「グローバル・サウス」とは何のこと?
グローバル・サウスと聞いて、何となく南のほうにある国をイメージする人も多いかもしれません。まずは言葉の正しい意味を、あらためてチェックしましょう。
新興国・開発途上国の総称
グローバル・サウスは、アジアやアフリカなどの新興国・開発途上国の総称です。新興国とは、開発途上国の中でも、インドや中国のような経済成長が著しい国を指しています。
主に地球の北側に位置する先進国に比べ、南側にある国が多いため「サウス」と呼ばれているだけで、実際に南半球に位置するかどうかは関係ありません。
どこまでをグローバル・サウスとするか明確な定義もなく、冷戦期の「第三世界」や新興・途上国で構成する国連の枠組み77カ国グループ「G77」プラス中国に代わって使われるケースが多いようです。なお中国はすでに経済大国に成長していることもあり、近年は除外する傾向が強くなっています。
世界の国のうち7割以上が含まれる
2023年3月時点で、世界には196の国があります。そのうち新興国や開発途上国は146カ国と、全体の約75.6%にのぼります。人口においても全体の約74%を占めており、世界の7割以上がグローバル・サウスに含まれるといってよいでしょう。
先述の「G77」は、1964年に開発途上国77カ国で発足した国連のグループで、現在は130以上の国または地域が参加しています。国連加盟国は193カ国なので、単純に130カ国としても約67.4%を占める大きな勢力です。
参考:(ODA) 日本人の私たちだからこそ 世界のために今できること | 外務省
グローバル・サウスの昨今の事情
グローバル・サウスは新しいようでいて、以前から使われていた言葉を別な形で表現したに過ぎません。では以前と比べて、グローバル・サウスの様子はどのように変わってきているのでしょうか。
国際社会で存在感が高まる
グローバル・サウスの中には、経済成長や人口増加を背景に独自路線を歩み、国際社会で無視できない存在となっている国がいくつかあります。
特に注目を集めているのが、2023年1月に「グローバル・サウスの声サミット」を開催したインドです。インドの首相は参加国に向け、グローバル・サウスの声を世界に強く発信していく必要性を訴えました。そのためインドは、グローバル・サウスのリーダーとして、地位を固めようとしているとみられています。
南アフリカやブラジル・トルコも、有力な新興国として存在感を増しています。こうした動きを受け、先進国の首脳が集まるG7サミットでも、2023年に「グローバル・サウスへの関与の強化」が重要課題とされました。
参考:重要課題 | サミット情報 | G7広島サミット2023
グローバル・サウス間での格差も
先進国とグローバル・サウスとの間に大きな経済格差があることは、かねてより問題となっていました。近年ではそれに加えて、グローバル・サウス間での格差も広がっています。前者を「南北問題」、後者を「南南問題」と呼ぶと覚えておくとよいでしょう。
経済的に大きな発展を遂げた国としては、インドやブラジルのほか、工業国の地位を確立したマレーシアやタイ、石油資源の輸出で豊かになったサウジアラビアなどが代表的です。
一方、戦争や内紛・自然災害など、さまざまな事情で経済発展から取り残されている国もあります。国連では特に遅れた国を「後発開発途上国」に認定し、支援強化に取り組んでいます。
後発開発途上国の数は、2022年8月時点で46カ国です。ほとんどがアフリカ大陸にあり、アジアではバングラデシュやミャンマー、ネパールなど9カ国が該当します。
参考:後発開発途上国(LDC:Least Developed Country)|外務省
グローバル・サウスが抱える3つの問題
グローバル・サウスの国々が現在抱える問題には、先進国も大きくかかわっていると指摘されています。主な問題について、原因もあわせて見ていきましょう。
環境悪化
グローバル・サウスの中には、環境悪化に苦しむ国がたくさん存在します。環境を変えてしまった主な原因は、先進国の経済活動です。
近年は地球温暖化による気候変動が問題となっていますが、温暖化促進の要因とされる「CO2」を大量に排出したのは先進国です。しかし気候変動による自然災害は場所を選ばず、グローバル・サウスでもひんぱんに起こっています。
また、先進国がグローバル・サウスにプラスチックごみの処理作業を押し付けたことで、現地では土壌や大気の汚染、児童労働などの問題が発生しています。
資源採掘・工場建設・大規模農地開拓など、自然環境に配慮しない方法で産業育成を主導する行為も、先進国がもたらした大きな問題といえるでしょう。
絶対的貧困
後発開発途上国に認定された国には、「絶対的貧困」と呼ばれる状態で暮らす人がたくさんいます。絶対的貧困とは、衣食住が十分に確保できず、生きること自体が困難な状態です。
国や機関によって定義は異なりますが、一般的には世界銀行が定めた「1日2.15ドル未満で暮らす人」が該当します。該当者は世界に約7億人いるとされ、わずかな生活費を得るための過酷な労働や、栄養失調に苦しんでいるのが実情です。
こうした環境で育つ子どもたちには当然教育の機会はなく、搾取の対象とされて、いつまでも貧困から抜け出せないという悪循環が生じています。
参考:国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン|貧困と世界の子どもたち
労働力の搾取
近年はどのように利益を出しているのか心配になるほど、低価格の商品を目にする機会が増えています。これは主に先進国が、グローバル・サウスの労働力を使って、製品を安く大量に生産していることに起因します。
2013年には、バングラデシュの首都・ダッカ近郊でビルが崩落し、入居していた欧米アパレルメーカーの縫製工場の従業員が、大勢死傷する事件が起きました。事故の原因は、事業主がコスト削減を重視するあまり、安全管理を怠ったことにあります。
この事故で、従業員が低賃金かつ劣悪な環境で働かされていた事実も、広く知られるようになりました。同じような労働力の搾取はいまだに多く見られ、解消が急がれます。
参考:私たちの服 作っているのはどんな人?.pdf19p|JICA
グローバル・サウスを知り問題意識を持とう
グローバル・サウスは、新興国や開発途上国の総称です。同じグローバル・サウスでも、経済発展が著しい国と、その日の食べ物にも事欠くほどの貧困にあえぐ国があり、どこを指すのかで意味合いは変わってきます。
とはいえ、世界の7割以上を占めるグローバル・サウスが、今後も国際社会で重要な位置を占めることに違いはありません。将来を担う子どもにもグローバル・サウスの現状を正しく伝え、問題の解決策などを話し合ってみるとよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部