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日本の受験英語は、「英語嫌い」にさせてない?
親世代の多くは、中学生になってから学校で英語の授業を受けました。例えば教科書に「look」という単語が出てきたとき、「これは‶見る〟という意味です」と言われ、同時に「~を見る」というときは前置詞「at」をつけて「look at ~」になると教えられました。その後、「lookはat以外の前置詞と組み合わせると‶見る〟以外の意味になる」ということで
look after =世話をする
look for =探す
look forward to ~ing=~を楽しみに待つ
look up to =尊敬する
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など、「look」の「見る」以外のたくさんの意味を、一つずつ覚えていきました。
そんなとき「もう、いろんな意味があり過ぎて混乱する!」「こんなにたくさん暗記しなくてはいけないのは面倒だ!」などと感じませんでしたか? しかし先生から「英語はまず単語を覚えなくては始まらない」などと言われ、一生懸命「暗記」をしたものです。
それが苦痛になり、次第に英語が苦手、嫌いになって……と、残念な結果につながった人もいるかもしれません。だとしたら、このような教え方で今の子どもたちに学習させるのは酷ですし、これで英語嫌いにさせてはいけないのではないでしょうか?
「英語の単語や熟語は膨大な量なので、意味をすべて暗記するなんてできません。しかも覚えた日本語での意味を英文にあてはめて理解しようとしても、会話の速さでのリスニングやスピーキングにはとうてい追いつきませんよね」と、田尾昭憲さんは言います。
英語を「意味ではなく、イメージで」理解する
田尾さんが提唱する「超感覚英語」は、「英語を英語のままとらえる」ということ。ネイティブが母国語である英語を理解する感覚に着目して、一つの単語に「複数の意味」ではなく、一つの単語に「一つのイメージ」を持つことです。
例えば「work」という単語。日本の英語学習では、「働く」という意味で、文脈によって「勉強する」、「(薬が)効く」という意味にもなる、などと教えられ、多くの「意味」を覚えました。
ところが、超感覚英語では、「work」は「本来すべきことをする」という「イメージ」ととらえます。だから社会人なら「本来すべきこと=働く」ことですし、学生なら「勉強する」、薬なら「効く」、ハサミなら「切れる」……になるのです。
I work for this company. (私はこの会社で働いている)
I’d worked hard for the test. (私はテストのために一生懸命勉強した)
This medicine works well. (この薬はよく効く)
These scissors doesn’t work. (このハサミは切れない)
このように「work」を「本来すべきことをする」というイメージでとらえれば、「働く」という意味だけではないし、主語が人だけでなく「物」にも使えるということも簡単に理解できます。一気に応用範囲がぐんと広がり、会話や文章でもすぐに使える気がしませんか?
workの解説動画は>>こちらから
「look」のイメージは「見る」ではない!
それではもう一つ、最初に出てきた「look」のイメージは何でしょう? 田尾さんはこのように説明します。
命令文「Look at the blackboard(黒板を見なさい)」の場合
「look は‶見る〟ではなくて、‶単なる視線の動き〟というのが、ネイティブが持つイメージです。例えば、命令文‶黒板を見なさい!〟というのは
Look at the blackboard.
ですが、ネイティブの頭のなかのイメージでは
Look+ at the blackboard.
で、視線の動きを黒板という‶一点=at〟に向けなさい、ということです‶Look at+ the blackboard.〟ではないのです」
「look after the baby(赤ちゃんの世話をする)」の場合
では「look after」はどうでしょう。私たちはこれまで「世話をする」と暗記させられましたね。
例えば「赤ちゃんの世話をする」という意味の文章は
look after the baby
になりますが、これもネイティブの頭のなかでは
look+after the baby
です。つまり「視線の動きがafter the babyする=視線が赤ちゃんの後をずっと追っている」、だから日本語にすると「世話をする」になるのです。イメージできますか?
「超感覚英語」はネイティブと同じような思考で英語を理解する
このように田尾さんの「超感覚英語」の授業では、「work」「look」のほかに「have」「be」「make」「get」「take」……といった基本の動詞や、「on」「to」「at」「after」……などの前置詞の「ネイティブがもつイメージ」を徹底的に生徒にインプットさせます。
これらの単語を日本語の意味ではなく、あくまでもイメージでとらえること、そしてそのイメージを柔軟に使いこなすことで、英語の文章をまるごと「感覚で」とらえられるようにするのです。
「ネイティブの話をそのスピードで理解し、自分の頭のなかのイメージをそのまま英文にして発語する。この一連の頭のなかの作業に日本語は不要なのです。日本語で翻訳しないから理解や発語のスピードが速くなるだけでなく、ネイティブと同じように理解できる。つまり正しく理解できるようになります」と田尾さんは強調します。
単語の意味の理解だけではありません。「関係代名詞」や「to +不定詞」をはじめ、日本独特の英文法に関しても、「すべて単語の基本イメージで説明できる」といいます。「文法で、文の構造をしっかり理解しましょう」といった従来の学習法は必要ありません。
「あなたのお母さんは、日本語を文法から教えてくれた?」
田尾さんは高校生のとき、ネイティブの留学生から「日本の英語の授業では、文法ばかりやっていて、私も知らないことを教えている。あなたのお母さんはあなたに日本語を教えるとき、日本語の文法を教えてくれたの?」と言われて、衝撃を受けたといいます。
さらに「runのイメージは線状の動き」と教えてもらったとき、さまざまな意味を持つ多義語の「run」も「線状の動きという一つのイメージ」でさまざまな意味に対応できることを知り、「これが本来の言語なんだ」と実感しました。それがこの「超感覚英語」のメソッドを考えるきっかけになったと言います。
「難しい単語をたくさん覚えなくても、簡単な単語のイメージさえしっかり理解していれば、それらでほぼ言いたいことは言えるし、書きたいことも書ける」というのが田尾さんの提唱する「超感覚英語」の基本です。
runの解説動画は>>こちらから
単語の「意味」ではなく、単語の「イメージ」を子どもと考えてみよう
とはいえ、親が子どもにこの超感覚英語でとりあげるような単語のイメージを教えることは難しいでしょう。ではこの「超感覚英語」の考え方につながるように、子どもの日々の英語学習で親ができることはあるのでしょうか?
「まず、親は子どもに少しでも多くの英単語を覚えさせることや、文法を教えるのをやめることです。とくに動詞について‶haveは持つという意味よ〟のように、一つの意味だけを教えないこと。そして教材に出てくる英単語や英文を日本語に訳して伝えるのではなく、英語のまま触れさせ、英語の感覚を育てる土壌を作ることを意識するといいと思います」
例えばファストフード店で‶take out〟という言葉を目にしたら「takeってどんなイメージなんだろうね?」と話し合ったりするのはおすすめです。子どもが英語の歌を歌っている時とか、英語のアニメなどを見ている時など、日常のなかから英語の言葉を拾って、一緒に単語のイメージを広げていくといいでしょう。
親もこの動詞はどんなイメージなんだろう、と子どもと一緒に考えることで、受験英語では感じなかったおもしろさを発見できるのではないでしょうか。
お話を伺ったのは
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取材・文/船木麻里