けてもらう。

『ねずみの恩返し』の教訓は?

イソップ物語には、人生や人間の教訓が多く込められています。この『ねずみの恩返し』が伝えたい教訓は「強者も弱者の助けが必要な時がある」ということ。

そのことをふまえ、自分が他者よりも優れていると驕らず、どんな相手をもぞんざいに扱わず、自分の態度や言動を謙虚に修めていくことが大切。この物語はそんなことを教えてくれているのではないでしょうか。

『ねずみの恩返し』読むなら

今回は、子どもたちにも楽しく読み聞かせられる『ねずみの恩返し』の絵本を3冊紹介。絵本は『ライオンとねずみ』というタイトルで多く出版されています。

『イソップねずみの イソップものがたり(2)ライオンとねずみ』(あかね書房)

しもかわらゆみによる、美しく繊細なイラストが魅力的な絵本。

『イソップえほん ライオンとネズミ』(岩崎書店)

蜂飼耳による読みやすい文章と、西村敏雄による特徴的なイラストが子どもの心を掴む絵本です。

『イソップものがたり ライオンとねずみ』(光村教育図書)

ジェリー・ピンクニーによる、緻密で迫力のある美しいイラストが印象的な絵本。2010年度に米国でコルデコット賞を受賞しています。

小さい子どもから大人まで楽しめるイソップ

イソップ物語を始め、昔から語り継がれてきた物語には、さまざまな教訓が込められています。『ねずみの恩返し』は大人に響くそんな教訓がこめられているいっぽうで、難しいことを抜きにして、小さい子どもでも単純にストーリーを楽しめます。イソップ童話のそんな懐の深さをいろいろ読み比べて見ても楽しいですね。

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構成・文/伊藤舞(京都メディアライン)

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