学校の「宿題廃止」に賛否両論。その意図とは。メリット・デメリット、導入校の例を紹介【最新教育事情を知る】

「小学校の宿題がなくなる」と聞けば驚く人も多いでしょう。なぜ今、宿題廃止の動きが起こっているのか、不思議に思うかもしれません。宿題をなくした場合のメリット・デメリット、宿題廃止を導入した小学校の例からその目的を紹介します。

日本の学校に広がる宿題廃止の動き

小学校の宿題といえば、毎日出される計算ドリルや漢字の書き取りを思い出すかもしれません。現在、いくつかの小中学校で、夏休みの自由研究や読書感想文、毎日の宿題をなくす改革が行われています。宿題廃止の理由や背景を見ていきます。

夏休みの宿題や毎日の宿題をなくす学校が出てきた

ここ数年、小学校や中学校において宿題廃止の動きが起こっています。2024年の夏には、夏休みの宿題を廃止した小学校が話題になりました。さらに、2022年度や2023年度から普段の授業で出す宿題をやめた学校もあります。

宿題廃止の目的は、子どもが自分から学ぶ姿勢を育てることです。子どもの学力に関係なく全員に同じ課題を与えるやり方は、子どもの学ぶ意欲を失わせているという意見もあります。

宿題廃止は、生徒自身が自分のレベルや興味に合った課題に取り組むための新しい試みです。

背景にある教師の長時間労働と人手不足

宿題廃止の背景にあるのは、教師の長時間労働とそれによる人手不足です。文部科学省による2022年度の「教員勤務実態調査」では、一般的な教師の1日当たりの在校等時間は、小学校・中学校ともに約11時間という結果が出ています。

夏休みや毎日の一律的な宿題をやめることは、教師の働き方改革の一環でもあります。あまり効果の見られない学習方法をやめ、教師がより質の高い授業・教育方法に集中できるようにするためです。

授業の質が高くなり、教師が以前よりも生徒と向き合えるなら、宿題廃止は子どもやその親にとっても意味があります。

出典:教員勤務実態調査(令和4年度)集計【速報値】 ~勤務時間の時系列変化~ p1|文部科学省

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宿題廃止で考えられるメリット

宿題廃止と聞けば子どもは喜ぶかもしれませんが、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。子どもに与える教育効果や家庭への影響をチェックします。

子どもの主体的に学ぶ力を伸ばせる

子どもの興味や理解度を考えない一律な宿題は、子どもに勉強嫌いを植え付ける可能性があります。

興味のない勉強を仕方なくやっていると、言われたことをただ事務的にこなす受け身の姿勢も強化されてしまうかもしれません。

また、クラスの全生徒に同じ宿題を出す場合、学習内容はクラスの中間レベルに合わせたものになります。学力の高い子どもや低い子どもにとっては、あまり役に立たない課題になるでしょう。

一律の宿題を廃止して自主的な学習に取り組ませたほうが、子どもの学ぶ力を伸ばしてレベルに合った学習ができるメリットがあります。

宿題に関わる親や子どものストレスを解消

学校が終わった後も部活動や塾で忙しい子どもにとって、宿題は大きな負担になります。勉強にばかり偏った生活は、子どもにとって健康的とはいえません。

人間的な成長全体を考えるなら、子どもが家族とゆっくり過ごす時間や自分の時間を持つことも重要です。

また、宿題がなければ、家庭学習における親のストレスも軽くなります。親が子どもに宿題をやらせようとして、親子げんかになることもなくなるでしょう。

宿題廃止で考えられるデメリット

当たり前のようにあった宿題がなくなれば、家庭での子どもの勉強がどうなるのか心配する親は多いでしょう。宿題廃止で考えられるデメリットも確認します。

基本的な学習習慣が身に付かない

宿題がないと、放課後に遊んでばかりいて復習しない子どもが増えるかもしれません。たとえ内容がつまらなくても、宿題に毎日取り組むことは、勉強習慣を身に付ける効果があります。

ちょっとした課題でも、毎日こなして先生からフィードバックをもらうことは、達成感や自信にもつながります。

よく宿題に出される計算ドリルや漢字の書き取りのような反復練習も、基礎知識を覚えるのに大切です。

宿題廃止は、子どもの成績低下を招く可能性があります。小中学生のうちに自己管理能力を身に付けられるかどうかは、高校・大学における学習や社会人生活にも影響します。

塾に行けない子どもの学習機会が減る

塾に通って、さらに宿題をすることは子どもにとって負担です。しかし一方で、家庭の事情で塾に行けない子どももいます。

宿題がなくなった場合、そういう子どもやその親は、家庭学習をどのように進めればよいのか分からなくなってしまうかもしれません。

家庭学習の指針がなくなれば、せっかく子どもに学習意欲があっても、効果的な予習・復習を進められないでしょう。

宿題には、家庭学習の機会を平等に与える側面もあります。宿題廃止は、塾に行けない子どもと塾でフォローしてもらえる子の格差を広げてしまう可能性があります。

宿題廃止の導入例

実際に宿題廃止を導入した、「山形県新庄市立日新小学校」「東京都新宿区立西新宿小学校」の例を見ていきます。まだ始まったばかりではっきりした結果は出ていませんが、どのような目的から宿題廃止が行われたのか紹介します。

山形県新庄市立日新小学校

山形県新庄市の日新小学校は、2023年4月から学校から出す毎日の宿題をなくしました。長期休暇の課題も、おさらい帳を配るだけで提出義務はありません。自由研究や読書感想文の提出も自由になりました。

宿題廃止の目的は、一方的で受け身な姿勢ではなく、子どもに自主的に学ぶ喜びを覚えてもらうことです。自分で取り組み成果を出していくことは、変化が予測しにくい現代社会の中で必要な能力です。

子どもの親からは賛否両論の声が上がっています。学校では、家庭学習における問題を子どもと話し合う機会や、その結果を親に伝えるなど、問題解決への取り組みを進めています。

東京都新宿区立西新宿小学校

東京都新宿区立西新宿小学校では、2023年から学期中の宿題・単元ごとのテスト・通知表をなくしました。夏休みの課題も、希望者が自分に興味のあることを出す形式です。

常に他の子どもと競わされ比較される学習は、子どもの自己肯定感を低くしてしまう点で問題です。宿題廃止は、子どもそれぞれの長所を伸ばす教育にしたいという思いが込められた改革です。

授業だけで理解しきれない子どもには、担任の補習などでフォローをしています。親との面談も1年に2回行い、学校での子どもの様子を詳しく伝えるよう工夫しています。

宿題廃止に効き目はあるのか?

宿題廃止に効果があるのか知るためには、まずどのような宿題なら学習効果が高いのか理解する必要があります。東京大学の研究から適切な宿題の出し方を見ていきましょう。また、宿題に代わる家庭学習のサポート例も紹介します。

宿題は量より質が大事

宿題の効果を研究したものに、東京大学の大学院教育学研究科による2019年の研究「学習における宿題の役割に関する心理学的検討」があります。

この研究によれば、授業の予習復習といった宿題は、ただ量をこなすだけでは効果が弱く、取り組み方が大切です。

宿題は、授業前後の出すタイミングやどのような能力を伸ばしたいかで、アプローチ方法が変わります。宿題をより成績に結び付けるには、進め方のモデルを見せることや子どもが頭を使うように仕向ける工夫などの質がポイントです。

宿題がなくなっても、この点を押さえた指導ができれば、宿題廃止のデメリットを補えるでしょう。

出典:学習における宿題の役割に関する心理学的検討p5、6|東京大学院教育学研究科

宿題に変わるサポートが必要

宿題をただ廃止するだけでは、子どもも親も家庭の自主学習をどのように進めればよいのか困ってしまうでしょう。結果として、子どもが家庭学習をしなくなったり、いい加減にしてしまったりする恐れがあります。

山形県新庄市立日新小学校では、宿題に変わる仕組みとして家庭用の復習プリントを用意しました。何種類かのプリントから、子ども自身が勉強したいものを選びます。提出も義務ではありません。宿題廃止の際は、このように家庭学習の指針となるサポートが必要です。

宿題廃止校を選ぶなら代替案までチェックしよう

もし、子どもの通う学校が宿題廃止を掲げたら、「家での勉強はどうすればいいんだろう?」「成績が落ちるのではないか」と、不安に思う親は多いでしょう。

例に挙げた山形県新庄市立日新小学校や、東京都新宿区立西新宿小学校では、宿題廃止に当たって、教職員同士の話し合いや保護者説明会などが行われています。丁寧な対話や、宿題に代わるサポートの仕組みによって、周囲の理解が得られていきました。

宿題廃止校に子どもを入れたいと思うなら、学校説明会やパンフレットで、宿題に代わるサポートがどのようなものか確認しましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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