大国化する中国
21世紀入ってもうすぐ四半世紀となりますが、この25年間における中国の国力増大には目を見張るものがあります。9.11同時多発テロが発生した2001年当時、中国のGDP(国内総生産)は日本よりも小さかったわけですが、高い経済成長率を維持し続け、2011年頃に日本を追い抜き、それ以降、日中の経済力の差は開く一方。中国は米国のライバルになるかのように大国化しています。
中国が周辺の途上国の経済発展を支援。その裏には?
そして、中国の大国化を象徴するものの1つが「一帯一路」です。一帯一路を簡単に説明しますと、中国の習近平国家主席が2013年に提唱した巨大な経済圏構想で、中国と欧州をかつて結んだシルクロードをイメージし、中央アジアを経由して中国と欧州を結ぶ陸路(シルクロード経済ベルト)の一帯と、インド洋を経由する海路(21世紀海上シルクロード)の一路の上にある途上国を経済的に支援し、高速道路や鉄道、空港や湾岸などインフラ整備を進める構想です。要は、経済大国となった中国が多額の資金で途上国を支援し、それによって途上国の経済発展が期待される一方、中国の影響力が国際的に広がることを意味します。
20世紀まで、中国は支援する側ではなく、欧米や日本などから支援を受ける側でしたが、多くの外資を受け入れ、世界の工場として成功した中国は豊富な資金を利用し、一帯一路を強化しています。中国からの経済支援に依存する国は、ラオスやカンボジア、パキスタンやスリランカなどアジア諸国、中東やアフリカ、中南米などのいわゆるグローバルサウスだけでなく、セルビアやハンガリーなどの欧州諸国も中国との経済関係を強化しています。習国家主席は5月、そのセルビアとハンガリーを訪問し、一帯一路を欧州でも強化する姿勢を示しました。
欧米諸国は警戒も
しかし、欧米諸国は中国の一帯一路を、中国の支配圏を拡大するための覇権主義的な行動だと強く警戒しています。実際、中国から資金援助を受けているパキスタンは蓄積した多額の債務の返済が困難となり、パキスタン西部グアダルにある港の使用権を43年にわたり中国企業に譲渡しました。スリランカも同様に多額の債務に悩まされ、南部にあるハンバントタ港の99年間の使用権を中国企業に譲渡しました。
欧米諸国は、中国が一帯一路によって経済的な影響力を拡大するだけでなく、お金を返せないという途上国の弱みを握り、現地に中国軍関連の施設を設立するなどし、軍事的な影響力も拡大させるのではと警戒感を抱いています。米国は英語でthe United State of Americaですが、中国が一帯一路によって”the United States of China”を作ろうしているのではないかと指摘する声もあります。
この記事のポイント
①「一帯一路」とは、中国が周辺の途上国の経済発展を支援することで、影響力を広げる構想
②中国から資金援助を受けているパキスタンやスリランカは、債務返済ができずに港の使用権を中国企業に譲渡
③欧米諸国は、中国が軍事的な影響力を拡大させていることを警戒している
- 記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う
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