Netflixシリーズ「ポケモンコンシェルジュ」や前代未聞のストップモーション時代劇「HIDARI」などを手掛けるドワーフスタジオ (株式会社FIELD MANAGEMENT EXPAND)。
「こまねこ」は2003年に誕生したドワーフスタジオのオリジナル作品で、コマ撮りともの作りが好きなねこの女の子“こまちゃん”の愛おしい日常が、温かいまなざしで描かれます。
目次
ウクライナ侵攻で見た子どもの姿がストーリーの発端
___こまねこの11年ぶりの新作となりますが、制作のきっかけを教えていただけますか?
合田監督「ちょうど“こまねこ”が20周年を迎えたタイミングでなにか作ろうとなったことが一つのきっかけです。そこでテーマを考えた時に、“成長”というふうにしてみたんです。ただこまちゃんには、すごく成長してもらいたいけど、一方でずっと子どものままでいてほしい思いと両方あるんだなと気づいて。
ちょっと成長したり、ちょっと子どもに戻ったり、その繰り返しみたいなもので成長してもらえたら一番いいのかなって思ったりして。そこはそれこそ“こまねこ”のペースでやればいいのではと思いながらストーリーを作っていきました」
___本作では、初めて海外旅行へ行くことになったこまちゃんの愛おしい姿が描かれます。
合田監督「ちょうどウクライナ侵攻が始まった頃で、テレビやネットでいろんなニュースが流れていたんですけど、その時に父親は国に残らなければいけない、母親と子どもは国外へ避難するという映像があったんです。母親は大きなスーツケースを引きずって背中にもリュックを背負って、子どももお母さんと手を繋いでいましたけどずいぶんと大きなリュックを背負っていて…その片手にぬいぐるみをギュッと持っていたんです。
この子にとってのぬいぐるみというのは、なんなのだろうか。食べ物、着るものにも並ぶ、もしくは匹敵するような大事な命綱のようなものなんだなと。この子が朝出かける時に、そのぬいぐるみを掴んだときの心境ってどういうものなのかな?とか想像したりして。そういうところから、“ぬいぐるみを掴んで出かける時の気持ち”というのが一つのキーになってできていきました。
膨大な時間をかけて丁寧に作られていく“コマ撮り”
___『こまねこのかいがいりょこう』は、公開撮影で作られた作品ですね。
合田監督「こまねこ自体が20年前に美術館で行った公開撮影で生まれているので、公開撮影で生まれたこまねこが20年目にまた公開撮影をするというエモい企画になりました(笑)。公開撮影では、たくさんのこまねこファンの方々に出会えたんですけど、そういう方たちも含めて本作は20周年を一緒に大事と思える作品になれたのではないかなと思います」
___20年が経ったいま合田監督にとって“こまねこ”はどのような存在になっているのでしょうか。
合田監督「作っている間は、ずっとこまねこたちが頭の中にいて、特に絵コンテを書く時はドキュメンタリーのように『こういうふうにするんじゃないの?』みたいなことをキャラクターたちが言っている感じがするんですよね。それで1本作るとやりきった感があって、もうこまねこは終わった!となるんです。そうなるととキャラクターはみんないなくなって「こまねこはここまでおしまい」と思うんですが、2年位するとまた頭の中に出てきて、そろそろこんなことをしたいなとか、どっか行きたいなとか色んなことを話しだす……という感じです(笑)。
こまねこをかわいいって言ってくださる方が多いのですが、自分自身はかわいいものを作ろうと思っているわけではなくて、『友達にいたらいいな』という感じで作っています」
___こまねこは、非言語、いわゆるノンバーバルの世界で描かれます。
合田監督「ニャーニャーしか言わないので、過去にもフランスや台湾など海外でも多く公開されているんですけど、そのままで公開することができる、同じように楽しんでもらえるというのは良さだと思います。でも『なにを言っているのかわからない』という、だいぶ観ている方に委ねている作品だと思うんですね。
このニャーは何を言っているニャーなのかは、もちろん想定して作っていますし伝わってほしいとは思っているんですけど、でも間違って伝わってもその人にとっての正解であればいいと思うんです。100人いたら100人のこまねこが生まれるところがアニメーションの良さ。そこは今風ではないのかもしれないけど、見ながら想像力をフル活用してもらって楽しんでほしいです」
「君の思った答えが正解」たくさんの正解が生まれるような作品の方が面白い
___今はSNSのショート動画など結論に直結している制作物がとても多いですが、手間と時間をかけるコマ撮り作りの意義はどのようなところでしょうか?
合田監督「コマ撮りというのは、ちょっと動かして撮っていうのを繰り返す手法で、一日5秒ぐらいしか撮れないんです。ものすごく手間暇がかかるので、1回観て『あー面白かった』って終わるのは悔しい。観終わってからも、あそこってどういうことなのかな?とか、5分の作品でも余韻であと1日楽しめるような想像を膨らましてできていくような作品を作りたいなと思っているんです。だから時流には逆行しているのかもしれないけど、それを楽しんでくれる人も必ずいるはずだと思うし、信じてやっています」
___まさに想像を膨らますような動画が少なくなってきている中で、コマ撮りの映像は子どもたちにとっても非常に貴重ですね。
合田監督「そうですね。よく『答えはなんなの?』って問われることもあるんですけど、『君の思った答えが正解だよ』っていうことでいいと思うんです。そういうふうにたくさんの正解が生まれるような作品の方が面白いんじゃないかなと思ってるので、そういうのを作っていけたらと思います」
___作品のテーマ自体がもの作りですけど、もの作りの魅力や若い子たちにもコマ撮影りをやってもらうために伝えたいことは?
合田監督「自分の場合は監督しかできなくて、ほとんど皆さんにやってもらう仕事。人形を作ることも動かすこともカメラもできないので全部誰かにやってもらうんですけど、その時になるべくやってもらう人の好きな感じが入ってくる方がいいなと思っています。それで自分が考えてたものよりも、みんなでやったことで100点ではなく120点、150点になるってことが起こるので、それが作ってるときの自分自身の喜びです。
子ども時代の経験はストーリーの一番の源。普段、誰にも言っていないことをテーマに作ってみて。
___合田監督ご自身は、子どもの頃に好きだったことや今の仕事に繋がっていると思うことはありますか?
合田監督「僕は漫画が好きだったので、絵や漫画を描くことが好きで将来は漫画家とかいいなと思っていました。学校の先生を主人公にして漫画を描いて、それをクラスの人にまわしてクスクスして笑っているのを喜びにしていましたね。小学4年生くらいから描き始めたんですけど、ストーリーはだいたい先生が主人公でネタにさせてもらってひどい目にあうみたいな(笑)」
___合田監督の、もの作りの原動力は?
合田監督「どんな世界でもどんなストーリーでも作り出せるというのがアニメーションの良さかなと思うんです。でも、全部が全部作り物だと自分が作った意味があるのかなと思ってしまうので、自分が作った意味は何かという時に、自分が体験した記憶や感情を引っ張り出してきて、それをネタにして使うことは多いです。とりわけ子ども時代の体験は、たくさんストーリーの源にしています。
___いま動画制作が好きな小学生も多いと思いますが、始めるとしたらどういうところから始めたらいいでしょうか?
合田監督「いろんな動画があって本当にいいと思っているんですけど、『自分が伝えたいことって何かな』っていうのを最初に考えて、それを伝えるにはどうしたらいいかで映像ツールを選んでもらえたらいいと思います。
あと普段みんなに言っていることよりも、誰にも言っていないことをテーマにやってみるのも、すごく自分にとって大切なものになると思うし、作る意味が出るんじゃないかなと思います。楽しんで作ってもらいたいのが一番ですけど、そんなふうに自分の心と対話してから作るみたいなことがあるといいと思いますね。
誰かに合わせるのではなくて、どこかに同じ思いの人はいるので、ちょっと変かなと思っても自分がやりたいなと思ったことをやる方が断然いいと思います」
___最後に、本作をご覧になるお子さんお母さんお父さんにメッセージをお願いします。
合田監督「見ることも想像力だと思うんですけど、作る方も想像力をたくさん使って作った20年だったので、かわいらしくもあるし、観た方の感情を刺激する観た後にいろいろな想像が膨らむような作品になっていると思います。ぜひ観ていただきたいです」
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取材・文/富塚沙羅