「ほめる」と「叱る」は一緒⁉ 大切なのはコントロールではなく・・・「認める子育て」について考える【天野ひかりさん×今木智隆さん対談】

タブレット教材の RISU Japan 代表で『小学生30億件の学習データからわかった 算数日本一の子ども30人を生み出した究極の勉強法』の著者・今木智隆さん。NPO法人親子コミュニケーションラボ「おやこみゅ」代表理事、育児関連のトークショーなどの司会も務めるフリーアナウンサーでもある天野ひかりさん。育児や教育を専門としたお二方に、昨今特に注目されている「認める子育て」について、話し合っていただきました。

「ほめる」も「叱る」も子どもをコントロールするための手段

今木智隆さん(以下:今木) 我々RISU算数で「才能ほめちぎりチャレンジ」というイベントを開催しました。「10/31~11/5は子どもを思いっきりほめる1週間にしよう」という内容なのですが、参加してくださり、子どもをほめることの重要性に気づいたという声もいただきました。

天野ひかりさん(以下:天野) それは素敵なイベントですね。今、まさにほめる子育てはトレンドとも言えるのですが、一方でここ1年くらいは「ほめる子育てをがんばっているけどうまくいかない」「ほめることで子どもをコントロールしている気がする」。こんな声も聞こえてくるようになりました。

親子コミュニケーションからアプローチする天野さん(左)と、30億件ものビッグデータから教育を考える今木さん(右)。それぞれの立場から考える「ほめる」「認める」子育てとは。

「ほめる子育て」には弊害も

今木 ほめる子育ては、やはり多くの方が実践されているんですね。そして、そこに悩む方もいらっしゃるんですか。

天野 ほめる子育ての弊害のようなものも出てくるようになっています。小さい頃からほめる子育てを実践されていて、現在小学校低学年のお子さんがいる方から「子どもが癇癪を起こすようになった」という声をよく聞くようになりました。

今木 ほめる子育てをしていると、癇癪を起こすようになる。そういうデータがどれだけあるかは分からないですが、たしかに癇癪をほめるのは難しいですね。

天野 そうなんです。ほめられてきた子どもは、お母さんが喜ぶことを一生懸命やったり、お父さんの喜ぶ顔が見られるかどうかを選択の基準にしたりしてきたんですよね。ですが、7~8歳くらいになって自我が出てきて、自分がやりたいことと、親がほめてくれるであろうこととの間に乖離が出てきてしまい、それが原因で、どうしていいかわからずに癇癪を起こしているんです。

今木 なるほど。その子がもう少し大きくなるとどうなっていくんでしょうか?

褒め続けた結果、親の顔色を見る子に

天野 高学年くらいになってくると、難しいことにチャレンジしなくなるんです。ほめられる子であり続けたい一心で、難しいことに挑戦して失敗したら、親をがっかりさせると感じるんですよね。

今木 失敗することを親の期待を裏切ると感じるんですね。さらに大きくなるとどうなるんですか?

天野 大学生や社会人になる手前頃になると、自分が何をしたいのかわからなかったり、自分に自信を持てなかったりする子が多くなってきます。今までは親にほめてもらえそうな学校や部活を選んでやってきたけど、就職活動などで自分のこの先のことと向き合った時、何をしたいかがわからないのです。

「ほめる」は、子どもに親の言うことをきかせる手段であって、子どもの主体性(自己肯定感)を育むこととは違う、と天野さん。

今木 選ぶ軸が親になっていたら、楽しめないことも出てくるでしょうね。

天野 そうなんですよ。こういうお悩みは、ほめる子育ての弊害と思いつつ、ほめることが良くないわけではなく、ほめ方が重要なのかな?と感じています。

今木 今までのお話を聞いていると、ほめるのも叱るのも、親がいいと思う物事に向けて子どもをコントロールしているという意味では一緒に感じますね。

天野 まさにそうなんです。叱られて育っている子は「どうやったら叱られないか」を、ほめられて育っている子は「どうやったらほめられるか」を気にしています。両者とも、親の顔色をうかがっているんですよね。叱ることもほめることも軸は親にあるんです。

今木 うんうん、そうですよね。先ほど、天野さんはほめ方が重要とおっしゃっていましたが、そのほめ方とはどういうことですか?

「認める子育て」は、黙認することではない

「個々のケースはあくまで一例であって、データとして裏付けできることかどうかはわかりませんが…」と時に慎重な態度を見せる今木さん。

天野 ほめるではなく、「認める」ことが重要になってきます。認めることは、軸が子どもになっていて、子どもにやらせる・親がコントロールすることの対極にあることなんです。よく、「ほめるの中に認めるがある」「認めるの中にほめるがある」なんてことも聞きますが、ほめることと認めることは実は別物なのです。

今木 「認める」なんですね。具体的にはどのようにして、子どもを認めていくのでしょうか?

天野 子どもが興味を持ったことや面白がったことについて、「それはよくない」「これのどこがいいの?」などとジャッジするのではなく、「あなたはそれが好きなのね」と、ただ受け止めてあげることですね。

まずは、見たままを言語化することから

今木 例えば、ゲームをしている子どもを認めてあげたい時はどうすればいいですか?

天野 「ゲームをしているんだね。これはなんのゲームなの?」と、見たままを言語化します。そこでよくあるのが、「認める子育てをしたいから、ゲームをしている子どもを1時間見守った」ということ。親の立場からすると、「1時間もやっていたんだから、そろそろ宿題をして」と、思ってしまいますよね。しかし、黙認することは認めることにはなりません。

今木 なるほど、今、子どもがしていることを言語化することが、認めるということになるんですね。

天野 はい。子どもの思いを言語化して、自分で判断できるように会話をすることです。例えば子どもが「〇〇ちゃんがムカつくから、明日からみんなで無視する」と言ったとします。思わず「そんなこと言わないの!」と、言いたくなるようなことですが、そこをグッとこらえて、ぜひ、オウム返ししてみてください。

「オウム返し」は、ジャッジせずにありのままの子どもを受け入れる親の訓練にも。

今木 子どもを説得して、「無視する」ことをやめさせたくなりそうですが、オウム返しでいいんですか?

天野 はい、「〇〇ちゃんのことがムカつくんだね」。これだけでいいんです。肯定も否定もせずに、ただオウム返しをします。すると、子どもは「だって〇〇ちゃん、誰にも言わないでねって言ったことを△△くんに話したんだよ」などと、さらに詳しいことを言ってくることが多いでしょう。そうしたら「誰にも言わないでってことを言ったんだね」と、またオウム返しをします。

今木 「認める」というのは、具体性がないけど、「オウム返しをする」ならすぐに実践できそうですね。

天野 ポジティブな話もネガティブな話も、まずはそのまま感情を受け止めます。「どうして〜?」「やめなさい!」と子どものために良かれと思って伝えても、子どもは「否定された」「責められた」と感じてしまいがちなので、まずはオウム返しで受け取ってから、聞きたい事実を4W1H(When、Where、Who、What、How)で聞くといいと思います。そして、このような会話をすることで、子ども自身が自分の頭で考えを整理し、自分で解決法に辿り着くので、大変おすすめです。

子どもをコントロールするのはだめ? 誘導していくことは?

一概に「ほめる」はダメとするより、子ども本人の性格や親子関係、各家庭の方針で使い分けてもいいのでは、と今木さん。

今木 子どもをコントロールするのではなく、誘導していくことが合っている子どももいるとぼくは思うんですよね。自分のやりたいことを言語化できる子ばかりではないし、親が誘導したことを子どもが納得してやっているならいいのかなと思ったりもします。天野さんはどうお考えですか?

天野 コントロールというのは確かに良いことではないですよね。しかし、今木さんがおっしゃるように、やりたいことが明確ではない子どもも中にはいます。そういう子どもに向けて、「こういうことがあるよ」と、新しい世界を見せることは大切だと思います。子どもが明らかにやりたくないと言っていることをやらせることはコントロールですが、提案してあげて初めて気がつくこともあると思います。

今木 あくまでも無理やりではなく、子どもをじっくり観察して、どう接することがいいのかを見極めていくことですね。中には「認める」が合う子がいて、中には「誘導する」が合う子もいる。

天野 はい。子どもを観察することは何より大事なことだと感じています。

互いの経験やデータの積み重ねから見えてきたことを、相互に確認し合うおふたり。対談は熱くも和やかな空気に。

今木 ぼくはデータを見て判断する立場なので、「認める」ということがどれだけ良い結果を生んでいるかという点について断言は難しい。でも、育児をする中で「認める」というメソッドを持っておくと、子どもとの関係性がよくなることはあるのかもしれません。結果としてコントロールすることになる「ほめる」というメソッドも時と場合よっては使いつつ、というふうに理解しました。

天野 おっしゃる通りです。ほめる子育てから認める子育てへの過渡期にある今、「認める」「ほめる」を使い分ける場面も実際はあることでしょう。ただ「ほめることは、叱ると同じように子どもをコントロールしていること」と、時には自問してみることも大切だと思います。
子どもをよく見て、何を考えているのか、何を望んでいるのかを理解するためにも、「認める」ことをぜひ意識していただきたいですね。

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RISU算数がSNSで開催!「#才能ほめちぎりチャレンジ」

今回、お話をうかがった今木さんが代表を務めるRISU Japanでは、10月31日(天才の日)に「ダメ!謙遜。こどもを思いっきりほめる1週間」というキーワードを掲げ、X(旧Twitter)にて「#才能ほめちぎりチャレンジ」を開催しました。

子どものことをほめられても、普段は「そんなことない。うちでは全然やらないんだから」などと謙遜してしまうこともありますよね。もしかすると、そんな何気ない会話に子どもは傷ついているかもしれません。だからこそ、時には子どもの才能に目を向け、思いっきりほめてあげよう! という思いが込められています。

今木さんが代表をつとめるRISU主催「#才能ほめちぎりチャレンジ」。協賛参加したHugKumからは3名の参加者にHugKum賞を。

HugKumもイベントに協賛し、3名の方をHugKum賞に決定! 受賞者の他にも、たくさん子どもの才能を認め、胸を張って自慢しているママやパパの投稿が見られました。

今木さんと天野さんのお話にもあったように、子どもの興味関心があることに目を向けて、それを認め、伸ばしていくような子育てをしていけたらいいですね。

お話を伺ったのは…

今木智隆|RISU Japan株式会社代表取締役
京都大学大学院エネルギー科学研究科修了。ユーザー行動調査・デジタルマーケティングのbeBitにて国内コンサルティング統括責任者を経験後、2014年、RISU Japan株式会社を設立。小学生の算数のタブレット学習教材で、延べ30億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムを考案。国内はもちろん、シリコンバレーのスクール等からも算数やAI指導のオファーが殺到している。
天野ひかり|NPO法人「おやこみゅ」代表理事、フリーアナウンサー
上智大卒。テレビ局アナウンサーを経てフリーアナウンサー。NHK「すくすく子育て」キャスターとしての経験を生かし、子どもの自己肯定感を育てるコミュニケーションアドバイザーとして講演やセミナー講師などを務め、受講生は5万人以上。子どもの笑顔が輝く社会になることを願い、一児の母として子育ての喜びと大変さに共感を持って臨んでいる。『子どもを伸ばす言葉 実は否定している言葉』(ディスカヴァー)など著書多数。
文/本間綾 構成/HugKum編集部

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