【親子で語る国際問題】自民党総裁選挙で石破氏が逆転勝利したのはなぜ? 外交的な背景から説明してみると…

今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は、9月末に行われた自民党総裁選挙で、石破氏が勝利した背景について、外交・安全保障の視点から解説します。

石破氏が勝利した自民党総裁選挙

9月末に行われた自民党総裁選挙では、石破茂氏が勝利しました。

石破氏は1回目の投票で154票(議員票46 地方票108)を獲得し、181票(議員票72 地方票109)を獲得した高市氏に27票の差を付けられました。上位2人よる決選投票の結果、石破氏は215票(議員票189、地方票26)を獲得し、194票(議員票173、地方票21)となった高市氏に逆転勝利しました。

自民党総裁選挙についておさらい

20人の推薦人が集まれば立候補できる

自民党総裁選挙は自民党のリーダーを選ぶ選挙で、任期は3年で3期9年まで勤めることができます。総裁選挙に立候補するためには自民党の国会議員20人以上の推薦が必要ですが、20人以上の推薦人を得られさえすれば、自民党の国会議員であれば誰でも立候補は可能であり、立候補者数に制限はありません。

第1回目の投票で誰かが過半数を獲得すればその人が総裁になりますが、誰も過半数を獲得できなければ決選投票といって上位2人による一発勝負を行い、各得票数が多かった方が総裁になります。

高市氏が当選した場合、日韓関係悪化への懸念があった

今回の総裁選挙の結果では、1回目の投票でこの2人以外の候補者に票を入れた自民党議員の過半数が高市氏ではなく石破氏に流れたことが分かります。では、なぜそうなったのでしょうか。

外交・安全保障の視点から言えば、その背景には高市氏に対する外交上の懸念があったと考えられます。そして、その最も分かりやすいのが靖国発言です。

懸念される日韓関係の冷え込み

自民党総裁選の前、高市氏は総理になっても適切な時期に靖国神社を参拝する意向を示しましたが、これを今日の国際情勢、日本外交に当てはめると以下のような変化が生じると考えられます。

まず、岸田前政権は、一昨年5月に韓国でユン大統領が就任して以降、第3国での国際会議の合間を利用して首脳会談を相次いで開催。互いの指導者が相手国を訪問するという日韓シャトル外交を再開させるなど、日韓関係はこの2年間で大きく改善し良好な関係にあります。

そのような中、日本の新総理が靖国神社を参拝するということになれば、岸田前政権で改善、発展してきた日韓関係に水をさす結果となり、その後退が進む可能性が考えられます。日本周辺の安全保障環境が大きく変化し、中台関係や南北関係の冷え込み、北朝鮮とロシアの軍事的結束などを考慮すれば、日本にとって韓国は経済や安全保障面で協力できる関係があることが望まれます。今日、日韓関係を安定させることは日本にとっても大きな国益と言えるでしょう。

米国としても日韓関係が冷え込むことは避けたい

そして、米国との関係を考えても懸念があります。上述のような安全保障環境下において、中国との戦略的競争をエスカレートさせる米国は、同盟国である日本と韓国が協力できる関係を求めています。言い換えると、厳しい安全保障環境の中、日韓で歴史認識や領土問題などで揉めてほしくないのが米国の本音であり、日本の首相による靖国参拝などを米国は良く思っていません。

そのような中、日本の首相が靖国を参拝するとなると、日韓だけではなく日米の間にも摩擦が生じる可能性があり、今日の日本外交にはバランスというものが非常に求められているのです。

今回の自民党総裁選で石破氏が最終的に勝利した背景には、上述のような懸念が自民党員議員の中にあったことも考えられます。

この記事のポイント

①自民党総裁選で石破氏が当選した背景には、外交・安全保障の視点で高石氏への不安があった
②高市氏は靖国神社参拝の意向を示していたため、日韓関係の悪化が懸念された
③中国と戦略的競争をエスカレートさせるアメリカとしても、日韓は共に協力できる関係を求めている

記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

こちらの記事もおすすめ

中国軍機の領空侵犯。その背景には米中間の対立に伴う摩擦も…【親子で語る国際問題】
中国の情報収集機が日本の領空内を飛行 2024年8月26日、長崎県五島市の男女群島沖上空で、中国軍のY9情報収集機1機が日本の領空内を飛行...

編集部おすすめ

関連記事