現在公開中の「わたしのかあさん ―天使の詩―」は、障害のある両親に育てられた健常者で優等生の女の子が、あるとき両親が障害者であることを知り、そこから両親への想いや視点の変化、成長を描いた作品です。山田監督は、福祉制度が整っておらず、障害基礎年金制度もない時代に知的障害のある美樹さんを授かり育て上げました。
そんな山田監督をリスペクトする寺島しのぶさん。この映画にはたくさんの演技派のスターが出ていますが、その中でも人気実力ともに誰もが認める人です。
寺島さんは17年前に結婚、アーティストであるパートナーとの間にひとり息子の眞秀(まほろ)くんを出産。今は、歌舞伎の舞台に立つ息子さんを全力でサポートしていて、まさにHugKum世代。子育ての方針やお子さんを育てるうえで大切にしていることをお聞きしました。
HugKum世代の子の母、寺島しのぶさんに子育てについてインタビュー
子育てで大切にしていることを教えてください。
子どもには、自分の中で枠をつくる人にはなってほしくないですね。世の中にはいろんな人がいて、大人の世界もあり、子どもの世界もある。意地悪な子もいれば親切な人もいて、体力のある子もいれば、病弱な人もいる。障害のある人もいる。でもそれをきちんと知ることで、誰もが感じてしまいがちな垣根を取り払えるようになれると思うんです。息子にはそんな人に育ってほしい。人間同士、さまざまな人たちとコミュニケーションの取れる人になってほしいです。
主人自身がミックスというルーツを持つために、そういった差別を受けたことがあるそうです。もしかしたらこれからも偏見にあうかもしれませんし、どこで差別を受けるかもわからない。
だからと言って同調圧力の中で自分をなくし、群れることがいいとは思いません。息子も父親のように一人の独立した大きな人間になってほしいし、それを周りからも認められる存在であってほしいです。それは主人も同じように考えていると思います。
でもそれは自分から意識して働きかけないとそうはならないので、普段からいろんな人に会って、いろんな人を見なさいと言っています。
親の価値観を見せる、好きな人に会わせることは、子どもの出会いを増やすこと
お子さんがいろいろな人に会い、多様な人と関わるためにどうしていますか?
私自身が子どもの頃から浅く広くいろいろなことに興味を持つ方だったので、親はそういった興味を受け止めて、多くの人に会う機会を作ってくれました。そのことは今の役者人生にはとても活きているので、私も子どもにいろんな人間に興味を持ってもらうため、できる限りのことをしてあげたいと思っています。
例えば仕事場、多喜二の撮影現場にも連れて行って、大好きな山田火砂子監督にも会ってもらいました。「私はこういった人が好きなんだよ」と、親の価値観を見せるのも良いことだと思います。
子どもは親が言ったって親が向いてほしいところには目が向かないものですし、子どもの頃からやりたいことが決まっている人はなかなかいません。だからこそ私が関わってきた素敵な人に会わせて、そこで何を感じ取るかは、子どもの価値観を優先します。
そういった意味で撒く種は多いほうがよくて、どこから芽が出るのかはわからない。あとは見守るしかないですね。でも子どものキャッチ能力はすごいので、それを信じて付き合っていこうと思っています。
ご家庭内でご主人と寺島さんの役割はありますか?
役割分担というか、子どもに対して私はきっちりしていて口うるさい母親です。父親はざっくりとした緩いタイプです。育ってきた環境の違いや性格の違いもあるので、同じようなタイプでないことが良いと思います。
親が苦労をして乗り越えてきたことを、私と主人それぞれが子どもに植え付ければいい。子どもは、家庭の中でもいろんなタイプの人がいるんだと認識してくれています。
子育てをしていると心が折れてしまうこともあると思いますが、そんな時寺島さんはどうしていますか。
心なんて毎日折れていますよ。 毎日、自分自身に「自分は大丈夫」と言いきかせるしかありません。「大丈夫、大丈夫」と唱えるんですよ(笑)。
お子さんに自分の価値観をしっかり見せて、お子さんの選択肢を広げ、種をまくことの大切さを教えてくれました。監督との出会いのように仕事での出会いを大切にする寺島さん。母としての気持ちをざっくばらんに話してくれました。中でも子育ての苦労を話されるときに、胸に手を当てながら話してくれた姿が、同じ母親として親近感がわき印象的でした。
HugKum世代の子育て真っ最中の、素敵な〔かあさん〕でした。
寺島しのぶさんと山田火砂子監督のインタビュー 前半はこちら>>
『わたしのかあさん ―天使の詩―』 現在上映中
監督:山田火砂子
出演:寺島しのぶ、常盤貴子、高島礼子、船越英一郎、安達祐実、東ちづる、渡辺いっけい、宅麻伸、落井実結子他
公式HP:https://www.gendaipro.jp/mymom/
監督・やまだひさこ/昭和7年、東京都出身。女性カントリー&ウエスタン・バンド「ウエスタン・ローズ」で活躍後、舞台女優を経て映画プロデューサーに。アニメ「エンジェルがとんだ日」で監督デビュー。「石井のおとうさんありがとう」などで児童福祉文化賞受賞。著書に「トマトが咲いた」など。福祉、教育などのテーマで講演活動も。現代ぷろだくしょん社長。
俳優・てらじましのぶ/1972年生まれ、東京出身。舞台からキャリアを始め、2000年スクリーンデビュー。映画「赤目四十八瀧心中未遂」で2004年に日本アカデミー賞最優秀女優賞を受賞。2007年にフランス出身のクリエイティブディレクター、ローラン・グナシアさんと結婚。2012年出産。長男・眞秀くんは2017年・4歳のとき『團菊祭五月大歌舞伎』で初お目見え。以降毎年、歌舞伎の舞台を踏んでいる。
【公演情報】6月15(土)~25日(火) 舞台『おちょこの傘もつメリーポピンズ』出演
詳細:新宿梁山泊公式サイト
取材・文/原佐知子 写真/平田貴章 ヘアメイク/光倉カオル(dynamic) スタイリスト/中井 綾子(crêpe)
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