【子どものペットロス】「泣くと○○が悲しむよ」は禁句。悲しみから立ち直る回復力は、しっかり悲しむ経験から

愛しいペットを亡くしたときの「ペットロス」。子どもにとってはさらに過酷な経験です。ペットロスに際し、親はわが子にどのような言葉を掛ければいいのでしょう。よかれと思った言葉が、かえって子どもを深く傷つけてしまう場合もあるはずです。
そこで今回は、獣医師・臨床心理士・公認心理師にして日本獣医生命科学大学教授の濱野佐代子さんに、ペットロスを迎えた時の親としての心構えを聞きました。

指示的で判断を下す態度は子どもを追い詰める

家族で飼っていたペットが亡くなったとなれば、子どもはもちろん、親御さん本人もショックを受けている可能性が高いです。

そのような状況で、わが子の悲しみを支えつつ、ペットの死を通じて大切な何かを子どもに学んでもらおうと思ったら、どうすればいいのでしょうか。

「親子の役割が逆転するような状況になっては問題ですが、親御さん自身が感情を表してもいいのだとまずは考えてみてください。

実際にあった話ですが、ある厳格なお父さんが、飼っていたペットの死を前に泣いてしまいました。そのお父さんの泣く姿を見て、感情を表してもいいのだと子どもたちは感じ、お父さんの優しい一面を目の当たりにしました。

逆に、悲しむ機会を取り上げるような、指示的な態度はお子さんを追い詰める結果になります。例えば『そんなに悲しんでいると亡くなったペットが悲しむ』『忘れよう』『泣くな』などの言葉です。

『もう、その話は聞きたくない』と親御さん自身がつらいから話を打ち切ってしまう場合も、悲しむ=悪い行為だと子どもが考え、悲しい気持ちを閉じ込めるようになります。

親御さんとしては、自分自身の悲しい気持ちを正直に表しつつ、わが子も感情を素直に表現できるように、精神的に安心できる環境づくりを心掛け、共感と受容を心掛けてください」(濱野さん)

わが子の感じている気持ちに何らかの判断を下し、指示を与える態度は逆効果だと濱野さんは語ります。共感と受容とは、わが子が感じている気持ちをそのまま感じる状態を言います。まずは、この大前提を心掛けたいですね。

死んでしまった理由を正確に伝える

とはいえ、共感と受容は、ペットの死を認識して悲嘆に沈むわが子を支える際の心構えです。

小さい子どもの場合、ペットの死を理解させるために、亡くなった事実を何らかの方法で伝える必要も一方ではあるはずです。

「死」という概念が重たすぎるために、あるいは子どものショックを軽くしたいと願い、死をごまかして伝えたくなる人もいるはずです。死そのものの伝え方は、どうすればいいのでしょう。

「子どもが悲しむ姿に向き合いたくないなどの理由から、ごまかしたくなる気持ちも分かります。

また、お子さんの年齢によっては、死を理解できないかもしれないと配慮したくなる気持ちもあることでしょう。

ただ、お子さんが一定の年齢に達したら、理解できる範囲で、ごまかさずに、死んでしまった理由を正確に伝えてあげてください。そのほうが、子どもの悲しみが複雑にならずに済みます。

例えば、幼稚園で飼っていたハムスターが死んでしまったため『そのうち帰って来るよ』と先生が伝えたり、違うハムスターを買ってきて入れ替えたりするようなケースが実際にあります。

先生からすれば、子どもたちへの配慮なのですが、ハムスターの帰りを子どもたちがいつまでも待ってしまうなど、悲しみが複雑になっていきます。

立ち会う機会があれば、ペットの死には立ち会ってもらう、その上で、なぜ死んでしまったのか、子どもの状態に配慮しつつ正確に伝えてください。病気で死んでしまったのならば、そのとおりに伝えます。

また、小さいカブトムシのようなペットであっても『さようなら』を伝えられる機会を用意してあげてください。愛情を注いだペットに対して『お花でもあげようか』などと言ってお別れの機会を設けるのです。

頭で死が理解できない幼い子どもでも、その弔いの経験を通じて何かを感じ取ってくれます

おじいちゃん、おばあちゃんとのお別れ、大切なペットのお別れ、これらの経験を通して、どんな生き物も等しく命は1つしかない、大切にしなければいけないと実感するのではないでしょうか」(濱野さん)

ペットの死をごまかさずに事実として伝える、その上で、子どもの悲しみに寄り添い、共感し、お別れの場面を設けてあげればいいのですね。

悲しい経験から立ち直るしなやかさと力

では、以上のような経験を経て子どもたちは何を学んでいくのでしょうか。

「子どもの年齢、発達の状況、ペットの亡くなり方、家族とペットの距離感によってさまざまです。一概には言えない部分があります。

ただ、全ての死に共通して悲しい経験があり、悲しい経験から立ち上がる・立ち直るプロセスがあります。この立ち直る経験がとても重要になります。

専門的な言葉で言うと、困難な経験からの回復をレジリエンスと言います。日本語にすると『回復力』に近いです。

植物の竹を連想してみてください。生竹は、大きな力を加えて折ろうとしても、しなるだけで折れずに元に戻ります。同じように、悲しい経験に直面してもポキッと折れない、悲しい経験から立ち直るしなやかさと力がお子さんに備わる可能性があります。

死の事実を曲解して伝えず、ありのままに伝え、悲しさに向き合わせる中で、共感と受容を通じて、子どもたちの立ち直りと回復を待ってください

その経験が、ポキッと折れない子どもを育て、つらい出来事に直面してもくじけずに進む子どもたちを育てるのです。

この回復力は、これからの時代、とても大事になってくるのではないでしょうか」(濱野さん)

以上が、ペットの死に直面した時に心掛けたい親の姿勢です。

死と直面し、悲しみ、時間と共に回復して再び歩んでいく、そんな子どもの姿を、もしかすると亡くなったペットは一番に望んでいるのかもしれません。ぜひ、参考にしてみてください。

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取材協力

濱野佐代子(はまのさよこ)さん
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科教授。獣医師、公認心理師、臨床心理士。放送大学客員教授。同大学獣医学科卒業。白百合女子大学大学院博士課程発達心理学専攻、博士(心理学)。帝京科学大学教授などを経て現職。専門は人と動物の関係学・生涯発達心理学。著書『人とペットの心理学-コンパニオンアニマルとの出会いから別れ』(北大路書房)、『「ペットロス」は乗りこえられますか?-心を支える10のこと』(KADOKAWA)、共著『日本の動物観-人と動物の関係史』(東京大学出版会)、分担執筆『新乳幼児発達心理学第2版-子どもがわかる好きになる』(福村出版)など。

取材・文/坂本正敬

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