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世界一予約の取れないレストランで修業した経験もある料理人・野村友里さん
2012年に東京・原宿にrestaurant eatripを、2019年に東京・表参道にeatrip soilをオープン。ケータリングフードの演出や料理教室、食のドキュメンタリー映画『eatrip』で監督を務めるなど、幅広い活動をしている。
「食の革命家」アリス・ウォーターズ率いるシェ・パニーズで修業した経験を持つ。現在は朝日新聞デジタルにて、UAと『暮らしの音』を連載中。またJ-WAVE「SARAYA ENJOY!NATURAL STYLE」にて、長年ナビゲーターを務めている。著書に『eatrip gift』「春夏秋冬 おいしい手帖」(ともにマガジンハウス)、『Tokyo eatrip』(講談社)がある。
「シンプル」で「美味しい」ことが絶対!イラストを使った子ども向けレシピ本
――まず、子ども向けの料理本を出すことになった経緯をお伺いできますか?
野村友里さん(以下、敬称略):小学館の編集者の方に「子ども向けの料理の本を作りませんか」とお話をいただきまして。
実は私、20年前くらいに子どもの遊び本というか、絵本を作ったことがあるんです。その後、また「絵本を作ろう」というお話はいくつかいただいたこともあったのですが、気軽に手を出してはいけないと思っていたんですね。
ただ、基本的に文字がたくさん書いてあるよりも、“きれい”とか“楽しい”という感覚が私の様々な活動の原点。自分が料理を好きになったきっかけが絵本でもあるし、子どもを通して自由な発想ができたらいいなという思いは以前からありました。
種はあちこちにあったんですが、簡単に手を出しちゃいけないと大切に取っておいた部分もあって、最初お話をいただいたときは「好きだけどやっぱり…」と構えてしまっていました。でも、「やりましょう!」という純粋でポジティブな後押しがあり、やってみようと思ったんです。
料理に関する小さい頃の記憶をたどっていくと、本当にたくさんあったんですね。編集の方と対話を何度も重ねて構想を固めていきました。私が伝えたい“地球を食べる”という感覚やメッセージをちりばめながら、どこか余白があって想像力をかきたてられる本にしたいなと。
――編集者との対話を重ねる中で方向性が固まっていったんですね。
野村:はい。料理に関してですが、子ども向けワークショップを開くなどのいろんなことをやっていたり、いろんな人とお会いしたりしていて。実感とともに思っていたこととやってきたことが重なってくる部分があったので、ちょうどいいタイミングだったのかなと思います。
――子ども向けということで、意識した部分はありますか。
野村:「シンプル」と「美味しい」です。「美味しい」って、やっぱり作る原動力になるので。そして工程も含めて、作りたくなるようなストーリー作りを大切にしました。
――料理工程が写真ではなくイラストになっているのも可愛いです。
野村:そこもこだわったところです。子どもも楽しく読めるように。実際、何人もの友達に「子どもの作りたいものにふせんをはっていったら、ふせんだらけになった」とか、「全レシピを制覇した」という声をもらっています。
――最初に登場するレシピが「ゆで卵」というのが面白いですよね。
野村:私の知人の女性でまったく料理をしない人が、「ゆで卵からやりたい」と言っていて。知り合いの人気フレンチダイニングで、「名物がゆで卵」というところがあるくらい、奥が深いんですよ。本当にいい卵で、いい半熟加減でマヨネーズも自家製で、っていうと、たかがゆで卵、されどゆで卵。ゆで卵を最高の状態で作れたら、けっこう料理の幅も広がるのではと思っています。
例えば子どもに「お母さん、ゆで卵を作ってあげる。どれぐらいの固さがいい?」なんて聞かれて、ちょっと中がとろっとしているような半熟ゆで卵を作ってくれたら、それはもう立派な料理と言っていいですよね。
――本当ですね。本にはウスターソースのレシピもありますが、まず、自分で作るという発想がなかったです(笑)。
野村:自分でソースを作ると、例えば買ってきたコロッケでも、そのソースをかけたらマイコロッケになるんです(笑)。材料が多いから難しそうに感じるかもしれないけど、作ってみると簡単なんですよ。
――私は料理が苦手なのですが、そういう大人も「作ってみたい」と思える本だなと思いました。
野村:私のまわりでも、(この本を見て)子どもが初めて料理を作ってお父さんが感激し、お父さんと毎日交代で料理を作っている、というようなお話を結構聞きます。
「子どもの盛り付けのセンス」がいいとか、「意外とすごく丁寧でびっくりした」とか、今まで子どもと接していても見えなかった部分が見えたという話も聞きますね。本の感想のご連絡では、いいことしか聞かないです(笑)。その反響だけでまた本ができるんじゃないかっていうくらい。
母の手から料理が生み出されていく「魔法」のような楽しさに触れていた
――野村さん自身の料理の原体験はどんなものがあるのでしょうか。お母さまも料理家ということで、一緒に台所に立つ機会も多かったのかなと思いますが…。
野村:母の料理している姿は見ているんですけど、実はあまり一緒には台所に立っていないんです。母は料理しながらしゃべりたいから、私にゆっくりやらせずに、自分で全部やってしまうんですね(笑)。お客様が多い家だったので、買い物に3回も4回も行って、それで家の中もごちゃごちゃになるんですけど、お客様が来る1分前に料理がどんどん仕上がっていくんです。それがなんとなく魔法みたいだなって。
突然の来客も多かったんですが、何か食べさせないといけない相手が来ると、途端に家の中の空気が変わるというか。冷蔵庫の中を見てその場で作っていくのが得意な母だったので、何もないところから料理がどんどん出てくる魔法のような楽しさには触れていた気がします。
――冷蔵庫の中を見てパパッと作れるのは憧れです(笑)。
野村:でも二度とリクエストできないんですよ。母は「そんなの簡単よ」って言うんですけど、本当に再現性がないものが多くて(笑)。でも、時間をかけてゆっくり作るよりも、寸劇みたいにバタバタと作ったほうが盛り上がったりするんです。
それから今でも覚えているエピソードでは、伊勢海老が家にあったことがあって。いただきもののまだ生きている伊勢海老を、弟とお風呂で飼っちゃったんですよ(笑)。「この子は何食べるのかな~」とか言いながら、鰹節をあげたり、名前をつけたりしたんです。そんな伊勢海老が、沸騰したお湯の中に沈んでいく姿を見たときは「終わった…」と思ったのを覚えています(笑)。
それと、母は料理教室も開いていたんですが、その試作で牛タンのシチューを作っていたんですね。そのときお鍋から突き出ている塊の牛の舌を、初めて見て。もう二度と食べない…っていうくらいの衝撃でした。
――あまり普通の家庭では見ない光景ですね。
野村:そうですね。もちろんうちでもよくあることではなくて、だからこそ盛り上がったんですけど。
うちは食卓の会話もすごく多くて。子どもたちは早く食べ終わってテレビを見たいとかもあったんですが(笑)、母は寂しかったのか、食事は親子の会話の時間でした。そのとき耳から入ってきた話は、今も結構覚えていますね。
それが昔の食卓なら三世代とかでいろいろな話が飛び交っていたのかなと思います。うちは来客も多かったので、会話も含めてのごちそうという感じでした。
炊きたてのご飯と、出汁入りの味噌汁があるだけでいい
――とても賑やかで楽しそうな食卓で、うらやましい感じがします。今は自分も含め、ふだん忙しくて、なかなか子どもとゆっくり料理をしたり食事を楽しむ時間がとれない、子どもが食にあまり興味を持ってくれない、という悩みも聞きます。
野村:母親対子どもとか、自分対1人になってしまうと、その関係性の中だけで「どうしよう」となりますよね。意外と第三者が「おいしい」って言うと、子どももすごくおいしそうに見えるのか、よく食べたりします。
――確かに、給食がそれですね。ふだん家で出しても食べないものでも、給食では食べてきたりします。
野村:今年の夏休みに、小学5年生の子が8人くらいうちに来てパスタを作ったんですね。1人がプロデューサーみたいになって本のレシピを読み上げたり、役割分担をしながら。
日本のパスタということでうどんを用意して、パスタ用の乾麺と食べ比べもしたんですが、「やっぱり乾麺がいい」という意見と「うどんのモチモチ感やばい!」という意見に分かれて。「俺はもっと塩があってもいいな」「え、これがよくない?」とか、人によって感覚が違う点が面白かったです。給食も近いと思うんですが、全部自分で作れば味の調節もできて、嫌いな野菜はみじん切りにしちゃうような工夫もできるので、過程を知りながらみんなで作る機会があるといいなと思うんですよね。
――そういう機会を定期的に持つことができたら、とても楽しそうです。
野村:あと、出汁をとるだけで味噌汁をすごく飲むっていう子が本当に多くて。「なんでここの味噌汁は食べるのにうちでは食べないの」と、親はショックを受けるらしいんですね(笑)。でもそうすると最低限、炊きたてのご飯と、出汁でとった具だくさんの味噌汁だけでも十分なのかなと思います。
出汁をとるといっても、前日に鍋の水に昆布を入れておけば昆布水ができて、翌朝に鰹節を入れて沸騰させるだけなので。
――そう聞くと簡単そうに思えますね。
野村:昆布水だけでもおいしいんですけど、うちのお店で売っているいりこを頭がついたまま3匹くらい入れると味がもっと濃くなっておいしいんです。
――それは試してみたいですね。面倒くさがらずに料理しようと思います。
野村:全然、面倒くさくていいんですよ(笑)。デリバリーを頼んだっていいし。平日忙しくても、休日に子どもと一緒に台所に立って1品作ってみるとか。「何曜日に食べたデリバリーのあれおいしかったよね」「じゃあお休みの日に家で作ってみよう」とか。それだけで、平日何もできなかったとしても、いい1週間になると思います。
――すごく心が軽くなりました。最後に、HugKum読者にメッセージをお願いします。
野村:料理を作ることも食べることも、生きているうちに味方に付けると、人を喜ばせたり自分を喜ばせたりできます。作る・食べることと仲良くしてほしいなと思うので、そんなときにこの本があることを思い出してもらえるとうれしいです。
料理って、一人で作るんじゃないんです。一人で作ったとしても、生き物とかいろいろなものとつながっているんです。いろいろなエネルギーをもらって自分ができていることがわかる。小さいときのほうがそういう感覚が純粋に入ってくるかなと思うので、今のうちから種を蒔いておけば、大人になってもその感覚はどこかに残るんじゃないかなと思います。
こちらの記事では小三の男の子が実際に料理を作ってみました。
野村さんプロデュースのグローサリーショップ「eatrip soil」はこちら>>
お話を伺ったのは…
『とびきりおいしい おうちごはん』小学生からのたのしい料理
本当においしい!「食」を伝える簡単レシピ
原宿にrestaurant eatripを開き、世界一予約の取れないレストラン「シェ・パニース」で修業した経験もある野村友里が、大人も驚くおいしさのレシピを、子どもがつくれるようにアレンジ。
唐揚げやチーズオムライス、ハンバーグや生姜焼きなどの基本の料理から、
シェファーズパイ、お花しゅうまい、皮からつくるもちもち水餃子やラーメン、だしの取り方や手作りウスターソースまで、
卵、肉、野菜、魚の料理を、約40レシピ紹介。
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取材・文/小林麻美 撮影/五十嵐美弥