プランクトンがいないと地球は滅亡する!?
――図鑑を見ると、プランクトンってこんなにきれいでたくさんの種類があるんですね。この図鑑を作ったきっかけは?
小林:きのこの図鑑でお世話になった先生に、「子ども向けのプランクトン図鑑を作れないかと言っている研究者がいるんだけど」と、著者の1人の仲村先生を紹介してもらったのが始まりです。まだプランクトンのことは右も左もわからない状態でお話を聞くことになったのですが、開口一番「プランクトンがいないと地球は滅亡するんですよ」とおっしゃるので、「もしや陰謀論!?」と驚いたものでした(笑)。よく話を聞くと、地球上の酸素の半分以上は海で作られていて、そのほとんどは植物プランクトンが生み出している。それに海の生態系を支える存在で、プランクトンがいなければ地球は食料危機に陥る。そのくらい地球上で重要な役割を持っているという話でした。今まで全く興味がありませんでしたが、「確かにすごいし、おもしろそう!」と思いました。
いままでも子ども向け図鑑で水の生物の図鑑は何種類かあったのですが、プランクトンを中心とした小さな水生生物が500種類も掲載されているものはこれが初めてだと思います。図鑑としてのビジュアルの美しさにはこだわりました。この図鑑は、国内外の水中カメラマン、研究者やハイアマチュアの方々から美しい写真を片っ端からお借りしました。プランクトンの美しさに魅了されて、アートとして撮影を行っている方も少なくありません。顕微鏡をのぞくと、本当にきれいで感動しますよ。
こんな身近な場所でも見つかるプランクトン
――プランクトンは、どういうところで見つけられるんですか?
小林:意外と身近な場所でも採れます。公園の古い池や、東京ならお台場など近場の海辺で、そこにある水をすくって顕微鏡でのぞいてみると、けっこういるんですよ。図鑑の後半に採取方法も載せていて、多く見つかりやすい場所の特徴や、布とペットボトルで水を濃縮してプランクトン密度を上げるやり方などを掲載しています。
いまは教育用の顕微鏡が1万円前後くらいで手に入るので、接眼レンズにスマホのカメラをくっつけて撮影すると、きれいなプランクトンの拡大写真が撮れるんです。そういう写真や、特に動画は動き回って見栄えがするので自由研究の発表にもおすすめです。
親子で挑戦しやすいので、自由研究にもおすすめ
――顕微鏡さえあれば、自由研究としてすぐに実践できそうですね。
小林:近所の水辺でできる研究なので、生物を探すのもラクだし、大人も一緒に発見する楽しみがあります。海では砂浜以外でも、ひもをつけたバケツを港から投げて、深さの違う水を比べて見ると、発見できる生物の種類も変わりますよ。私たちはプランクトンについて、ほとんど勉強することなくきてしまったけれど、地球を支えるプランクトンのことを、もっと知ってもらえたらいいですね。海にいるプランクトンは、地球温暖化がどのぐらい進んでいるかの指標にも使われているそうです。
あと、驚いたのはサンマやアジなど魚の赤ちゃんは生まれたては1~5mmの透明なプランクトンなのですが、大人にならないとそれが何の種類なのか、専門家でも同定が難しいものが多いんです。メジャーな魚介類でも、プランクトンの頃の同定はあまりに難しいので、いままで図鑑がなかったのが納得できました。
小林:この図鑑の写真は、骨紹介の部分以外は、すべて生きているときの生物写真を載せています。ケイ藻のように、死んでしまうと体が溶けて殻だけになるものもいます。図鑑を手がかりにして、顕微鏡で本物を見たときはその何倍もおもしろいですよ。
プランクトンの世界では「新種」を見つけられる確率が高いのも特徴です。植物はなかなか新種が発見されることはないですが、この業界では毎年のように新種がバンバン発見されています。将来、博士になるには穴場のジャンルかもしれません! みなさん、けっこうユニークな名前をつけられていますよ。白黒の顔に透けたあばら骨のようなからだの「ガイコツパンダボヤ」、亀の甲羅に生息するから「ウラシマタナイス」とか。「オシリカジリムシ」(Eテレ「みんなのうた」の曲目)とつけたくて、NHKと作者に許可をもらった先生もいらっしゃいます。子どもたちにはこういう和名も覚えてもらえると親しみがわくと思います。
この海の中の小さな世界を知ってほしい――担当編集者の思いとは
――小林さんは、プランクトンなど、海の生物にはもともと詳しかったのですか?
小林:いいえ、全然詳しくありませんでした。今回の内容については専門家のみなさんに教えてもらって勉強しながら作りました。透明な水ふうせんのようなイカ、幻想的にただようクラゲ、美しいケイ藻などは特に好きですね。「プランクトン」というとけっこうマニアックかなと思っていましたが、本の売れ行きはかなり好調です!まさかの反応で嬉しかったですね。
私はこの世界観を子どもたちに紹介したくて図鑑にしました。写真にこだわったのは、地味な生物に見えても、かっこいいと思ってほしいから。図鑑を眺めて、「こんな生き物もいるんだ」と発見してくれたらいいなと思っています。プランクトンにハマった子が、大人になってダイビングをして、魚やイカの赤ちゃんやサルパなどを実際に見たら、きっと感動すると思います。
小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン
水の中に広がる、小さな生き物たちの世界!
身近な水辺から海、そして北極・南極から熱帯など、どこにでもたくさんいるのにもかかわらず、まだ多くの謎に包まれたプランクトン。児童向け図鑑では初めての約500種類というボリュームで紹介します。今まであまり注目していなかった水中の小さな生物たちのすがたを中心に、きれいな写真で表現した決定版ポケット図鑑です。
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お話を伺ったのは
小林由佳|図鑑NEO編集部
山と溪谷社を経て、2007年小学館入社。20年間に渡り、図鑑の編集に携わっている。主に植物やきのこが好きで担当している。『小学館の図鑑NEO』では『花』『きのこ』『新版 植物』、『まどあけずかん』では『せかいのりょうり』『しょくぶつ』を担当。夏休みに伊豆諸島に行くので、さっそく持ち運びに便利な『プランクトン』を持参して、大型のプランクトンを見つけたいと思います!
取材・文/日下淳子 撮影/黒石あみ