「失敗を怖がる」子どもたちが増えている!”転ばぬ先の杖”を出す、それは本当に子どものため? 高濱正伸先生に聞く、乗り越える力、打たれ強い心を育てる【失敗体験】の大切さとは

近年増加している「失敗を怖がる」子どもたち。多少何かあっても気にしない、なんとかなると思う心を持つことも大事では…と考える一方、「我が子にわざわざ失敗させることに尻込んでしまう」「失敗して苦しんでいる姿を見るとフォローしたくなる」「幼いうちは親の手助けも大事では?」などの悩みや疑問を抱える方も多いのではないでしょうか。

子どもの強い心を育むために大事なことを考える上で、このたびHugKum読者から「子どもの失敗体験についての悩み・質問」を募集。寄せられたお悩みから抜粋し、花まる学習会代表の高濱正伸先生に回答いただきました!

Q1. 大人が手伝える子どものうちに、あえて失敗体験をさせることは必要でしょうか?(小4・小2・年中の保護者)

「最近は『褒めて伸ばす』『成功体験が自己肯定感を養う』などとよく聞きます。実際に子どもたちも「失敗したくない〜!」と言うし、親としても失敗しないように手伝ってしまっています…」

高濱先生の回答「子どものうちから“失敗+乗り越える”体験をセットで繰り返すことで、一生ものの強い心が育ちます」

花まる学習会代表の高濱正伸先生

子どもの失敗は、例えるなら〝はしか〟のようなもの。ちょっと転んでひざをすりむくとか、友達とケンカをしてイヤな目にあったりとか。そんな失敗を繰り返すことで免疫ができ、少しのことではめげずに立ち向かえる強い心が育っていきます。

親が“転ばぬ先の杖”を出し続けて、失敗の経験を積まないまま大人になると、いざという時に心がぽきっと折れてしまう。人生、とくに社会に出ればイヤなことなんていくらでもありますよね。

アメリカでも自殺・引きこもりの若者が急激に増えて、その理由を研究した『傷つきやすいアメリカの大学生たち』という書籍があるのですが、傷つきやすい若者の背景には過干渉・過保護があると主張しています。

大事な我が子に苦労をして欲しくない、悲しい思いをしないように助けてあげたい、という親心はとてもわかります。

でもぐっとこらえて、口出しせずに自然にまかせてあげましょう。自由に行動すれば失敗や挫折は必ず起こることです。少し遠回りでも失敗を経験させて、そこからの立ち上がり方を一緒に考えてあげるとよいのではないでしょうか。

Q2. 手助けをしていいことと、出さずに見守った方がいいことの見極めのポイントは? 他者に迷惑をかけるかどうかなどでしょうか。(7歳男児の保護者)

「身支度、学習面、友人関係などで子どものうちに『あえて失敗させておいた方がいい』と思うことも知りたいです」

高濱先生の回答「基本は子どもの力を信じてあげて。本当にダメと思ったことだけサポートを」

日常で何を手助けしていいか否かは、一律に決められるものではありません。親の指針として自分なりに試行錯誤するしかないのです。

人に迷惑をかけるといっても、子どもはそのために学校に行っているようなもの。迷惑をかけたりかけられたりしながら、加減を覚えていきます。7歳の男児はほうっておけば何でもしでかしますから、お母さんは笑って見守っていればいい。これだけはダメと思ったことだけに口を出す。それで十分です。

子どもに細々と口を出すのはおすすめしませんが、親同士、気軽に話せる場を作っておくのは精神衛生上とてもいいと思います。「母親アップデートコミュニティ(HUC)」など、ネットで気軽に子育ての悩みを相談しあえるコミュニティもありますよ。

「母親アップデートコミュニティ(HUC」)のルールは「誰も否定しない」こと。

Q3. チャレンジを嫌がる息子。失敗したっていいんだよと諭してもなかなか・・・背中を上手に押す方法を知りたい。(4歳男児の保護者)

「子どもに自分が苦手だと思うこと、うまく出来ないかもしれないと思うことに一歩を踏み出してもらうには、どんな声かけをすればよいのでしょうか」

高濱先生の回答「親の目の届かないところでの、遊び体験を増やしましょう」

親と子、とくに母親と息子の関係が深いとよくある話です。失敗してもよいよと言われても、息子さんは親の期待を感じて尻込みしてしまうのかもしれませんし、親も目の前で子どもの失敗をほうっておくことがなかなか難しい。つい口出し、手出しをしてしまうんですよね。

だからこそ、どれだけ親がいないところで子どもたちに体験をさせるか、が大切なのです。

例えば花まる学習会の野外学習で、子どもたち数十人を川遊びに連れていくと、4歳児は川べりの石で遊んだり、1年生は浅瀬に入ったり、6年生は高いところから飛び降りてみたり、とそれぞれ自由に遊び始めます。

最初は怖がったり、「何をすればいい?」と聞いてきたりする慎重なタイプのお子さんも、誰の評価も気にすることのないフィールドであれば、やがて自分なりの楽しみ方を見つけて夢中になって遊びます。

もし外で嫌な目にあったとしても、帰ってきたら親がぎゅっと抱きしめてあげる。それを繰り返すうちに耐性がついてきます。 

花まる学習会の野外学習の様子。親から離れたところでの遊び体験が大事。

Q4. 元来引っ込み思案で失敗を怖がる娘。気質は変えられる?(8歳女児の保護者)

「公開授業などでも『違ったらはずかしいから』と、挙手して発言をする様子は皆無。赤子の頃からやや敏感なので、気質は仕方ないと思う一方、これからの時代は『自分の考えを人に伝える力』が必要だと思うので、恐れず発言できるようになってほしい…」

高濱先生の回答「場数・経験の総量が大切。自由に発想できる問題で発言に慣れるのも◎」

生まれ持っての気質というのはありますが、発育段階でもありますし、それほど気にすることはないと思います。

3年生は、それまで大人しく見えていた子がすごく変わったりするタイミングでもあるんですよ。

「違ったらはずかしい」と発言できないのは、場数を踏んで慣れることが大切です。花まる学習会では「たこマン」という教材があります。「1コマ目を見てオチを考える」というゲーム感覚で発想力を養うのですが、オリジナルのアイデアを出し合って仲間を笑わせようと大変盛り上がります。決まった正解はなく自由な発想でいい空間だと、みんな安心して手を挙げるんです。

Q5. 子どもが努力しても失敗し続けている時、親としてどう声かけをするべきでしょうか?(8歳女児の保護者)

「目標だった逆上がりが、頑張っても、頑張っても、できません。『大丈夫、できなくてもいいよ』と伝えますが、涙を流して、心が折れそうになっているのをみると辛いです。親として、どう声かけをしたらよいですか?」

高濱先生の回答「アドバイスではなく、あなたが大好きと伝えてあげればOK」

子どもが頑張って失敗し続けるのは最初の挫折だし、いいんですよ。心が折れそうなとき、救いになるのは“自分の存在を喜んでくれる人のそばにいく”こと。

子どもはアドバイスを欲しているわけじゃない。親にできるのはとにかくあなたが大好きだよって伝えてぎゅっとくっつく。言葉とハグをセットで。それでス~ッと傷ついた心が癒えて、また頑張ろうかなとなるものです。

1日の最後に「よかったね」で締めくくるのもとても効果的です。辛いことを経験しておくと最後は強くなれる、よかったね。テストで良い点を取れなくても、課題がわかってよかったよね。

こんな風に1日を「よかったね」で終える声かけをすることで、自己肯定感はグンとあがります。

物語にしてあげるのもいいですね。親御さん自身の経験でも本にあった話でもいいので、頑張って頑張って、最後には乗り越えたんだという話ができると真剣に聞いてくれるはず。物語に力づけられるのは、大人も子どもも一緒です。

「手出しせず見守ること」は意外と難しい。それでも、子どもの力を信じて

「子どもを信じて見守ること」の大切さを繰り返し口にしていた高濱先生。子どものためにあれこれと手助けをしたくなるのが親心ですが、今いちど、それが本当に子どものためになるのか考えたいところ。「失敗の経験を積んで子どもは強くなる」「転ばぬ先の杖を出し続けていないか?」心に留めておきたいですね。

幼少期の失敗への声かけについてはこちら

モンテッソーリ流に解説!子どもが失敗した時、絶対やってはいけないことは?
「失敗=悪」と認識してほしくはない こぼす、落とす、汚すなど、子どもが何か失敗をすると、「なんでちゃんと見てないの!」と叱ってしまうことが...

お話をうかがったのは

高濱正伸先生

花まる学習会代表。1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習塾「花まる学習会」を設立。『小3までに育てたい算数脳』(エッセンシャル出版社)、『あんしんえほん はじめての「よのなかルールブック」』(日本図書センター)、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)など著書多数。

インタビュー・ 文/野村サチコ 撮影/黒石あみ 

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