スピカ食とは?
まずは「スピカ食」が何なのか見ていきましょう。スピカ食とは、おとめ座の一等星であるスピカが、月に隠される天文現象のことをいいます。
星食ってどんなもの?
スピカ食は「星食」のひとつです。この星食とは何かについて、まずは天文現象で使われる「食」の意味をご紹介しましょう。
スピカ食という言葉はあまり聞きなれないかもしれませんが、「日食」「月食」は知っている方が多いでしょう。
日食は、太陽の全部または一部が月によって隠される現象。太陽と地球の間に月があり、「太陽→月→地球」の順で一直線上に並んだときに、太陽から地球にふり注ぐ光が月によって遮られ、太陽が欠けたり全体が覆われたりするように見えます。

一方、月食は地球の影によって月の一部が欠けて見える現象のこと。月食は「太陽→地球→月」の順に一直線上に並んだときに起きるもので、太陽の光を受けてできた地球の影の中を月が通過することによって、月が欠けて見えるのです。
このように、天体がなんらかの影響で見えなくなったり隠されたりするときに「食」という言葉が使われるのです。
では「星食」とは何なのか考えてみましょう。「日食」は太陽が隠される現象、「月食」が月が隠される現象を指すことから、「星食」は星が隠される現象であると想像がつくでしょう。
地球のもっとも近くにある天体は月で、月は約27.3日の周期で地球のまわりを公転しています。このとき月は、ふだん私たちが夜空に見える星座などのさまざまな天体の前を通りすぎることがあります。そのときに月が天体を隠してしまう現象を「星食」というのです。
スピカ食とは
スピカ食は、おとめ座の一等星であるスピカが月によって隠される現象です。スピカのように、とくに夜空に明るく輝く天体が月によって隠されるとき、その星の名前を使って「〇〇食」と呼びます。
スピカ食のほかには、アルデバラン食、レグルス食などがあります。では、さらにスピカ食について詳しく見ていきましょう。
スピカ食の特徴

2024年は、スピカ食を8月と12月の2回観察できます。前回スピカ食があったのは、2013年8月でした。では、スピカ食の特徴を見ていきましょう。
スピカってどんな星?
スピカは、おとめ座の一等星です。恒星は明るさによって一等星から六等星まで分けられていて、一等星はもっとも明るく輝く星。スピカは、全部で21個ある一等星のうちのひとつです。
おとめ座のスピカを探すときは、まず北斗七星を見つけるところから始めるといいでしょう。北斗七星のひしゃくの柄の部分をそのまま東側に伸ばしていくと、うしかい座の一等星であるアークトゥルスがあります。これをさらに南東の方に伸ばしていくと、白っぽく輝く星があるのがわかります。これがスピカです。

北斗七星とアークトゥルス、スピカまでの曲線は「春の大曲線」と呼ばれ、アークトゥルスとスピカは「春の夫婦星(めおとぼし)」と呼ばれています。ちなみにアークトゥルスは比較的温度が低いことからオレンジ色っぽく見えますが、スピカは温度が高いため白く輝いて見えます。
おとめ座は、ギリシャ神話に出てくるデーメーテール(またはデメテル、デーメテール)を表しているとされています。デーメーテールは農業の女神で、花々や草木の成長、穀物や果実の収穫などにまつわる女神です。

デーメーテールと大神ゼウスの間には娘のペルセフォネがいて、とても美しく育ちました。しかし冥界の王であるハデスは、ペルセフォネを自分の妻として連れていってしまったのです。
そこで相談がなされ、ペルセフォネを4か月だけハデスのもとで、8か月は母のもとに帰らせることにしました。その結果、ペルセフォネがハデスのもとにいる4か月間は地上の草木は枯れはててしまうのですが、残りの8か月間は草木が生き生きと成長していき、これが春夏秋冬の季節となったと伝えられています。
ほかの星食とどう違うの?
スピカはおとめ座の一等星で、とても明るく輝く星です。そのため夜空の中で簡単に見つけやすく、月によって隠されてしまうスピカ食の現象もわかりやすく観察できます。
2024年8月、スピカ食を見よう!
2024年で2回観察できるスピカ食。その1回目にあたるのが2024年8月です。どこで、どの日時で見られるのでしょうか?
スピカ食が見える場所は?
今回のスピカ食を観察できるのは、東北地方の南部と関東地方・中部地方より南の地域だけです。残念ながら東北地方の北部と北海道では、月がスピカに接近するだけでスピカ食は起こりません。
観測に適した日時は?
星食が起きるとき、月によって天体が隠され始めるときを「潜入」、月によって隠されていた星が再び見えてくるときを「出現」と言います。今回のスピカ食の潜入と出現の日時は次の通りです。東京や福岡などの主要都市ごとに見てみましょう。
・東京の場合
潜入:2024年8月10日午後8時24.6分
出現:2024年8月10日午後8時51.5分
・仙台の場合
潜入:2024年8月10日午後8時29.8分
出現:2024年8月10日午後8時38.2分
・福岡の場合
潜入:2024年8月10日午後8時13.0分
出現:2024年8月10日午後8時52.4分
・那覇の場合
潜入:2024年8月10日午後8時12.0分
出現:2024年8月10日午後8時13.5分
今回のスピカ食は、空の低い位置で見られます。スピカが見える南西から西の方角がよく開けた場所で、空の低い地点を探すようにしましょう。

スピカ食、観察のコツと準備
スピカ食の観察で、必要なものやコツを見てみましょう。
スピカ食観察に必要なもの
スピカ食は肉眼でも見られます。しかし望遠鏡や双眼鏡を使うと、より観察しやすくなります。とくに出現時は月の明るさが強いため、スピカは見えづらくなる可能性があります。
また星座早見盤やガイドブックがあるとスピカの位置を探し出すのに役立ち、その他の星座を見るときにも便利でしょう。
家の近くからスピカ食を楽しむ方法
今回のスピカ食は、西の空の低い位置で見られます。そのため、西側がよく見える場所を見つけるのがポイントです。周囲に建物などの明かりが少なく、西側の空がよく開けた場所で観察するのがおすすめです。
スピカ食を観測するときにあると便利なアイテム
スピカ食の観測に便利なおすすめアイテムをご紹介します。
Kenko双眼鏡 Mirage
天体観測をこれから始める入門用におすすめの、KenkoのMirage(ミラージュ)シリーズ。明るく見やすい大口径で、暗い場所で見る天体観測に最適です。天体観測のほか、野鳥観察などにも利用できます。
子供の科学 サイエンスブック 星座神話と星空観察
夜空に輝く星と、星座にまつわる神話をわかりやすくまとめた一冊。星とあわせて神話についても知ると、古代の人々のロマンやドラマチックなストーリーを知れて、天体への興味がますます沸いていくでしょう。
星と月の神秘的な出会い、スピカ食を観測しよう
おとめ座の一等星スピカは、農業の女神デーメーテールがモデルになったといわれ、ギリシャ神話にも娘とのストーリーが伝えられています。そんなスピカが月に隠されていくとは、なんともドラマティックな天体現象です。今回のスピカ食はちょうど8月の夏休み時期で、午後8時台に起きるとあって、子どもと一緒に観察するのにも最適です。
「日食」や「月食」はよく知られていますが、「スピカ食」について初めて知った方もいるでしょう。ぜひ2024年に起きるスピカ食を観察して、親子で楽しんでみてはいかがでしょうか。
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文・構成/HugKum編集部