子どもの肥満を防ぐのは「十分な〇〇、そしてバランスの良い食事と運動」。体重管理のポイントを専門家に聞く

「太り気味の子どもの食事、減らすべき?」「体重管理って何をすればいいの?」そんな子どもの「肥満」に関する悩みを抱えるママパパ向けに、【分析編】【対策編】の前後編に分けて「子どもの肥満との正しい向き合い方」を特集。
後編【対策編】となる本記事では、子どもの「肥満」に焦点をあてたアンケート調査(対象:HugKumメルマガ会員617人)の結果をお伝えした上で、子どもの発育の研究に長年携わってきた小林正子先生に、適切な対策についてお話をうかがいます。

前編では子どもの肥満についての分析を行いました。

子どもの体重管理のために気をつけていることは?

まず、みなさんからの回答を集計したアンケート結果を見ていきましょう。

【調査概要】回答者:HugKumメルマガ会員617人 調査時期:2024年11月 調査方法:インターネットアンケート

お子さんの体重管理のために「食事の面で」気をつけていること

 

「食事の面で」気をつけていることとしてもっとも多かったのは、「栄養バランスのとれた食事(353票)」。次いで、「野菜や繊維質が豊富な食事(276票)」「たんぱく質が豊富な食事(220票)」が続き、食事の栄養バランスを考慮するものが上位を占める結果となりました。

「しょっぱい味(塩分)や濃い味をひかえる(167票)」「おやつや間食で食べるものを気をつける(167票)」「砂糖や甘いものをひかえる(140票)」のような、特定の食べものを控える回答はその後に続きます。

「その他」としては、以下のような回答も見受けられました。

夕飯はなるべく早く済ませて寝るまでの時間を長く取るようにしています。[女性]

ゆっくりよく噛んで食べるよう言っている。[女性]

体重管理のために「生活面で」気をつけていること

 

 

体重管理のために「生活面で」気をつけていることとしては、「運動を促す(128票)」が最も多く、票数に大きく差をつけて「体重について本人に注意し意識させる(59票)」「栄養や食についての正しい知識を与える(59票)」が続きます。

「その他」としては、以下のような回答が寄せられています。

毎日のおやつは親が管理して、食べすぎないように少なめに出しています。[女性]

お菓子を買う時にカロリーを一緒に見るようにしている。[女性]

自分の体重を気にする我が子にしてあげたい対応

 

自分の体重を気にする我が子にしてあげたい対応としては、「食事の面でアドバイスやサポートを行う(425票)」が最も多く、「いっしょに運動する(382票)」が続く結果に。

2位と100票以上の差がありましたが、「本当に太っているかどうか数値で確認する(206票)」「(体重より人柄が大事、体重も個性のうちなど)気にしないよう言ってきかせる(113票)」にも多くの票が寄せられました。

「その他」の回答としては、以下のようなものもあります。

骨格や筋肉の違いを伝えた。[女性]

子ども自身が体重関係なく魅力的であることは伝えつつ、日本は特に見た目が重視される傾向にあるので、具体的な対処として食事や運動を一緒に取り組む。[男性]

実際に効果があった肥満対策は?

実際に効果があった肥満対策としては、「効果は感じない・現在奮闘中(53票)」がトップに挙がり、難航しているご家庭が多いことがわかります。

以下、票がばらついた印象ですが、「野菜や繊維質が豊富な食事(43票)」「栄養バランスの取れた食事(42票)」が上位となりました。

「その他」として寄せられた回答では、以下のような運動に関連したものが目立ちます。

週に2回、一緒に夕方走るようにしました。[女性]

スイミングをはじめた。[女性]

食事ではなく運動習慣や外遊びに連れ出すことが効果的でした。[女性]

食事だけでなく、運動と十分な睡眠。小林先生に聞く子どもの体重管理のポイント

アンケート結果を受けてお話を聞かせてくださったのは、前編記事に続き、子どもの発育に詳しい女子栄養大学客員教授の小林正子先生。子どもの体重管理について気をつけたいポイントや対策を教えてくださいました。

食事の「時間」は意外と重要!

(以下、小林先生談:)アンケートには「夕飯を早く済ませて、就寝までの時間を長く取るようにしている」との回答がありました。栄養バランスの整った食事を摂ることは基本ですが、同じくらい、食事を摂る時間も大切です。夕食と就寝時間までの間隔が短いと、代謝が十分に進まないため太る原因になり得ます。

「早寝・早起き・朝ごはん」という標語がありますが、最初の「早寝」を実行することが第一の課題です。夜中の12 時過ぎに分泌される成長ホルモンは深い睡眠状態でないと分泌されません。そのため、遅くとも11時には眠りにつきたいところです。

しかしながら、小学校中学年以上になって塾通いが始まったりすると、就寝時間が次第に遅くなりがちではないでしょうか。遅寝の習慣がつくと、身長の伸びにも悪影響を及ぼしますし、体重も増えてしまいます。

文部科学省が毎年行っている学校保健統計調査では、小4から中1までの男子の肥満傾向児(肥満度20%以上)出現率は、全国平均で12〜13%台と高くなっています(平成5年度調査の全国平均値)。女子は9%台ですが、これは、女子の場合は身長のスパートが始まる時期であることが関係しているためです。男子は中学1年生くらいからスパートするので、まだ身長が低く肥満度が高い傾向にあると言えます。

この時期の親は本当に大変ですが、肥満を防ぐためにも、夕飯を遅くせず、就寝時間を遅らせないことを念頭に時間の使い方を工夫していただければと思います。

夏休みなど、長期休暇中の体重増減対策は?

(小林先生:)アンケートでは「長期休暇中(夏休み・冬休みなど)に体重が増えた」といった回答も散見されました。これについては、私が従来から指摘していることでもありますが、生活習慣の乱れが原因であると考えられます。

たとえば夏休みでは規則的な生活を送らなくても済む日が40日近く続き、「遅寝・遅起き・朝ごはん抜き」のような生活に陥りがちです。生活リズムが狂うことは、身体リズムが狂うことにもつながります。

痩せやすい季節・太りやすい季節がある

(小林先生:)また、夏休み中に体重が増えると、肥満につながることが明らかになっています。

発育には季節変動があるのをご存じですか。もともと日本の子どもは春と夏に身長が、秋と冬に体重が増加するのが正常なリズムとされてきました。そのため、元来の日本では、夏には体重が増えないのが普通とされてきたのです。

つまり、夏に体重が増えるのは異常なリズムであり、それは身体リズムの乱れに直結します。病気でも何でも、からだに悪い症状が出た時は身体リズムが乱れますが、その逆もしかりで、身体リズムの乱れは肥満や痩せを含む不健康状態を招きます。小学校での6回の夏休みのたびに不規則な生活を送っていると、卒業時には本当に肥満になっている可能性が高くなります。

大事なことは、休み中でも生活リズムを大きく狂わせないこと。これは太っていても痩せていても、たとえ標準であっても守るべきことです。なるべく「早寝・早起き・朝ごはん」の生活習慣を維持し、からだ動かすことも忘れないようにしましょう。

睡眠不足も肥満の原因に!

(小林先生:)睡眠中に食欲を促進したり抑制したりするホルモンが胃から分泌されるということが最近明らかになってきました。さらに、睡眠が不足するとグレリンというホルモンが出て、食欲が亢進され、代謝も落ちると報告されていますから、睡眠不足も肥満の原因になると言えます。

しかしながら、日本の子どもの睡眠時間は世界的に見て非常に短いのです。2000年まで毎年少しずつ伸びていた身長の平均値がそれ以降横ばいで、時には低下さえ見られる傾向は、睡眠不足が一因になっていると考えられます。

そんな子どもの睡眠時間・睡眠の質の低下には、スマートフォンの浸透も関係していると言われます。発育と心身の健康のためにも、スマホの使用については家族でルールを定めておきたいものです。

もしも子どもが自分の体重・体型を気にしていたら…?

(小林先生:)人間は子どもでも大人でも皆それぞれ違っており、個性というものがあります。痩せていてもがっしりしていても、元気な人もいればそうでない人もいますし、標準体型なら元気かというと弱々しい感じの人もいます。それでも広い意味で健康であれば、どのような体型も個性として認められるべきです。

中には、実際には肥満度−20%くらいで痩せているのに、「自分は太っている」という間違った認識を持つ子もいますが、親も子ども本人も、単に見た目や思い込みで心配するよりは、きちんと肥満度を知ることが大切です。それでも心配であれば小児科医に相談し、子どもの状態を客観的に把握しましょう。

そして、生涯にわたる健康で美しい身体を作るためにできることは、栄養バランスの良い食事と、運動、十分な睡眠です。成長期に過度な食事制限で行うような間違えたダイエットをするのは禁物。必要以上にやせようとするのは、結果的に自分のからだを損なうことにつながります。自分の体型について正しい認識と自己肯定感を持ちましょう。

大切なのは、正しい認識を持って適切に対策をすること

本記事では、617人のママパパが子どもの体重管理で気をつけていることのアンケート結果をご紹介した上で、実際に重視したいポイントを小林正子先生にお聞きしました。

栄養バランスの良い食事や運動の大切さは分かっていたものの、食事の時間や睡眠時間も大切であることは意外に感じた方もいるのではないでしょうか。また、大切なのは体重だけで「痩せ」「肥満」を判断せず、成長曲線や肥満度を確かめること。正しい認識を持って、適切に対策をしていきましょう。

▼成長曲線や肥満度の確かめ方については前編記事を参照

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小林正子先生の著書『子どもの異変は「成長曲線」でわかる

小学館新書 990円(税込)

教えてくれたのは

小林正子先生 | 女子栄養大学客員教授
お茶の水女子大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
東京大学教育学部助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を経て、2007年から2020年まで女子栄養大学教授。
発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる!』(小学館新書)

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