「宇治十帖」とは? 源氏物語最終章のあらすじや、ゆかりのある場所を知ろう【親子で古典を学ぶ】

「宇治十帖」は源氏物語を締めくくる章で、それまでの話とはスポットが当たる人物が変わります。宇治十帖のあらすじや登場人物、物語の舞台を知り、源氏物語への理解を深めましょう。ファンなら一度は訪れてみたい、ゆかりのある場所もあわせて紹介します。<上画像:『源氏物語絵巻』橋姫 八の宮の姉妹とかいま見る薫>

宇治十帖とは

宇治十帖は、源氏物語の一部です。まずは源氏物語の概要と、宇治十帖と呼ばれる理由を見ていきましょう。

源氏物語の最終章

「源氏物語」が、平安時代に紫式部が書いた長編小説であることを、知っている人も多いでしょう。容姿端麗な主人公・光源氏が多くの女性と恋愛する様子や、出世話などが描かれています。

源氏物語は全部で五十四帖あり、最後の十帖に当たるものが「宇治十帖」です。舞台が宇治だったことから、宇治十帖と呼ばれるようになりました。

宇治には、当時天皇の補佐を務めた藤原頼道(ふじわらのよりみち)が建てた「平等院」や、多くの和歌に詠まれてきた宇治川などがあります。

宇治橋から見る宇治川の眺め

源氏物語の主な登場人物

源氏物語には恋愛や政治、対人関係に揺れ動く人々がたくさん登場します。宇治十帖に関わりのある人も含め、主な登場人物をおさらいしましょう。

●光源氏:桐壺帝(きりつぼてい)の第2皇子として生まれ、多くの女性に恋をする
●頭中将(とうのちゅうじょう):光源氏のライバルであり親友でもある貴族の男性
●葵上(あおいのうえ):頭中将の妹で、光源氏の最初の妻
●紫上(むらさきのうえ):光源氏の2番目の妻で、幼少期から光源氏に育てられる
●女三宮(おんなさんのみや):光源氏の3番目の妻で、頭中将の息子・柏木(かしわぎ)と密通して男児を産む

女三宮と柏木の間に生まれた男児が、宇治十帖の主人公です。

宇治十帖のあらすじ

宇治川の朝霧橋そばにある「宇治十帖」の石像

源氏物語の最終章・宇治十帖とは、どのような内容なのでしょうか。あらすじや登場人物などを見ていきましょう。

光源氏が亡くなった9年後が始まり

物語の始まりは光源氏が亡くなってから9年後で、光源氏の息子や孫の成長と恋愛模様が描かれています。主な登場人物は以下の通りです。

●薫(かおる):女三宮と柏木の息子だが、光源氏の次男として養育される
●匂宮(におうのみや):父は天皇、母は光源氏の娘・明石中宮
●大君(おおいぎみ)・中君(なかのきみ):光源氏の異母兄弟・八宮(はちのみや)の娘たち
●浮舟(うきふね):大君・中君の異母妹

『源氏物語絵巻』橋姫 八の宮の姉妹とかいま見る薫の場面 Wikimedia Commons(PD)

光源氏の異母兄弟である八宮は、宇治で2人の娘を養育していました。ある日、八宮の家を訪れた薫は、姉妹のうち姉の大君に惹かれるようになります。

しかし八宮は間もなく亡くなり、大君も薫の思いを拒絶したまま急死してしまいます。一方、八宮の死後、薫とともに八宮邸を訪れた匂宮は、そこで中君と出会い結ばれました。

八の宮の娘、浮舟との出会い

大君の死後、薫は妹の中君に近づきます。このとき中君によって、八宮のもうひとりの娘である浮舟の存在が明かされます。薫は大君とよく似ている浮舟に、心を奪われました。しかし薫はどうしても大君が忘れられず、次第に浮舟に会いに行かなくなります。

その後、匂宮がたまたま見かけた浮舟に惹かれて忍んで行ったところ、薫と勘違いした浮舟が受け入れてしまい、2人は結ばれます。浮舟は薫と匂宮の間で板挟みになって苦悩し、ついに宇治川へと身を投げてしまいました。浮舟が自殺を図ったことを知った薫は、悲嘆に暮れます。

浮舟は僧侶に助けられ一命をとりとめたものの、自らの立場を悲しんでそのまま出家してしまいます。浮舟が生きていることを知った薫は手紙を送りますが、浮舟が応えることはありませんでした。

宇治十帖ゆかりのスポット

宇治十帖の舞台である宇治市には、源氏物語との関連性が深い場所が多数あります。源氏物語のファンにおすすめなスポットを見ていきましょう。

宇治市源氏物語ミュージアム

宇治市源氏物語ミュージアム Photo by 663highland, Wikimedia Commons

宇治市源氏物語ミュージアムは、源氏物語を楽しみながら学べる施設です。平安貴族の華やかな生活を知れる「平安の間」や、光と映像と音楽で宇治十帖の名場面を再現した「宇治の間」などがあります。

また、垣間見(かいまみ)や源氏香(げんじこう)なども体験できます。垣間見とは、外にいる男性が、室内にいる女性の姿を見る様子のことです。

高貴な女性は成人すると、人前で顔を隠して生活していました。ただし室内に明かりが灯っている状態だと、暗い外から気付かれずに女性の姿が見えることがあり、恋愛のきっかけになっていたとされます。

源氏香は、複数の香りの組み合わせ、香りの違いを当てるゲームです。52通りの香りには、源氏物語の中から五十二帖の名前が付いています。

出典:源氏物語ミュージアム THE TALE OF GENJI MUSEUM, UJI – 宇治市公式ホームページ

宇治橋・夢浮橋ひろば

宇治橋は、宇治十帖の最初の帖「橋姫」にゆかりのある場所です。橋姫とは宇治橋を守る神様の名前で、大君に恋をした薫が彼女に送った歌に登場します。

さらに宇治橋は、薫と匂宮の間で悩んだ浮舟が入水する、宇治川にかかる橋でもあります。宇治十帖のストーリーを堪能するには、欠かせない場所といってもよいでしょう。

夢浮橋ひろばの紫式部像

また最後の帖「夢浮橋」の名前が付けられた夢浮橋ひろばには、「夢浮舟之古碑」や紫式部の像があり、宇治川を眺めながら物語に思いを馳せられるスポットとなっています。

平等院

平等院は約1,000年の歴史を持ち、世界遺産に登録されている寺院です。

平等院を建てた藤原頼通の父親は、摂関政治の全盛期を築いた藤原道長です。源氏物語の作者・紫式部は、道長の娘・藤原彰子(ふじわらのしょうし)に仕えていました。

宇治は平安時代の貴族たちに愛された別荘地であり、平等院も元々は別荘だったものを、寺院に改装したとされます。元の別荘は「宇治殿」と呼ばれ、光源氏のモデルになったといわれている源融(みなもとのとおる)が所有していました。

平等院の鳳凰堂

源氏物語の中では、光源氏の息子・夕霧が相続した別荘が宇治殿を元にしているのではないかと考えられており、薫が立ち寄る描写も出てきます。

出典:世界遺産 平等院

宇治十帖に描かれた景色を想像してみよう

宇治十帖では、光源氏の息子や孫が主な登場人物となって話が進みます。複雑な生い立ちの薫の悲恋や、ヒロインのひとりである浮舟の苦しい立場が描かれた、切ない物語です。

宇治十帖は名前の通り、当時の貴族たちに別荘地として愛された「宇治」が舞台です。宇治市は京都市と奈良市の中間辺りにあるため、古都の観光を一度に楽しめます。機会があれば、宇治十帖にゆかりの地を訪れ、当時の貴族たちが見た景色を想像してみるのもよいでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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