シリアのアサド政権がついに崩壊。注目の新指導者・ジャウラニはどんな人?【親子で語る国際問題】

今知っておくべき国際問題を国際政治先生が分かりやすく解説してくれる「親子で語る国際問題」。今回は緊張の高まる中東のシリア情勢について学びます。 
※写真はシリアの旧国旗。

依然として紛争が収まらない中東

中東では依然として緊張が続いています。2023年10月、イスラエルと、パレスチナ自治区を実効支配するイスラム主義勢力ハマスとの戦闘が激化。以降、ハマスとの共闘を宣言するレバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派など親イランの武装勢力も紛争に加担することになり、軍事的緊張は中東全体に影響を与えています。

しかし、軍事力の差は歴然としており、イスラエルによる攻撃でハマスやヒズボラは壊滅的なダメージを受け、今後はイスラエルがどうフーシ派に臨んでいくかがポイントになりそうです。

50年以上シリアで実権を握っていたアサド政権が崩壊

そのような中、昨年末、イスラエルとレバノンと国境を接するシリアで大きな変化が生じました。昨年11月27日、シリア北西部イドリブ県を実効支配する反政府勢力が大規模な進軍を開始し、アレッポ、ハマ、ホムスなどシリアの都市を次々に制圧し、ついには進軍から10日あまりで首都ダマスカスを解放し、アサド政権が崩壊しました。

アサド政権は親子2代にわたり、50年以上にわたってシリアで実権を握り、反対する市民を拷問したり、化学兵器を使用したりと、多くの人権侵害を主導。国際社会からは独裁政権として批判されてきました。

バッシャール・アル=アサド Photo by  Khamenei.ir
CC 表示 4.0 wikimedia commons

アサド政権が呆気なく崩壊した背景はいくつか考えられます。

まず、ロシアは長年にわたってアサド政権を軍事的に支援してきましたが、近年はウクライナ戦争にその多くを費やすことになり、アサド政権への支援が疎かになっていました。

また、イランも同様にアサド政権を支援してきましたが、親イランのヒズボラもイスラエルによる攻撃で組織的なダメージを受け、アサド政権を支援する余裕はありませんでした。

そして何より、アサド政権の腐敗や汚職が進み、政権軍の兵士の士気やモラルが低下していたことが原因です。進軍から10日あまりでダマスカスが反政府勢力の支配下に置かれたということは衝撃的な出来事で、アサド政権軍が本気で応戦しなかったことが考えられます。

新しいシリアを目指すジャウラニ。今後は?

では、今後のシリアはどうなっていくのでしょうか。アサド政権崩壊を主導した反政府勢力はシリア解放機構(HTS)という組織で、その指導者はアブ・ムハンマド・アル・ジャウラニという人物です。

アブ・ムハンマド・アル・ジャウラニ Photo by Mfa.gov.ua, CC BY 4.0 , wikimedia commons

ジャウラニはもともとイラクのアルカイダのテロ活動に参戦し、いわゆるイスラム過激派に所属していました。アルカイダとは、2001年9月11日の米国同時多発テロを実行した国際テロ組織です。しかし、ジャウラニはイラクからシリアに戻った後、アサド政権の打倒という目標に絞って武装闘争を展開し、アルカイダなどのイスラム過激派とは長年距離を置いてきました。

ジャウラニはイスラムの過激な思想は放棄し、民族や宗教、宗派を超えて新しいシリアを作っていくべく、国際社会との関係も強化していく方針を示しています。既に、中東諸国はシリアにある大使館の業務を再開し、航空機の往来も増えていきています。

しかし、ジャウラニがシリアを上手く束ねていけるかは未知数です。シリア東部などにはイスラム国という過激な集団が依然としてテロ活動を継続し、ジャウラニの方針に反発する勢力が台頭し、政権運営を阻害するような暴力をエスカレートさせていく可能性もあります。今年はシリアの動向から目が離せません。

この記事のポイント

①2023年10月以降続いている、イスラエルと、パレスチナ自治区を実効支配するイスラム主義勢力ハマスとの戦闘は、親イランの武装勢力も紛争に加担し軍事緊張が続いている

②50年以上にわたってシリアで実権を握り、人権侵害を重ねてきたアサド政権が崩壊

③シリア解放機構(HTS)の指導者はジャウラニという人物。今後、シリアを束ねられるかが注目される

記事執筆/国際政治先生

国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。

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