日本の機密情報を守る、今話題の「セキュリティークリアランス制度」って?【親子で語る国際問題】

いま知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は、制度の創設に向けたが法律が可決・成立した「セキュリティークリアランス制度」を解説します。

機密情報にアクセスできる人間を制限

国会の衆議院本会議では2024年510日、経済安全保障上の重要情報へアクセスできる人を国家が信頼性を確認した人に限定する「セキュリティークリアランス制度」の創設に向けた法律が可決・成立しました。セキュリティクリアランス制度は、適格性評価制度とも言われています。漏洩すると日本の安全保障に重大な支障を来すおそれのある情報を「重要経済安保情」に指定し、アクセスできる人を制限。政府が事前の個人調査を行い、信頼性が確保できる人にだけアクセス権を与える制度です。

今日の戦争は情報戦。自国の情報が漏れることが命取りに

ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への攻撃、緊張が続く台湾情勢など、世界は大国が競争と対立を展開する国家間競争の時代へと回帰しています。対立する国家同士、陣営同士の間では、お互いに自らが持つ重要な情報を相手に渡したくありません。

米国は、いくつもの重要な安全保障上の情報を持っていますが、それが中国に渡ることは絶対に避けたいと考えています。中国に漏洩すれば、米国の対中戦略がバレる可能性があり、それによって米国は不利な立場に追いやられます。また、米国は中国やロシアと対峙するにあたり、英国やフランス、カナダやオーストラリアなど同盟国・友好国に安全保障上の重要情報を与えたり、もらったりすることが頻繁にあります。そこでも対中、対露で重要な情報が相手方に漏洩することは避けなければなりません。今日の戦争は情報戦とも言われ、情報が死活的に重要な役割を果たします。

世界がそのような状況の中、性格や家族構成、犯罪歴などといった個人のバックグラウンドを配慮せず、単なる人事異動によって問題のある人が国家機密に触れるポジションにつけば、日本の重要な情報を中国やロシアに漏洩するリスクは排除できません。仮にそうなった場合、日本にとって大きな損害になるばかりか、米国などの同盟国や友好国から“日本に情報を与えたら情報が外に漏れる”と判断され、不信感を抱かれる恐れがあります。よって、セキュリティークリアランス制度が必要なのです。

情報を漏洩すれば罰則も

具体的な調査では、政府は本人の同意を前提に、家族や同居人の氏名や国籍、犯罪歴、薬物や飲酒に関する情報、経済的な状況などを調査することができ、問題がなければ適格性評価が与えられ、重要情報へのアクセスが可能になります。情報を漏洩すれば懲役5年以下の罰則などペナルティが課されるなど、政府はセキュリティークリアランス制度を徹底していく予定です。個人のプライバシーなど人権面からの懸念も聞かれますが、大国間競争の時代において日本が国家として生き抜いて行くためにはどうしても必要な制度でしょう。

この記事のポイント

  • ① セキュリティークリアランスは、日本の安全保障に重大な支障を来すおそれのある情報にアクセスできる人を制限する制度
    ② 国家間の対立が深まる今、各国が機密情報の管理に気を配っている
    ③ 情報にアクセスできる人間が漏洩をした場合、懲役5年以下の罰則も課される

記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う

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