「割愛」の本来の意味とは
「割愛」って不必要なものを捨てることではないの?
先ずは以下の文章をお読みください。
「本論とは関係がないので以下は割愛します」
この文章を読んで皆さんはどう思いましたか?どこもおかしくないふつうの文章だと思いましたか?それとも、文中にある「割愛」の使い方がおかしいと思いましたか?
両方の反応があってもおかしくはありません。実は「割愛」という語は、意味がかなり揺れている語なのです。
ここでおさらいをしておきましょう。「割愛」の本来の意味です。『デジタル大辞泉』(小学館)を引いてみると、
「惜しいと思うものを、思いきって捨てたり、手放したりすること」
と説明されています。これからもわかるように、この語の意味のポイントは「惜しいと思うものを」の部分です。
元々は仏教から来た愛着の気持ちを断ち切るという意味
なぜそのような意味になるのかというと、「割愛」はもともとは愛着の気持ちを断ち切るという意味で、仏教で使われた語だったからです。仏教でいう「愛着」とは、欲望にとらえられてものに執着することです。この意味があるために、「割愛」もものに執着する気持ちを思い切って断ち切るという意味になるのです。
では、冒頭の「本論とは関係がないので以下は割愛します」はどうでしょう。この文章では不必要な部分なので削除するという意味で使っているので、本来の意味ではないということになります。
世論調査では、本来の意味で使っている人は約2割
ただ、本来の意味で使っていないから誤用かというと、そうとも言えません。この語を、単に不必要なものを切り捨てるという、従来なかった意味で使う人が増えているからなのです。文化庁が実施した令和3年(2021年)度の「国語に関する世論調査」によりますと、本来の意味で使う人が23.7パーセント、本来のものではない意味で使う人が65.3パーセントと逆転現象を起こしているのです。
国語辞典はどうかというと、最新版でも、本来のものではない新しい意味を載せるもの、新しい意味を誤用とするもの、そのことには触れていないものとさまざまで、やはり揺れています。
でも私は新しい意味を誤用とはせずに載せる辞典が、今後増えていくだろうと思っています。
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記事監修
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。