注目のトレンド牛乳「A2ミルク」。生乳100%なのに飲んでもお腹がゴロゴロしないのはなぜ?

今、注目の「A2ミルク」をご存知でしょうか? 実はこれ、「お腹がゴロゴロしにくい牛乳」として、オーストラリアやニュージーランドでは、すでにスタンダードな存在。スーパーに「A2ミルクコーナー」が大きく設けられているくらいです。日本でも、昨年頃からさまざまなメディアで取り上げられるようになり、今後ますます人気が高まりそうです。牛乳は飲みたいけど、お腹が弱くて…と避けていた方、要チェックです

「A2ミルク」とは、消化不良を起こしにくいA2β-カゼインだけを含む牛乳

 牛乳はタンパク質やカルシウムをはじめ、成長期の子どもに欠かせない栄養がたっぷり入った優秀食材。でも、「牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする」ということで、「残念ながら飲めない」というお子さんも多いようです。

 そんなお子さんをお持ちの方にご紹介したいのが「A2ミルク」。何やら化学記号のような、聞きなれない名前の牛乳ですが、化学的な処理をしたり、添加物を加えたりしたものではありません。原料は良質な生乳100%です。

欧米ではポピュラーな「A2ミルク」。なぜ、お腹がゴロゴロしないの?

 

「お腹がゴロゴロしにくい」という加工を加えたミルクは以前からありますが、これらは「牛乳に含まれる、消化不良の原因「乳糖」を分解して造った「乳飲料」。生乳100%で作られた「牛乳」とは、少し風味が異なります。その点、「A2ミルク」は生乳100%なので、牛乳そのものの風味を味わえます。

では、「お腹がゴロゴロしにくいのはなぜなのか」、「普通の牛乳とは何が違うのか」。そんな素朴な疑問を「一般社団法人日本A2ミルク協会(以下、日本A2ミルク協会)」代表理事、藤井雄一郎さんに伺いました。

牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするのは、タンパク質のβカゼインの消化不良が原因と言われています。しかし、β-カゼインには、A1型とA2型の2つのタイプがあり、消化不良を起こし、お腹がゴロゴロする原因となるのはA1型。牛乳に含まれるβ-カゼインがA2型のみであれば、お腹がゴロゴロしにくくなります

 こうした研究結果が世界的に広まっていった2013年頃から、オーストラリアやニュージーランドで、A2型のβ-カゼインのみを含む牛乳「A2ミルク」が誕生。現在では、中国、韓国などでもポピュラーな存在になっているそうです。

「A2ミルク」を出せる乳牛は全体の3~4割

A2ミルク協会代表理事の藤井さんは、北海道開拓期より120年続く酪農一家の5代目。10年の歳月をかけてA2ミルクを出す乳牛を育ててきた。

それでは、「A2型のβカゼインのみを含む牛乳」はどのようにして作られるのでしょうか。

牛の乳に含まれるβカゼインがA1型か、A2型かというのは、イメージとしては人間の血液型のようなもの。搾った乳に、どちらのβカゼインが含まれているかは、その牛の持つ遺伝子によって決まります。

 牛はA1A22つの型の遺伝子を組み合わせてセットで持つため、遺伝子のパターンとしては「A1A1」「A1A2」「A2A2」の3種類があります。そして、A2型のβ-カゼインのみを含む乳を出すのは、A1型の遺伝子を持たない、A2A2パターンの遺伝子を持つ牛。したがって、乳牛の中から、A2A2パターンの遺伝子を持つ乳牛を選別しなければなりません。

 現在、日本でA2A2パターンの遺伝子を持つ乳牛は、全体の34割。どのパターンの遺伝子を持っているかは、牛の見た目で判断することはできないので、一頭ずつ、牛の遺伝子を検査する必要があります

藤井さんの牧場では現在、牧場の乳牛すべてがA2A2パターンの遺伝子を持つ乳牛になっているとのことですが、これまでに、遺伝子検査を行なった乳牛の数は1000頭以上。自然の営みのなかで牛を大切に育てて、繁殖に10年近い年月をかけたと言います。

また、藤井さんがA2ミルクに出合った10年ほど前は、日本国内にA2ミルクに関する情報はなく、海外の論文や書籍などから情報をひとつひとつ集めながらスタート。近年ようやく日本でもA2ミルクを少しずつ知っていただける機会が増えてきたと言います。

 A2ミルクは、こうした酪農家の「もっと多くの方に、安心して牛乳を飲んでほしい」という、牛乳作りにかける熱い思いによって生まれた牛乳です。

日本では、2024年から徹底した品質管理で「A2ミルク」を認証しています

 

A2ミルクは、遺伝子検査によって乳牛を選別し、A2型のβカゼインのみを含む生乳を得ることによって作られますが、実は海外では、A2ミルクをうたった製品からA 1型のβカゼインが検出されたという事例もあるそうです。

 日本で長年A2ミルクの研究を進めてきた藤井さんは、「A1型のβゼインが絶対に混じっていない、ということが確実でないと、『お腹にやさしいA2牛乳』として、安心して飲んでもらえない」と考え、2020年、日本A2ミルク協会を立ち上げました。

 日本A2ミルク協会では、牧場での牛の飼育から、輸送、生産工程までを、第三者機関として検査し、確かな品質を保証できるものを「A2ミルク」として認証しています。

 この認証を取得するためには、牛を飼育している環境、与えた飼料、搾乳の方法をはじめ、生乳を牧場から加工工場まで運ぶ輸送方法や、工場の環境、加工方法まで。生産工程をすべて文書によって、明確に示すことが義務付けられています。

 こうした、徹底した品質管理によって生まれるA2ミルクは、しっかりとしたトレーサビリティを持つ、「生産者の顔が見える牛乳」でもあります。それゆえ、「お腹にやさしい牛乳として」という枠を超え、「ナチュラルで高品質な牛乳」を求める、健康志向の人たちにもその人気が広がっています。

 幸福度が高い健康的な牛から絞った乳はおいしい

 

A2ミルクの生産者として、日本A2ミルク協会の認証を得た牧場は、もともと『農場HACCP認証』などを取得している、衛生管理・品質管理の優れた牧場です。こうした牧場では、牛を家族のように大切にし、牛にやさしい飼育環境で飼育しています。清潔な明るい牛舎で、ストレスなくのびのびと育てられた牛は、健康で幸福度が高いと言われており、健康的な牛から搾った乳は、ナチュラルでおいしいのです。(藤井さん)

 世界的に、これからの酪農において、ますます重視されると言われているのが「アニマルウエルフェア(動物福祉)」。その観点からも、A2ミルクは高く評価されています。

購入できる店舗は急速に拡大中。学校給食への広がりにも今後注目!

A2ミルクの人気が急上昇する中、20243 1日より、日本A2ミルク協会が認定した「日本A2協会牛乳」( 1リットル360円)が発売されました。まずは、東京・大阪近郊の百貨店や食品スーパーなどの大手量販店での販売から始まり、今後は全国規模での展開を目指しているそうです(販売先店舗についての情報は随時更新されている以下のサイトをご確認ください)。

「A2ミルク」の販売先店舗>>>>>>>>

 また、食育やSDGsの観点から、学校給食への広がりも進んでいきそうです。食育に力を入れている学校として知られている、「東京農業大学付属稲花小学校」では、学校給食に「日本A2協会牛乳」を取り入れているそうです。

 食育の目的は、「食事の重要性や大切さや楽しさを学ぶのと同時に、心身の健康や成長に望ましい栄養や食事のとり方を理解し、食品を選択する能力を習得すること」。こうした観点からも、A2ミルクは最適の食材と言えそうです。

 食料自給率が低く、多くの食品を輸入に頼っている日本ですが、飲用の牛乳は輸入を行っておらず、国内産100%という数少ない食品のひとつ。牛乳を通して、子どもたちの、国産食材を大切にする意識を育てていくという取り組みも繋がっているようです。

店頭で見かけたら、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか?

取材・構成/瀬戸由美子

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