石破総理が提唱する「アジア版NATO」とは。なぜ必要? 実現可能?【親子で語る国際問題】

今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は石破総理が提唱しているアジア版NATOについて学びましょう。

外交を積極的に進める石破氏

自民党の次のリーダーを決める総裁選挙が9月末に行われましたが、石破氏が高市氏を決選投票の末に破り、第102代総理大臣に就任しました。

就任後、石破総理はバイデン大統領や韓国のユン大統領らと会談し、さっそく石破外交を積極的に開始しています。そのような中、アジア版NATOをめぐって国内外で大きな議論が巻き起こっています。

石破総理は、9月27日付の米シンクタンク「ハドソン研究所」への寄稿の中で、急接近するロシアと北朝鮮の間で核技術の移転が進み、中国が核戦力を急速に強化していると懸念を提示。この3カ国への抑止力を維持する観点からアジア版NATOを創設する必要性を訴えました。

では、アジア版NATOとは何なのでしょうか。それは本当に必要なのでしょうか。

NATOとは世界最大の軍事同盟

まず、NATOについてですが、NATOは1949年に誕生した多国間の軍事同盟で、今日では米国とカナダ、欧州30カ国の計32カ国が加盟しています。

発足当初は12カ国だったのですが、冷戦後東欧の国々が次々にNATOに加盟。プーチン政権によるウクライナ侵攻でロシアへの警戒を強めたフィンランドとスウェーデンも相次いで加盟しました。

NATOは世界最大の軍事同盟であり、その大きな特徴は、お互いに守るです。

NATO条約の第5条は、加盟国1国に対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなし、侵略した国家に対して全加盟国で対抗措置をとると定めています。

アジア版NATOは距離、空間の面で課題がある

このNATOのような軍事同盟をアジアに作ろうというのが、石破総理の提唱です。しかし、それにはいくつかの課題があります。アジア版NATOを創設するとすれば、加盟国となるのは米国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピンなどとなりますが、この時点でいくつかの課題が見え隠れします。

NATOでは、米国とカナダは北米に位置しますが、米軍はドイツなどに駐留し、多くの加盟国は欧州という限定された空間に位置し、加盟国のトルコとポルトガルの距離も直線で3500キロ(首都を基準)ほどです。

しかし、アジア版NATOがカバーする空間はNATOの比ではなく、例えば日本からニュージーランドは1万キロ近くになります。NATO加盟国の1国で有事が発生した際、他の加盟国が救援隊として駆け付けるのに距離的にそう時間は掛からないでしょうが、尖閣諸島や朝鮮半島で有事が発生しても、オーストラリア軍やニュージーランド軍が救援隊として駆け付けるでしょうか。

オセアニアで戦争が勃発するなどは考えにくいですが、反対も然りです。アジア版NATO距離、空間の広さという面で加盟国同士がお互いに守ることが現実的ではありません。

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アジアは考え方も多様で協力体制を作りづらい

また、欧州と違い、アジアは各国によって考え方が異なり、協力体制を作ることが難しいという課題があります。

NATOはもともと冷戦時代にソ連主導のワルシャワ条約機構と対立し、「民主主義を重視する国々は対ソ連で協力しよう、結束しよう」という形で、考え方が同じような国々が集中しています。

しかしアジア版NATOは、東アジアを考えても、中国は海洋進出を強化し、北朝鮮は核開発・ミサイル発射を繰り返し、韓国は政権によって対日姿勢が大きく変わる、というように、”日中韓朝の4カ国同盟”などを作ることは現実的に考えられません。

それと同じように、オセアニアのオーストラリアやニュージーランドがどこまで本気になるかも分かりませんし、韓国が日本と同盟関係になることにすぐに賛同するとも限りません。そして、インドはそれに賛同しない姿勢を示し、おそらく東南アジア諸国からも懐疑的な姿勢が示されるでしょう。アジア版NATOといっても、欧州とアジアではまるで状況が異なり、その設立は難を伴うことが考えられます。

仮にアジア版NATOを作ったとしても、それによって中国や北朝鮮がさらに軍拡路線に拍車を掛ける恐れがあり、アジア版NATOの創設は、かえって日本の安全保障環境を悪化させる可能性があります。

この記事のポイント

①石破総理はアジア版NATOを創設する必要性を訴えている

②NATOとは、侵略した国家に対して全加盟国で対抗措置をとると定めた軍事同盟

③アジア版NATOは、距離・空間の点や思想の面から見ても課題がある

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記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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