岸田政権との関係強化に尽力したユン大統領
ここ数年、日韓関係は極めて良好でした。2022年5月、ユン大統領が就任以降、対北朝鮮で日本や米国との関係を重視する同大統領は、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)を完全に正常化し、元徴用工の訴訟問題を巡っては率先して解決策を発表するなど、日韓関係の改善と強化に尽力しました。

現在日本の周辺では、中国による海洋進出や台湾有事をめぐる緊張、核ミサイル開発を続ける北朝鮮。そして、北朝鮮との軍事的結束を強めるロシアなど安全保障環境が厳しさの度合いを深めており、唯一協力できる国が韓国。そういう意味で、ユン大統領は日本にとって極めて重要な存在でした。
突然宣布された非常戒厳
しかし、2024年12月はじめ、ユン大統領は来年の予算案をめぐる野党側の対応などを理由に非常戒厳を宣布。これにより、事実上国内では一切の政治活動が禁止され、メディア報道は完全に統制されることになりました。
韓国で戒厳令が発出されたのは50年ぶりのこと。最大野党である「共に民主党」などが民主主義の根幹を揺るがす暴挙だと反発を強め、国会では政治家や市民と、軍の間で激しい衝突が起こりました。翌日4日早朝には非常戒厳は解除されましたが、混乱は今でも続き、予断を許さない状況です。
12月半ばには弾劾訴追案が可決され、ユン大統領の権限は停止。現在、捜査当局に拘束されているユン大統領が職に復帰することはないでしょうから、日本としては次の大統領が誰になり、どのような対日政策を打ち出していくのかを考えなければなりません。
次期大統領候補は韓国のトランプと揶揄される反日派の李在明氏
現在のところ、次期大統領として有力視されているのが、最大野党「共に民主党」の李在明氏。李氏は長年にわたり、歴史問題や対応に強い不満を抱いており、反日の急先鋒と言われています。
また、今回の戒厳令発出の時も、「共に民主党」の支持者たちに国会に集まって抗議の声を上げようという動画を配信するなど、2021年1月の米国連邦議会占拠事件におけるトランプ氏のような存在感を示し、韓国のトランプとも揶揄されています。
仮に、李氏が新大統領となれば、ユン政権下の日韓関係は後退することが避けられないでしょう。具体的にどういった主張やトーンで臨んでくるかは分かりませんが、少なくとも政治的には難しい関係になります。
5年ごとに大統領が変わる韓国政治
日韓の経済や文化の領域にまで、すぐに暗い影が生じるわけではありませんが、我々は韓国政治を1つの変数と見ることが重要です。
韓国の大統領は1期5年であり、再選はありません。要は、5年ごとに親日的、反日的な政権が誕生する可能性があり、良好だった関係が一気に後退する、悪かった関係が一気に改善に向かうという現象が生じやすいのです。
しかし、米国の影響力は低下し続け、世界の分断がいっそう進んでいる今、日韓関係の重要性は増すばかりです。韓国では政権によって対日姿勢が大きく変わりますが、現実の安全保障を意識した姿勢が強く求められています。
この記事のポイント
①ユン大統領が就任以降、良好な日韓関係が続いていた
②2024年12月、非常戒厳を宣布したユン大統領の弾劾訴追案が可決され、ユン政権は停止
③次期大統領の就任により、良好だった日韓関係が後退する可能性がある
記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。
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