「こども誰でも通園制度」とは
こども誰でも通園制度は、これまでにない新しい子育て支援制度です。どのような内容なのかを知り、利用を検討してみましょう。
理由がなくても子どもを預けられる制度
「こども誰でも通園制度」は、保護者の就労状況などに関係なく、保育園や幼稚園などに子どもを一時的に預けられる制度です。
保育所や認定こども園などに通っていない、満3歳未満の子どもを対象としています。従来の一時保育とは違い、利用にあたって保護者側に子どもを預ける理由は必要ありません。
子どもを中心に考え、全ての子育て家庭を支援するために設けられた制度で、2026年度に創設する「子ども・子育て支援金」を財源として実施されます。
「こども未来戦略」の一部
こども誰でも通園制度は、「こども未来戦略」に盛り込まれた施策の一つです。こども未来戦略は若者や子育て世代の所得増加、社会全体の構造や意識の改革、全ての子どもと子育てを応援することを目的とし、2023年12月に策定されました。
こども誰でも通園制度は、2026年度から全自治体での実施に向けて検討段階にあり、2024年度から本格実施に向けたモデル事業を展開しています。
保育所や認定こども園以外にも、地域型保育事業所や地域子育て支援拠点などの事業者との連携を想定して進められています。
「こども誰でも通園制度」のメリット
こども誰でも通園制度は、子どもと保護者の双方によい効果をもたらすとされています。具体的なメリットを知り、制度の必要性への理解や利用の検討に役立てましょう。
子どもの社会性を高められる
こども誰でも通園制度によって、子どもが家族以外の人と触れ合う時間を持ち、成長によい影響を与えられるところがメリットです。
これまで保護者が就労していないなどの理由で保育園に通えなかった子どもが、自宅以外の場所で時間を過ごすことで、刺激を得られるようになります。
年齢の近い子どもたちや保育士と接する中で感情や気分が揺さぶられる経験は、子どもの健やかな成長に必要です。人間関係の築き方を学びながら、人やものへの興味を広げられるでしょう。
育児の負担を軽減できる
現代社会では、子育てに不安を感じている保護者は少なくありません。子育ての負担を減らすには保護者の不安を解消し、リフレッシュできる機会を作ることが大切です。
保育園に子どもを預けると保育士に相談する機会ができ、不安や孤立感の解消につながります。保育士を通じて、保護者が子どもの成長に関する専門的な知識や情報を得られる点もポイントです。
また、子どもだけでなく保護者の成長を促す効果も期待できます。「お友達と仲良くできていた」「食事を残さず食べられた」など、保育園での様子を知ることが、子育てへの自信につながるケースもあるでしょう。
保育所の多機能性を高められる
保育所は子どもを預かるだけでなく、地域における子育ての拠り所としての役割も求められています。こども誰でも通園制度によって、保育所の機能を高められるところもメリットです。
さらに、定員割れしている保育所の存続を手助けできる点も見逃せません。2023年にこども家庭庁が公表した全国の保育所等の状況を取りまとめた報告書を見ると、保育所の定員充足率は減少傾向にあります。
このまま人口の減少が進むと、地域の保育へのニーズがあったとしても、人気が高い保育園以外はなくなってしまうかもしれません。こども誰でも通園制度の利用者が増えれば、人材やスペースを有効活用でき、保育所の経営難を防ぐ効果も期待できます。
出典:「保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)」を公表します|こども家庭庁
「こども誰でも通園制度」を不安視する声も
メリットばかりのように思える制度ですが、うまく機能するのか不安に感じている人もいます。どのような問題点があるのかを見ていきましょう。
保育現場の負担が大きくなる
一時的な預かりは子どもが慣れにくく、ケアに追われる保育士は大変です。こども誰でも通園制度の導入によって、慣れない環境に置かれて不安を感じた園児の世話に、保育士が忙殺される状況が予想されます。
また、園児が増えることで保護者への対応が増えることも、懸念材料の一つです。人材不足の状況の中で、負担の増加を不安に感じる保育関係者は少なくありません。
政府は保育士1人あたりが見なければならない子どもの数を減らし、給与を見直すことで負担を減らそうと試みています。
しかし、保育士を目指す人を増やし、実際に働ける人材に育て上げるには時間が必要です。保育現場の負担増について、早急な改善は期待できない点が指摘されています。
全国的に保育士が足りていない
保育士が足りない状況で、こども誰でも通園制度がうまく機能するのかも不安視されています。実際に、仕事量の多さや給料の少なさなどの問題があり、保育士は足りていません。
保育士の有効求人数を見ると、全国的に求職者より求人数の方が多い状態です。また2022年に東京都福祉保健局が公表した「東京都保育士実態調査」によれば、保育士として就業中の人が退職したいと考える理由は「給料が安い」が61.6%、「仕事量が多い」が54%と過半数を超えています。
こども誰でも通園制度による負担増加により、保育士の人材不足に拍車がかかる可能性もあるでしょう。
在園児への影響も懸念
保育現場への負担が大きく保育士を確保しにくい状況では、保育の質が低下する恐れがあります。子どもを預ける機会が増えても、保育の質が低いとしたら、預けるのを不安に思う人は多いでしょう。
一時預かりでは、慣れない環境に不安を感じた子どもが泣き止まなくなることが珍しくありません。すると、そばにいる園児もつられて不安定になってしまう状況も想定できます。
保育士の手間が増える分、これまでできていた散歩やハサミを使った工作などがしにくくなり、活動内容の制限が増えることも懸念されています。
「こども誰でも通園制度」の実施例
2026年度からのこども誰でも通園制度全国実施に向け、いくつかの自治体でモデル事業が開始されました。実際の応募条件や料金などを知ると、こども誰でも通園制度を利用するイメージが湧くのではないでしょうか。
モデル事業を実施中の、東京都港区と大阪市の例を見てみましょう。
東京都港区「みなとこども誰でも通園事業」
東京都港区では以下の条件を全て満たす場合、こども誰でも通園事業を利用できます。
●港区に住民登録があり、実際に居住している
●2018年4月2日から2023年12月1日までに生まれた子ども
●2024年4月もしくは5月から利用開始できる
●2024年時点で保育施設(幼稚園・認可保育園、認定こども園など)に在籍していない
2024年度は「区立伊皿子坂保育園(定員2名)」「旧南麻布三丁目保育室(定員20名)」で実施されます。1日あたりの利用料は以下の通りです。
●区立伊皿子坂保育園:1,500円(5時間以内)、3,000円(5時間超)
●旧南麻布三丁目保育室:1,100円(4時間未満)、1,650円(4時間以上6時間未満)、2,200円(6時間以上8時間以下)
大阪府大阪市「こども誰でも通園制度の試行的事業」
大阪市内に住む、生後6カ月から満3歳未満の子どもを対象にしています。認定こども園や保育所、地域型保育事業などを利用していないことも条件です。
利用可能時間数は、子ども1人につき1カ月あたり10時間までと定められています。利用料は1時間あたり300円となっていて、施設によってはおやつ代や飲み物代などが別途必要です。
2024年度は「幼稚園型認定こども園太成学院天満幼稚園」「玉川ひばりこども園」など、17園で実施されます。
出典:大阪市:大阪市こども誰でも通園制度の試行的事業の利用申請の受付を6月3日(月曜日)から開始します
「こども誰でも通園制度」の今後に注目
こども誰でも通園制度は保護者の就労状況などに関係なく、子どもを一時的に預けられる制度です。子どもを預けるところがなく、自分の時間を持てない保護者のサポートや子どもの成長に役立つ制度として注目されています。
しかし、保護者や子どもにとってよい影響がある一方で、保育現場の環境が悪化する可能性も指摘されています。
2026年度から開始予定であり、本格的な運用はまだ始まっていません。試験的に開始している自治体もあるので、住んでいる地域の情報をチェックしてみましょう。
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構成・文/HugKum編集部