所得税減税の基礎知識
近年「所得税減税」の話題をよく聞くようになった人は多いでしょう。所得税減税とは、国民の所得税負担を減らす政策です。「所得税って何?」「なぜ減税をするの?」という人に向けて、所得税減税の基礎知識を解説します。
そもそも所得税とは?
国や地方公共団体が運営する公的サービスは、国民の「税金」によって賄われています。
所得税は税金の一種であり、個人の所得に対してかかるのが特徴です。「所得」とは、自分が稼いだ1年分のお金(収入)から、必要経費に当たる金額を差し引いたものを指します。
税金を計算する際は、所得額から「各納税者の個人的事情を加味した金額」を控除し、さらに一定の税率を掛けて算出します。
●所得=収入-経費
●所得税=(所得-控除)×税率
日本では、所得が高い人がより多くの税金を納める「累進税率」という課税方式を取っています。
出典:[税のしくみ] 税の種類と分類 | 税の学習コーナー|国税庁
国が所得税の減税を行う理由
所得税減税は、毎年のように行われているわけではありません。国が減税対策を打ち出すのは、どのような理由があるのでしょうか?
主な目的は、国の経済活動を促進するためです。社会全体の経済状況を良くするための「景気対策」と考えましょう。
例えば、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない場合、国民の生活は苦しくなります。所得税が減れば、自由に使える手元のお金が増えるため、消費や投資などの経済活動が活発化するでしょう。
過去には、原油価格が急激に上昇する「石油危機」が起こり、瞬く間に物価も上昇しました。政府は不況対策として所得税減税を行っています。
所得税の減税方法は大きく2種類
所得税の減税方法は、「定額減税」と「定率減税」に大別されます。過去の減税政策は、いずれの方法でも実施されています。それぞれの特徴を見ていきましょう。
定額減税
定額減税とは、所得税から定額を差し引く方法です。減税額が所得の多さに左右されないため、高額納税者(高所得者)よりも低額納税者(低所得者)のほうが恩恵を享受しやすいのが特徴です。
5万円の定額減税を行う場合、従来の納税額が10万円の人は半分の5万円の納税で済みます。一方で、従来の納税額が80万円の人は75万円を納税しなければならず、それほど大きな減税効果は感じられません。
過去に定額減税を実施しているのは、1998年の橋本内閣です。一律3万8,000円が控除されたほか、配偶者や子どもなどの扶養家族がいる場合は、1人につき1万9,000円が控除されました。
定率減税
定率減税とは、税額から一定割合を差し引く方法です。1999年の小渕内閣では、25万円を上限とする20%の定率減税が実施されました。
従来の納税額が10万円の場合は2万円の減税となり、納税額は8万円です。従来の納税額が80万円であれば減税額は16万円、納税額は64万円となります。
物価高が生じると真っ先に打撃を受けるのは、低所得者や中所得者です。定率減税は、減税額が上限に達するまでは高所得者に恩恵が多いのが特徴です。
2024年6月の所得税減税とは
近年、ネットやテレビなどで「4万円の定額減税」という話題を見聞きした人は多いのではないでしょうか? 岸田内閣では、2024年6月より定額減税を実施する予定です。
内訳は所得税3万円・住民税1万円
2024年6月の定額減税の内訳は、所得税が3万円、住民税が1万円の計4万円です。納税者に配偶者や子どもなどの扶養家族がいる場合は、1人につき3万円の控除があります。
今回は、住民税のみを負担している人にも減税効果を波及させるため、所得税と住民税の両方から減税を行うことになりました。
住民税とは、道府県民税(東京都では都民税)と市町村民税(東京都23区では特別区民税)の総称です。自分の住所がある自治体に納める「地方税」の一種で、地方自治体が提供する公的サービスのために使われます。
物価高に伴う国民の負担軽減が目的
2024年6月からの定額減税は、物価高に伴う国民の負担を軽減することが目的です。ここ数年の急激な物価高に賃金の上昇が追いつかず、節約生活を強いられている人は少なくありません。
総務省統計局では、2020年を基準とした「消費者物価指数(全国平均)」を公開しています。消費者物価指数とは、全国の世帯が購入する物やサービスの値動きを表したものです。消費者物価指数が上昇すればするほど、家庭の消費支出は増えることを意味します。
2020年の総合指数(生鮮食品を除く)を100とすると、2023年は105.2で、前年より3.1%も上昇しています。
出典:統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI) 全国(最新の年平均結果の概要)
所得税減税の実施方法
所得税減税は、どのように行われるのでしょうか? 公的年金を受給している人もいますが、ここでは「給与をもらっている人」と「個人事業主」のケースを解説します。
給与をもらっている人の場合
勤務先から給与をもらっている人は、「給与所得者」と呼ばれます。給与所得者の所得税は、「源泉徴収(げんせんちょうしゅう)」によってあらかじめ給与から天引きされるのが原則です。
今回は、6月1日以降で最初に支払われる給与の源泉徴収額から減税が行われ、控除しきれない部分は2024年中に支払う給与などの控除前税額から順次控除されます。
住民税は、減税分を引いた年間の税額を7月から11カ月間(2024年7月~2025年5月)にわたって均等に徴収します。6月分の住民税は徴収されません。
出典:定額減税について|国税庁
個人事業主の場合
個人事業主とは、会社(法人)を設立せずに個人で事業を営んでいる人です。税制上では「事業所得者」に分類され、「確定申告」で税金を納めます。
確定申告とは、1年間の所得に対する納税額を算出して、税務署に申告・納税をする一連の手続きを指します。申告および納税の期間は、毎年2月16日~3月15日が原則です。今回の所得税減税では、2024年分の確定申告の際に所得税額から減税額が控除されます。
事業所得者は、市区町村から送付される納税通知書に基づき、自分で住民税を納めなければいけません。住民税の減税は第1期分(2024年6月分)から実施され、控除しきれない分は第2期分(2024年8月分)以降に繰り越されます。
出典:定額減税について|国税庁
個人住民税の定額減税(案)に係るQ&A集
所得税減税の留意点
2024年6月からの所得税減税は、国民の経済的な負担を緩和するために実施されますが、全ての人が対象となるわけではありません。減税の恩恵が受けられない人や、減税の代わりに給付金が支給される人もいます。留意点を確認しましょう。
減税の対象外となる人もいる
高い所得を得ている富裕層は、減税の対象外となります。2024年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円(給与収入のみの場合は、給与収入が2,000万円)超の人は、減税が受けられません。
所得税・住民税を納めている課税世帯への政策のため、「住民税均等割のみの低所得者」や「住民税非課税世帯」も対象外です。
住民税には、所得割と均等割の2種類があります。所得割は前年度の所得金額で決まるのに対し、均等割は所得の多さに関係なく、全員が均等に負担するものです。ただし、生活保護を受けている人や所得が一定以下の人は、住民税(所得割・均等割)が非課税となります。
低所得世帯には給付金で支援
所得税減税の対象外である低所得世帯に対し、国は給付金による支援を行うことを決定しました。給付金とは国や自治体などが給付するお金のことで、返済義務はありません。具体的な内容は以下の通りです。
●住民税均等割のみの世帯:10万円
●住民税の非課税世帯:7万円
住民税の非課税世帯には、すでに1世帯当たり3万円の「電力・ガス・食料品等価格高騰支援給付金」が給付されているため、10万円との差額である7万円が給付されます。
さらに、住民税均等割のみ世帯と非課税世帯で18歳以下の子どもがいる場合には、子ども1人につき5万円の給付金が上乗せされる予定です。
所得税減税を行う背景を知ろう
所得税減税の主な目的は、物価高によって厳しい状況にある国民の暮らしを下支えすることです。不況を乗り切るための景気対策の一環であり、減税による経済活動の活発化が期待されています。
2024年6月からは、合計4万円の定額減税が行われます。住民税からの減税が行われる点や、低所得世帯および子育て世帯への給付策が盛り込まれている点がポイントです。
この機会に、所得税の仕組みや所得税減税を行う背景などについて、親子で話し合ってみるとよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部