神尾楓珠、桜田ひよりから山本美月、江口洋介まで!世代を超えた俳優陣が共演

昨年、結成40周年を迎えた人気ロックバンドの爆風スランプが1985年にリリースした「大きな玉ねぎの下で」。スマホもインターネットもない時代に、ペンフレンドとの切ない恋を綴った名曲が、令和の時代に映画化されるという第一報を聞いた時、非常に心惹かれました。その反面、懐古主義が強すぎる映画になるのではないかという一抹の不安が……。でも、映画を観たら、そんな懸念は一気に吹き飛びました。これは今観るべき1本です!

爆風スランプの同曲といえば、パパママ世代はもちろん、その親世代にもかなり馴染みのあるナンバーかと。のちに「大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い」とリメイクされ、2000年代に入っても多くのアーティストがカバーしています。2019年には、ボーカルのサンプラザ中野くん自身が「令和元年Ver.」も発表。長年歌い継がれてきた名曲です
そんな同曲にインスパイアされた映画では、ストーリー原案を小説家の中村航が(同名小説やコミックが小学館より刊行、コミカライズもされた)、脚本を『東京リベンジャーズ』シリーズで知られる髙橋泉が手掛けました。なるほど、非常に繊細なストーリーテリングは、一流どころによるタッグ作ならではのものでした。
主演を務めたのは、ドラマ「最寄りのユートピア」や映画『20歳のソウル』、『恋は光』の神尾楓珠と、映画『バジーノイズ』や『ブルーピリオド』に出演し、現在ドラマ「相続探偵」に出演中の桜田ひより。ほかにも中川大輔ら旬な若手俳優がフレッシュな存在感を放ちつつ、山本美月、飯島直子、西田尚美、原田泰造、江口洋介ら実力派俳優陣が、要所要所で味わい深い表情を見せています。「大きな玉ねぎの下で」にふさわしい、世代の垣根を超えたオールスターキャスト陣のアンサンブルが心地よい!
ハードルを超えていく恋!「大きな玉ねぎの下で」が涙腺スイッチに

夜はバー、昼はカフェになる「Double」で働いている丈流(神尾楓珠)と美優(桜田ひより)。同じ場所にいるのに会ったことがない2人は、連絡用のバイトノートを通して交流を深めていきます。やがて、顔も知らないまま、2人は大きな玉ねぎの下で会う約束をします。
また、時を遡ること30年前、2人と同様に、顔を知らない文通相手との恋のエピソードが、あるラジオで紹介されます。やがて時を超えた2つの恋が交錯していき、1つの奇跡へと導かれていきます!

まずは、ラブストーリーの王道的要素である、すれ違い、思い違いに加え“人違い”と、3つのハードルを超える物語となっていて、観ている方は良い意味でかなりじれったくなります(笑)。でも、ハードルが多ければ多いほど、若者たちの恋は盛り上がるし、それに比例して、観ている私たちの高揚感もアップしていくのは言うまでもないこと。さらに観客は「もしかしてこれは!」という考察も楽しんでいけそう。
そしてスマホやSNSで“秒”でつながってしまう令和の時代に、手書きで心の声を綴りながら大切に関係を築いていくという描写が肝となった本作。親世代はノスタルジーに包まれ、不便だけどとても血が通っていたやりとりを懐かしみ、子ども世代は逆にそのやりとりをうらやましく見てしまうのではないかと。

言わずもがな、楽曲で映画のタイトルにもある「大きな玉ねぎ」とは、日本武道館の屋根の上に光る擬宝珠のことですが、タイトルロールらしく劇中でも堂々と鎮座しています。あるシチュエーションでは、若者たちを見守っているようにも思え、心にぐっときそう。また、歌詞の内容がわかっているだけに「大きな玉ねぎの下で」が流れたら、そのシンクロ効果で涙腺崩壊は間違いなし!
ネタバレは避けますが、本作にはいろいろな仕掛けがありますので、観終わったあとで、楽しく答え合わせをしながらアフタートークができるという特典もついてきます(笑)。また、爆風スランプのほかの名曲も、絶妙なタイミングで流れ、いちいち唸ってしまいそう。
親子三世代で楽しめる全方位型の感動作!

本作では総合芸術としての映画の醍醐味を改めて感じました。素晴らしいキャスト陣とスタッフが一丸となって、音楽から1本の映画を作り上げるというプロセス自体が素敵なことですが、今回その“成果物”である物語や映画音楽が、自分の想像を超えるところに着地していた点にも、ある種の感動を覚えました。
折しも、沖縄出身のバンド・HY の名曲からインスパイアされた映画『366日』がクチコミで話題を呼び、ぐんぐんと興行ランキングで順位を上げていき、なんと4週目で観客動員ランキング第1位獲得という快挙を成し遂げました。すでに映画館で観られた方も多いと思いますが、そんな追い風を受けた本作も、ぜひ音響設備の良い映画館で観ていただきたいです。
ちなみに私自身は、名作映画や名曲は、まるでタイムマシンのようだと思っています。そこに触れることで、一気に時代を飛び越えていけるから。世知辛い世の中を生きていると、時には世代間のギャップを感じてしっくりこないこともきっとあると思いますが、そういう時のコミュニケーションツールとしても、全方位型のエンターテイメント作品は最適なのではないかと。ぜひ本作を親子三世代で共有し、みんなで楽しんで観ていただきたいです!
映画『大きな玉ねぎの下で』は2月7日(金)より公開中
監督:草野翔吾 脚本:髙橋泉 ストーリー原案:中村航
出演者:神尾楓珠、桜田ひより、山本美月/中川大輔/伊東蒼、藤原大祐、窪塚愛流、瀧七海、伊藤あさひ、休日課長、和田正人、asmi/飯島直子、西田尚美、原田泰造/江口洋介…ほか
公式HP:tamanegi-movie.jp
©2024 映画「大きな玉ねぎの下で」製作委員会
文/山崎伸子