RISU代表 今木 智隆(以下、今木):本日は、プロ棋士・戸辺 誠 七段にお越しいただきました。
戸辺 誠 七段(以下、戸辺):こんにちは!
今木:今日は将棋をテーマに、子どもへのアドバイスや学習へのヒントについてお話を伺えればと思います。私も将棋が大好きなので楽しみにしていました! ぜひプロ棋士の視点から、子どもたちが自分の力を最大限に発揮するためのヒントを探っていきたいと思います。
目次
やりたいことのために、やるべきことを効率化
今木:早速、プロ棋士になろうとしたきっかけからうかがっていければと思います。
戸辺:一番のきっかけは家出で(笑)
今木:えっ!家出がきっかけですか?(笑)
戸辺:実は何回か家出してるんですよね(笑)。中学校一年生の時ですが、英語が本当に嫌いで、ローマ字の概念すらわからなかったんですよ。
今木:え?!英語が嫌いで家出をしたんですか?
戸辺:実はうちの親がけっこう厳しくて「なんでこんなのもわからないんだ」って。夏休みとかは家に閉じ込められて。棋士になるか、学校に行くか選べみたいに言われて。
今木:なるほど、親が厳しいのと、将棋が好きすぎて家出したみたいな感じですね。
戸辺:将棋のプロを目指すための奨励会というのがあって、早いと小4、小5ぐらいからだいたい中学生くらいでみんな入会するんですね。以前は平日で月に2回開催していたので、学校を休んで通ってました。地方の子とかは1回の大会で2日ぐらい休まないと参加できないんですよね。
今木:なるほど、将棋をやりたくて奨励会に参加するためには学校を休まなければいけないんですね。小中学校なので、好き放題休めるわけでもないですよね。やりたいことを追求するためには、やらなきゃいけないことをどう効率化するかが求められますね。
やりたいことのために、やるべきことを効率化する
やりたいこと「将棋」のために学校を休まなければならなかった戸辺誠 七段。将棋に集中するために登校や英語の壁と向き合い、学校や親などさまざまな制約の中で選択肢を模索した結果が、今のプロ棋士としての道につながったんですね。
何かを本気で追求するためには、不要な負担や非効率な作業を減らし、必要なことに集中する環境を整えることが重要です。学習においても、子どもたちが自身のペースで効率的に進められる環境が求められています。例えば、RISU算数では、一人ひとりの特性や理解度に合わせた学び方を取り入れることで、学習の基礎をしっかりと確立する仕組みを提供しています。
このように、やるべき基礎を効率よく学ぶことで、子どもたちが本当にやりたいことに時間を費やすことが可能となります。
「努力」と「効率」が才能を伸ばすサポート役
戸辺:奨励会については現在、土日に開催されてるので、大学に進学する子も増えてきましたね。いいところもたくさんあるんですけど、私が感じている変化としては、棋士になるデビューがみんなちょっと遅れてるかなと思いますね。
今木:それはあるかもしれないですね。
戸辺:ひと昔前までは才能があった子が将棋一筋で、プロ棋士に進むことが一般的でした。例えば、スポーツでいえば運動神経のよい子が、その才能のままプロになってみたいなイメージです。
今木:いわゆる天才型というか、持って生まれた才能ですね。
戸辺:今の子だと学業もやらなきゃいけないから(出来てしまう)、トータル的に見ると学校の勉強ができる子が将棋に強くなっているイメージはありますね。
今木:なるほどね。将棋もやりたいけど勉強もしないといけないですから、効率を求めるようなイメージですかね。
戸辺:確かに将棋は指手や戦法を学んだりする分析の時間と、実践の時間を確保しないといけないですからね、学生の時は効率の良さを求められると思います。
あとは一つのことに黙々と取り組めるような子とかが将棋においては強いかな。天才型よりも秀才型というか根性型っていうんですかね。努力すれば成果が出せるような。
今木:なるほど、努力できる子が効率的に学習を進められると強い、ということですね。将棋でも学業でも、そうした積み重ねが実力に直結するイメージがわかります。
将棋と学習に共通する「効率化がもたらす好循環」
学業と将棋を両立するには、効率的な取り組みが欠かせません。学業を進めながら将棋の実践や分析の時間を確保するには、時間の使い方を工夫する必要があります。
学習の場においては、例えば目標を小さく分けて達成感を積み重ねたり、個々の理解度に応じた無理のない学習プランを取り入れたりすることで、学習意欲を高めることができます。そのような仕組みで学習サポートをおこなうRISU算数のような教材にサポートしてもらいながら効率よく学習を進めるのも一つの手段です。自分に合ったスタイルで柔軟に学びを進めることが、将棋にも学業にも共通する成功の秘訣といえるでしょう。
将棋とスポーツが教える「負けの学び」
今木:才能があるっていうのは何をやるにしてもいいことですよね、天才肌といいますか。
戸辺:羨ましいですよね(笑)才能があれば、ある程度までできちゃうことってあるじゃないですか。でも、そういった人が壁にぶつかった時に、どうしていいかわからなくなることがあるんですよ。
今木:あるあるの話ですよね。才能があるからそこまで努力をしてこなくてもできるって、どんな分野でも共通してそうですね。
戸辺:例えばですが、才能がないというか、できないから努力してるパターンの場合、できない時はどうやったらいいのかって方法を考えるわけですよ。野球で例えるとバットにボールが当たらないなら、次からは少しバットを寝かせて構えようかとか。
今木:ボールが来るのに対して、当たるのは面ですからね。
戸辺:どうやったらできるようになるかなって考えるのがとても大事なんですよ。将棋の世界も一緒で、プロ棋士も才能がある人が多いから、なんでできないのかがわからないことって往々にしてあるんですよね。
今木:なるほど、才能があることは素晴らしいことですが、できなくなった時、いわゆる壁にぶつかった時にどう努力すればいいのか、誰も教えてくれませんよね。将棋でいうと負けた時、人って初めて考えるじゃないですか。
戸辺:しかも自分で「参りました」って認めますしね。
今木:そうですよね、スポーツとかだと生まれ持った体格とかがあるけど、将棋は完全イーブンからスタートしますからね。
戸辺:あと他の競技はけっこう第三者による判定もありますよね。審判がいるので、負けたのはジャッジのミスのせいだとかの言い訳ができるんですけど、やっぱり将棋は自分で参りましたって言わないといけないから。しかも1対1なので、言い訳のしようがないですよね。
大事にしたい「失敗から成功へのプロセス」
才能だけで乗り越えられない壁に直面したとき、努力の仕方や課題の克服方法を考える力が必要です。将棋の世界では、自身が「参りました」と負けを認めることで、自らの弱点や改善点を見つめ直すきっかけになります。
学習でも同じように、つまずきを認識し、それを解決するための方法を見つける成功へのプロセスが重要です。野球でいうと打てないからどうしたら打てるのかと考えたり工夫したりします。そのプロセスが成功体験として刻まれると、脳的にもプラスに働きます。
早い段階で失敗を経験することも、そのプロセスを考える事も、より大きな成長につながるでしょう。
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子どもに答えは教えない、見守るスタイルが重要なワケ
戸辺:指導者の関わり方として、将棋でいうと助言しちゃう方とかよくみます。
今木:学習も一緒で、保護者が問題解いちゃう場面はよくあります。
戸辺:子どもに将棋を教える時、「次はここだ」みたいに言っちゃうパターン。あと野球でもそうですね、結論を教えちゃうという状況。
応援してるはずなのに、技術指導が入っちゃう時とかありますよね。
今木:野球もそうですね、「気持ち入れろ」とかだとまだいいですが、内角高めだとかいいだすと面倒ですね(笑)。僕も少年野球やってたのでね。
戸辺:ちなみに今木さんはなんで将棋始めたんですか?
今木:将棋再開したのこの3年くらいなんですよ。ブランクはけっこう長いんですけど、ずっと見てはいました。子どもに教えようとしたのがきっかけですかね。やはり面白いと思い再開しました。
あと振り返ってわかったのは、当時は父親が強すぎて一回も勝てなかったことが嫌になった理由ではないかと思っています。周りにだれも将棋をやってる人がいなくて、父親以外と対局したことがなかったんですよね。
戸辺:心が折れることもありますよね。実はうちもけっこうスパルタで(笑)。
今木:うちも親は勝たせてくれなかったです。親をいつ抜いたんですか?
戸辺:技術的には抜いてたと思うんですけど、やっぱり前向きに抜けないと。勝つことはできても、全体的な作りと考え方には絶対抜けないなって思ってました。あんまり褒めてくれなかったです。
今木:本当にそうですね。僕も親に褒められた記憶はあまりないです。親ってそうですよね。今の価値観とはちょっと違いますね。
戸辺:私は今でも子どもと弟子に対しては褒めないです。いまの時代って、僕が褒めなくても周りからはすごい褒められるから、十分かなって。
今木:周りが褒めてくれる環境があるからこそ、師匠や保護者は少し距離をとって見守る役割が大事かもしれないですね。そして、将棋でいうと次の手、学習でいうと解法や答えを先回りして教えるのは、やっぱり避けたいですよね。師匠や親が「考える力を養う機会」を奪ってしまいます。
教えすぎない勇気を持つことが「考える力を育む」
子どもたちが自らの力で問題に向き合い、試行錯誤する時間は何より貴重です。先述の失敗から学ぶプロセスにもいえることですが、なにより「自分で考える」クセをつけることが子どもには重要です。褒めすぎず、答えを教えすぎないことで、考える力や自立心を育むことができます。
師匠や保護者としての役割は、「見守ること」。決して放置するわけではなく、子どもたちが自ら考え、試行錯誤できる環境をバランスよく整えてあげることが大切です。
才能で乗り越えられるレベルと、その先に必要な“基礎力”の差
今木:先ほどの話じゃないけど、将棋ってある程度勉強ができると勝てるという現実がありますよね。「なんだ、将棋できるじゃん」って思ってしまう人が多い気がします。
ですが、初段くらいなのか二段なのか、そのくらいで上達しなくなるって話はよく聞きます。
戸辺:そうですね、才能と頭が良いとある程度までは進めますよね。よく聞くのは、二~三段くらいですかね。壁というか。
今木:そうそう、ある程度までいくと、壁にぶつかるんですよ。それぞれの段に壁があり、知の局面で戦っていかないといけないみたいなイメージです。
戸辺:才能だけで行けるラインがその辺りですかね。さっき言ってた話と同じで、野球だったら、ある程度才能とか運動神経でカバーできるけど、ある程度壁にぶつかると、そこからは、じゃあ野球に特化した勉強をしなきゃいけないので、基礎に戻るかみたいな。
今木:そこから基礎に戻れるかって、けっこうしんどいですよね。能力だけで行った後に、野球でいうと素振りを始めないといけないような感じですね。
戸辺:「いや、俺はこのやり方でここまで来たから」っていうプライドがあるから、なかなか受け入れられない時もあるでしょうね。
今木:そうですね、将棋でいうと、このやり方でやってきたその延長に二段があるような気がするんだけどな・・・行けない・・・みたいな感じですね。
戸辺:やり方とか視点を変えられるかってポイントですよね。良い指導者は、「じゃあ、君のやり方のこの部分、長所だから」って具体的にアドバイスくれたり、全く違うやり方だと困るんだけど「君、すごい豪快な振りしてるね」みたいに個性や努力を認めた上で伝えてくれますよね。
こうしたアプローチは、本人が自分の良いところに自信を持ちながら視点を変えるポイントとなり、基礎を振り返るきっかけにも繋がると思います。
壁にぶつかったときは大胆に「基礎」まで戻る勇気を持つ
才能や運動神経だけである程度まで到達できるのは事実ですが、そこから先に進むためには「基礎力」の見直しが不可欠です。将棋でも野球でも、初期の成功体験や慣れたやり方に固執すると、新たなステージで壁にぶつかったときに立ち止まってしまいます。
その場合は大胆に、「基礎」固めを見直すことが最も重要です。算数で例えると、理解が不十分な単元をしっかりと見直し、積み重ねることで、応用力が自然と身につきます。
今木:本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。先生のご経験や将棋を通じた学びについてのお話は、非常に興味深く、そして多くの気づきを得ることができました。
特に、「失敗を認めること」や「基礎に立ち返る勇気」といったテーマは、将棋だけでなく、私たちが日々直面するさまざまな課題にも通じるものだと感じました。また、AIを活用した新しい学び方や、努力の大切さを再認識するお話も、教育に携わる者として非常に参考になりました。
戸辺:こちらこそありがとうございました。みなさんも自分の好きなこと・やりたいことを追求するために効率化を考えたり、どうしたら勝てるのかを考えたり、自分自身の学びを深めるように日々考えるクセをつけられるとよいですね。
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対談者プロフィール
神奈川県出身のプロ棋士。若くして奨励会に入り、将棋の実力を磨き、数々の公式戦で輝かしい成績を収めています。七段に昇段後もその柔軟な発想力と着実な戦術で、多くのファンを魅了。ユーチューブチャンネル『戸辺チャンネル』を運営中。将棋の対局解説や戦法の紹介、初心者向け講座など、幅広い内容で将棋の魅力を発信しています。視聴者との交流を大切にし、将棋をもっと楽しく、わかりやすく伝えることを目指しています。
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協力/RISU Japan株式会社、 構成/HugKum編集部