今回の対談に参加したのは…
株式会社Digikaの橋本さん(以下:橋本)
蘭塾オーナー 国語担当 有田千枝(以下:有田先生)
オランダ・ライデン大学で歴史学の博士論文執筆中。蘭塾で、日本人小中学生と「ほんとの国語力(社会を生きる力)」を楽しく身に着ける活動実施中。同時に、各地のInternational SchoolでIBDP日本文学の講師、15年。
蘭塾 算数/数学担当 山本敦子(以下:山本先生)
東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了後、ドイツ、オランダ、での研究滞在を経て、結婚を機にオランダに移住。現在、蘭塾、アムステルダム補習校の数学講師。
オランダと日本は、教育文化・保護者の考え方が全く違う
オランダは子どもそれぞれのペースで進級する文化
橋本:早速ですが、日本とオランダとの教育の違いで感じたことを教えてください。
山本先生:そうですね、日本との教育の違いは、オランダでは留年が普通という点でしょうか。小学校に入る前からでも留年はあります。
例えば遊ぶことが大好きで、まだじっと座っていられないタイプの子どもに対しては、「この子はまだ座って勉強したいと思えていない」と判断し、もう1年幼稚園にいましょうとなるんです。これは頭がいいとか悪いとかの判断ではなく、単純に「時期ではない 」という判断です。
小学校でも 、本を読むスピードや計算力など上手く進んでない場合はもう1年やりましょうとなります。逆に進んでいる子どもの飛び級もあります。
分からないで進むより、留年した方が良いという考え方
橋本:留年となると、保護者の方の捉え方はどうなのですか?
山本先生:オランダの保護者の方も先生から勧められると、そうね、後で苦労するより良いよね。という感じで(留年の)受け入れに寛容です。子どもも自然に受け入れている印象があります。できないという感じではなくて、ただこの子はもう1回ゆっくり進める方がいいよね、という感じですね。
オランダではこのような選択を受け入れているから、留年しても引け目に感じることはなく、結果、わかる授業を受けられるので、子どもの幸福度が高いのかもしれません。
「子ども=私(親)」ではなく、子どもが主体の教育文化
橋本:なるほどです。日本の教育業界では中学受験の合格を親の勲章のように捉えている方も少なくないという話も聞きます。
山本先生:そうですね、そこが日本とオランダの大きな違いかも知れません。
日本では子どもと私(親)がイコールになる人が多いですが、文化の違いなのか、オランダでは「子ども=私(親)」ではないんです。親御さんにとって「子どもは預かっている存在で、いずれ世の中にお返しする 」という感覚です。なので、「頭がいいとか運動の不得意な子ども」=「親」ではないため、子どものありのままを受け入れる親御さんが多いです。
有田先生:オランダの子どもの幸福度が高いという各種調査がオランダの教育移住への興味を高めているのか、相談を受けることも多いのですが、移住すれば自然に英語が堪能になるわけでもなく、実は日本の2倍、3倍のお子さんの努力が必要になります。お子さんが引き籠りになって帰国されるケースもあります。お子さんの目を見ながら、しっかり話し合って慎重に検討して欲しいと思います。
オランダ教育は、将来についてもたっぷり考える時間がある
橋本:オランダの方は海外への教育移住という選択をしないのですか?
山本先生:オランダでは、基本的には家族と一緒に暮らすものという考え方が一般的なので、離れて暮らす選択肢がないと思います。
橋本:進学というものに対する考え方も変わってくるんでしょうか?
有田先生:オランダでは大学に行かない子の方が多いので、その中で当たり前のように大学進学を考えて来られる日本の方との温度差は感じます。オランダの子ども達が幸せなのは、オランダの社会に合った教育システムの中にいるからで、日本の社会に合った教育システムかというと、ちょっと違う気がします。
山本先生:留年してでもわかるまで勉強させてもらえることや、どのような仕事に就きたいか考えて進むことにも重点を置いているので、専門職のコースに行って資格を取ることも、プライドを持って生きていける強みにつながりますね。
橋本:オランダの子ども達はどの段階で将来というか、進学を考えるのでしょうか?
有田先生:日本でいう中3〜高1の段階ですかね、中高一貫の時期に入るので、学校でも将来を検討・選択するためのプログラムも多く、先輩や専門家の話を聞く機会が提供されます、その中で、教科選択をしていきます。
芸術教育や学校イベントは日本教育が充実
橋本:なるほど。 では、日本教育がすぐれているポイントがあれば教えてください 。
山本先生:美術音楽教育については、日本の方がよかったと思います。私の子どもが通っているオランダの学校だけかもしれない ですが、オランダの美術では 、規定の下地があってその真似をさせるような授業が多かったので、日本の方が自由度高く個性ある作品が出来上がるのが素晴らしいと感じています。
音楽もみんな歌は歌うけど楽器の演奏は習わない。日本だとリコーダーや鍵盤ハーモニカなど、授業の中で色々な楽器に触れる機会が全ての生徒にありますよね。オランダでは放課後に希望する人が先生にお金を払って習うんですよ。それも個別のレッスンになり、みんなで演奏する機会がないので、芸術関係の教育は日本の方が充実しているなと感じました。
あと、どちらが良いのかは分からないですが、運動会は全く違いましたね!
スポーツデイといって、みんなでスポーツをしますが、応援席はないんです。基本的に親はお手伝いで参加。観に来るだけの人はいなくて、競技も各学年、色々なところで別々にやっていて、他の学年の種目を見ることはないんです。
学校では文化祭もないことから、蘭塾では文化祭を開催しています。日本の学校に憧れているオランダの生徒もいて、日本へ留学する生徒は高校の文化祭などの学校イベントを楽しみにしています 。
掃除も一斉にする習慣がなく、自分のところは自分で掃除、という認識ですね。
移住しても「母国語」は大切に
橋本:最後に日本からの移住を考えている方や興味のある方に何かアドバイスがあれば、お願いします。
有田先生:子どもが今後ずっと英語やオランダ語を母語として生きていくなら話は変わってきますが、そうではない場合、母国語(日本語)を大切にして欲しい、そこをないがしろにしてしまうと抽象的思考力が頭打ちになってしまうという経験則があります。
たとえば、お子さんが4、5歳で来られて、ご家族内で「英語圏に来たら日本語は話さない」といった決め事をしてる例をうかがうのですが、すると、中にはお子さんがある程度大きくなった際に母語が年齢なりの思考力に達しておらず、自分の感情をうまく表現できない、抽象的な概念が扱えずつらい、ということも起きます。
そして、一見流暢に話しているように見えても、英語は母国語レベルを越えられないのが一般的です。英語の発音なども大切ですが、話の中身がどれくらい広げられるかもすごく大切なことなので、日本語で本を読み続けることがとても大事になります。
海外で勝負する場合、英語力だけでの勝負ではネイティブスピーカーに太刀打ちできません。自分は何ができるのか、何を持っているのか、が勝負で、そこに英語力が加われば言うことなし、ということなんだな、と長く暮らしていて思います。話に価値があれば下手な英語でも、みんな聞いてくれます。だからこそ、海外に移住してきたお子さんは、お母さん達が思っている3倍ぐらい頑張っていると思います。
子どもに合う教育を
今回はオランダの教育と日本の教育の違いについて、オランダで塾を展開されているお二人の考えを伺いました。
どのような教育が合うかは、お子さんそれぞれで異なりますが、海外移住を検討されている親御さんたちは参考にしてみてくださいね。