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由比ガ浜海水浴場が、アジア初、日本で初めて「ブルーフラッグ」認証を取得
――鎌倉というと名所旧跡だけでなく、豊かな自然も見逃せない魅力となっています。2016年にアジア初、かつ日本で初めて取得した「ブルーフラッグ認証」は、自然保護に注力する鎌倉市の意気込みを感じますが、どのような経緯で認証の取得に向けて取り組まれることになったのでしょうか?
松尾:「ブルーフラッグ」は、国際NGO『FEE(国際環境教育基金)』が実施するビーチ・マリーナ・観光船舶を対象とした世界で最も歴史ある国際環境認証です。ビーチでは「水質」「環境マネジメント」「環境教育と情報」「安全性とサービス」という4分野33項目の認定基準を毎年クリアする必要があります。そのため、認証されるということは、きれいで安全なビーチであることを世界的に認められたことになります。
鎌倉の由比ガ浜海水浴場は、2016年にアジア初、かつ日本で初めて「ブルーフラッグ」を取得して以来、これまで連続で認証の更新を続けています。この認証制度を受けるためには、行政だけでなく、地域の方々や企業との連携した取り組みが必要なんですが、由比ガ浜海水浴場に関しては、地元の海の関係者の方々からの発案でスタートしました。
その背景には、10年ぐらい前に由比ガ浜海水浴場に若者たちが多く訪れて、飲酒や花火をしたりして印象が悪かったのと、海の家の雑排水やごみ処理問題などの環境問題がありました。
「そういった問題を包括的に解決していくためにブルーフラッグという認証制度があって、それが将来的に世界の方々を気持ちよくお招きするときにも、非常に効果的だ」と言われまして、認証取得を目指すことになったのです。
海岸清掃を推進。ボードウォークの設置でバリアフリー化を実現。水質改善のための海岸下水道を整備中
――どんな取り組みからスタートしたのでしょうか?
松尾:最初に述べましたように「ブルーフラッグ」を取得するためには、たくさんの基準をクリアしなければなりませんので、同時にさまざまな取り組みを行いました。
まず、海岸清掃です。海岸清掃は、それ以前から住民の方々がお非常に熱心に取り組んでいただいていたのですが、それを海の家の関係者や海水浴に来た方々にもいっしょにやってくださいと声かけをして、きれいな海岸を目指しました。
また、海浜組合の協力を得て、特殊マットを敷いた約800mの「ボードウォーク」を設置すると同時に、監視所で水陸両用車いすの貸し出しをして、バリアフリー化を目指しました。この道を設置したことで、同時に足が不自由な高齢者の方やベビーカーを利用するファミリーの方も手軽に海水浴ができるようになりました。
水質改善のため、海岸下水道の整備を推進しています。さらにはマナー改善のために、飲酒やバーベキューの禁止、ビーチで刺青を出さないなどのルールをつくって、これを周知する警備員も配置しました。
このような整備は、地域の方たちからの意識が高く、非常に協力的でしたのでスムーズに進めることができました。そのため取得を目指してから1~2年で「ブルーフラッグ」認証を取得することができました。
海の環境を守る意識が広がって、よりきれいで安全なビーチへと進化
――「ブルーフラッグ」取得後、どんな変化がありましたか?
松尾:地元企業の「リビエラグループ」さんが、多くの方に声かけをしてくださってビーチクリーンイベントを開催してくださるなど、きれいで安全な海にしようという意識は年々高まっていると思います。(10月26日には、「Honda×鎌倉ビーチクリーン」と題して、ホンダさんのバギーカーを使って、人間の手では拾えないようなマイクロプラスチックの回収も行いました。)
現在は、海水浴場監視所の前に「キッズファミリービーチ」エリアを設けてライフジャケットの貸し出しをしたり、マリンスポーツを推進するため「ソフトボード」エリアを設けて、初心者やお子さんでも安心してマリンスポーツにトライできるようにしています。
おかげさまで、近年は外国人の方たちからも認知度が高くなり、多くの方に訪れていただいています。
鎌倉市には、由比ガ浜海水浴場のほかに材木座や腰越の海水浴場がありますが、その海水浴場も、由比ガ浜と同じ理念を持ち、きれいで安心して海水浴ができるビーチを目指して活動を続けています。
遠浅の材木座海水浴場では子ども用のウォーターローラーの貸し出しもしているんですよ。海水浴に来られた方もそうした理念を理解していただきたいですね。海水浴に来られた方と地元住民がお互い思い合いながら、楽しんでいただけることを願っています。
地元住民が日常的にごみ拾いを敢行。年2回「クリーンアップかまくら」イベントも開催
――ところで、環境問題と言えばごみ処理対策が欠かせませんが、鎌倉市ではどのような取り組みをなさっていますか?
松尾:鎌倉市にお住まいの方は昔から環境問題には意識が高く、私の知っている限りでは40年以上前から『七里ガ浜クリーンコミュニティー』という団体がごみ拾い活動を行っています。活動を開始した当時、七里ガ浜にはごみが山積していて、それをなんとかしたいとサーファーの人たちが中心となってごみ拾いを始めたのが活動のはじまりなんです。そうした活動が、鎌倉市内に徐々に広がって、近年では個人で散歩している人も、ごみ袋を片手にごみを拾っている姿をあちらこちらで見受けられるんですよ。
鎌倉市としては、10年前から「クリーンアップかまくら」と題して、毎年春と秋に、市内の一斉清掃を行っていて、毎回、市内外から大勢の方に参加いただいています。事前の参加申し込みは必要ありませんので、お好きな会場に直接お越しいただけたらと思います。
海だけでなく陸のごみもなくすことが大事。「ごみを出さない」という努力も推進中
――松尾市長も清掃活動を行っていらっしゃいますよね。
松尾:月1回、早朝に行わせていただいています。比較的若い世代の方に多く参加してくださっていまして、中にはお子さんもいるんですよ。住民の方々の意識の高さを実感しています。
ごみ問題に関しては、突き詰めていくと「ごみをいつまで拾うのか?」という問いに行き着くのです。
例えば、海岸のごみに関しては、その7割が川から流れついたものなのです。そのため、海だけでなく陸の清掃も必要不可欠なんです。神奈川県には、日本で唯一海岸の美化専門に設立された「かながわ海岸美化財団」があって、横須賀市走水海岸から湯河原町湯河原海岸までの約150㎞の自然海岸の美化活動を行っているのですが、その財団は川の清掃活動の啓蒙も行っています。
また、「そもそもごみを出さない」ということも大事で、ごみを少なくしていく取り組みも欠かせません。ごみの分別の細分化や資源ゴミのリサイクルなどを推進して、今後も努力を続けていきたいと思っています。
次の世代を継ぐ子どもたちへの環境教育も大事
――環境を守る意識を高めるには、子どものころからその重要性を実感すること重要だと思いますが、その点はどのように考えていらっしゃいますか。
松尾:環境教育は私も重要だと思っています。そうしたひとつの取り組みとして、鎌倉市では子どもたちに自然について学んでもらうために、2001年から市庁舎前に「ビオトープ」を設置して、子どもたちに自然観察をする場を提供しています。この試みは、「環境創造都市」という理念を掲げて政策を行っていた当時の市長の発案により行われた事業です。市役所に隣接する御成小学校6年生の協力を得て完成しました。
四季折々にいろいろな生物や植物を観察することができるんですが、鎌倉市内の自然環境では絶滅してしまった「鎌倉メダカ」をはじめ、クロスジギンヤンマや神奈川県の減少種であるモノサシトンボも見ることができるんですよ。
鎌倉市では、市民の方々や児童、生徒の皆さんの「ビオトープ」の見学を受け入れていて、事前に連絡をいただければ職員が解説を行っています。ビオトープが完成してから四半世紀が経ちますが、こうした取り組みが続くことで環境を守る大切さを学んでもらえることを願っています。
最近では、おじいちゃんがお孫さんと一緒に訪れて、ビオトープを観察している姿も見受けられます。鎌倉市では鎌倉広町緑地をはじめ、自然を身近に感じられる大きな公園・緑地がありますので、ぜひそうした場所も訪れていただいて、環境保全に関する意識を高めていただけたらうれしいですね。
――わざわざ環境問題を説くのではなく、そんなふうに自然に環境を守る大切さを伝えられるのはステキですね。これまでお話を伺って、鎌倉市にはたくさんの魅力があることを改めて実感しました。最後に「HugKum」読者のパパ・ママに向けてメッセージをお願いします。
松尾:鎌倉は自然豊かで歴史も残っている街で、さまざまな魅力を各人が感じてくださっていると思います。鎌倉市は、そういう鎌倉に各人がその人らしく訪れて、豊かな生活を送っていただける街を目指しています。温かさや優しさが感じられる街を目指していますので、訪れていただくだけでなく、ぜひ住んでいただいて、いっしょに街を作っていただけたらうれしいです。
実際、コロナ禍前から30~40歳代の小さなお子さんのいらっしゃるご家族の転入も増えています。保育園や公園などハード面で追いついていない部分もありますが、子育てをしやすい環境づくりにも力を入れていきます。「住んでよかったまち、訪れてよかったまち」を目指す鎌倉市を、これからもどうぞよろしくお願いします。
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お話を聞いた方 鎌倉市長 松尾崇さん
鎌倉市長 松尾崇(まつおたかし)
1973年9月6日 鎌倉市生まれ。西鎌倉幼稚園、西鎌倉小学校、鎌倉学園、日本大学を卒業後、日本通運(株)で勤務。その後、鎌倉市議、神奈川県議を通算8年間勤め現職。家族は妻と娘3人。趣味はジョギング・山登り・スノーボード
文・構成/山津京子